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14 怖い門番がいます

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「マークさん!」
「アミ君、どうしたんですか?」

 盛大に舌打ちをしたけれど、それは心の中で表面はお人好しの治癒術師のままだ。多分今一番会いたくない奴に会った。街の警備、特に門番の任務に当たっている俺より一つ二つ年下のアミ君。そう、昨日チューして来たアメジスト・アレインの仮の姿。竜騎士・極のアメジストの騎竜は王竜と言って竜の中でも位が高い。王竜に騎乗して飛び立ち、号令をかけると配下の竜達がやって来て一人で十匹以上の竜達を率いる。そんな怖い奴が門番をやっているのである、怖すぎ。
 ついでにそんな怖い奴が笑顔で走り寄って来たわけであり、どうも本気で狙われているような気もする……怖すぎである。

「ごめんなさい、同僚が怪我をして兵舎で唸ってるんです」
「それはいけません、すぐ案内して下さい」
「お願いします!」

 お人好しの治癒術師はこう言われたら絶対に断らない。それをわかっていても兵舎というプレイヤーが立ち入れない罠に自ら飛び込んで来いと誘われてしまった。
 アメジスト・アレインは門番アミとして何もおかしくない立ち回り、マラカイト・凛莉は治癒術師として何もおかしくない立ち回りで街を走っていく。どこも何もおかしくない、街で起こる日常とも呼べる一コマ。
 ただ、俺たちの内心は馬鹿みたいにざわついている。マークがマラカイトだと知って街の人しか立ち入れない場所に誘い込むアメジスト。入ったら抜け出せない罠だとわかっていてもマークを演じる為には飛び込まざるを得ない俺。ついでにいえば俺はさっさと家に帰りたかったんだが!!

「急がせてすいません! はこっちです」
「は、はい」

 街の警備兵達の兵舎。そこは招かれなくては入るのが困難な場所故に情報が少な過ぎる……それでもマークは行かなくてはならない。

 いつどこで仕掛けられても逃げ出せるようにしておかなければ。

 中に行くと確かに兵士の一人が腕を押さえてウンウン唸っていた。

「練習中に木剣が折れ、腕に刺さったんですよ。応急処置をしてやったのに根性がない! 治癒術師様には迷惑をかけます」
「いえいえ、良いんですよ」

 兵舎には医師見習いがいて手当は終わっていた。唸る兵士に治癒術をかけると大人しくなってほっとため息をついた。

「ごめんねぇ」
「良いってことさ。マークさん、痛みが引いた。ありがとう」
「いえ、お役に立てたら光栄です」

 普通のやり取り普通の治療、そして普通に立ち去る。

「出口はこっちです」
「ありがとう、アミ君」

 普通に俺を案内するアミ君。でも君は俺をこの兵舎からこのまま出す気はないよね?

 廊下を歩いていたはずなのに、気がついたらベッドに押し倒されていた。漫画やアニメでいえば何コマか飛ばされたような感覚だけれど、廊下で俺の左手を掴んで引き、左の扉を開けベッドに投げ込み、自分も部屋に入り、扉を閉めて鍵をかけ俺の上に飛び乗る。それをマラカイト・凛莉相手にやってのけるのが、アメジスト・アレインという男なのだ。


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