【完結】今度こそもふり倒す人生になれなかった平民の男の話〜俺の幸せどこ行った？

41 これくらいの肉球と俺

「こう、な？」

うん？

　俺はその場に座り込んで、手で顔の大きさくらいの丸を作った。

「こう……これくらいの肉球がな？闇の中にぽーんと浮いてたんだよ」

　はぁ？それで？？

「んなもん。見たら、触ってみたいだろ？触るしかないだろ？？」

　……お前、馬鹿だろ？

「はぁ？！馬鹿じゃねーし！動物を愛する心優しい男だし？！」

　馬鹿だろ

　うるせー！と俺は頭の上の黒猫と馬鹿だ、馬鹿じゃないとしばらく問答していた。

「もー疲れたし、寝る」

　寝ろ！

　汚く乱れたベッドを自分で整えて、汚れたシーツも引っぺがす。何せ前世で飛ばされてから自分でしなきゃいけなかった事だし、学園でもやっていたことだ。
　洗濯も自分でやっていたけど、今は出しておけばメイド達が洗ってくれる。いつもご苦労様です、ありがとう。
　この家に来てから時間が経って来たが、メイドや執事は俺に優しい。最初は哀れな者を見る目だったけど、俺は屋敷の中で大人しくしていて手間もかからない。

　はー、神様の所に行ったあのライオンはちゃんと伝えてくれただろうか。まだ死にたくないなー。

「死にたくないなー」

　呟いてすぐに眠りに落ちたらしい。そうだな、死にたくないな。うっさらとそんな声が聞こえた気がした。ここに囚われているみんなは大体そうだよなぁ、早く出してやりたいなぁ。流石にベッドに横になると黒猫は枕の隣にいる。寝ている俺の頭に乗るのは難しいもんな。顔の上に乗ってみろ？思いっきり匂い嗅いでやるからな？



「来た」

　誰も、物乞いもほとんど近寄らないこの不気味ハウスの前に馬車が止まった。しかも神殿の紋章入りの馬車だ。おおお！ライオンは確かに神様に頼んでくれたようだ。妹もふ神様から偉そう姉神様に、そして姉神様は神殿に何かしら言づけてくれたに違いない！窓からもっと様子を見ていたかったが

「ジュード様は部屋に戻っているようにと、旦那様からのご命令でございます」

　申し訳なさそうに執事が俺に伝えてくるので、少し笑って

「分かりました。大人しくしていますね」

　と、部屋に戻る。部屋に戻っても俺にはやる事があるからね！しばらくはアデレードの襲撃もないだろう。今日は大物を引き出せるといいな～！


　大物を引っ張ると疲れるぞ。

　でも達成感はあるんだよね～！こないだのライオンクラスは行けそうな気がする！


　頭の上の黒猫がちょっと心配そうに話しかけてきた。おやあ？俺たちだいぶ仲良くなってきましたか？？


　なってねえし！

　べしっと尻尾で叩かれた。ご褒美かな？

　褒美じゃねえし！

　ハハハ！猫で生まれた以上、俺に可愛がられる運命なんだ、残念だな！諦めろ！

　……ふん！

　さあ、頑張るぞ～！と足取りが軽かったのか、執事は不思議そうな顔をして俺を見送っていた。