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36 私の愛した公爵2(アデレード回想

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 私は特に政治や出世に興味はなかった。興味を引かれたのは、ジュード・スタイラント公爵令息がいるからだ。
 順調に私は知識を蓄え、学園も優秀な成績で卒業した。

 そして念願のジュード・スタイラント公爵と同じ王宮で働く事になった。部署は違えど、たまに見かけるその姿に思いを募らせて行った。
 あの人の傍に、もっと傍に。私は努力した。し過ぎたと言っても良い。

「くそっ!」

「……」

 気がつけば、あの人より上の宰相補佐になっていて、次期宰相は確定していると言われるまでになってしまっていた。

 違う!私はそんな物になりたかった訳ではない!あの人の傍に、できれば隣に立ちたかったのに!

「流石に優秀ですな!次期宰相殿」

 敵意を隠さない憎しみが溢れた目で見られた。15も下の小僧に追い抜かれたのだ。穏やかでなくて当然だろう。

 やってしまった……そう後悔したが、私を強く睨みつけて来るあの水色の瞳が、えも言われぬぞくりとした快感を纏うのだ。
 ああ、私は彼に恨まれている。彼の心の中に私という影を落として、心の一部を私で埋めたのだ。

 堪らない、あの人の中に私の一部がある!

 そう気づいてから、積極的に事あるごとにあの人にちょっかいをかけて行った。

 やり過ぎた、やめようとしたがもう遅かった。王子の婚約者に自分の一人娘を据えようと画策して、あの人は失敗したのだ。

 いや、失敗するように仕向けたのは私だ。あちこちで証拠を握り、嫌がらせをしたのだ。私に目を向けるように!
 そしてスタイラント公爵家は没落し、王弟殿の意向で小さな領地に封じられ、その姿を見る事が出来なくなってしまった。

「なんて事!なんて事!」

 私は一番大事な所で失敗したのだ。もっとやりようはあったはずだ。王弟殿下の提案など無視してやれば良かった。

「……あの方をもう一度王宮に……いや、私の物に」

 そうだ、公爵家という肩書きを失ったのだ。我がウィタス家と宰相の力を使えばあの方を私の腕の中に閉じ込める事が出来るのでは?

 ありとあらゆる力を使って画策を繰り返すが、妨害が入ったりして遅々として進まなかった。
 
 そして、5年経ったのち、あの方は殺されてしまった。どうも拷問を受けたらしく、惨たらしい姿であったらしい。
 最後に一目と思ったが、王弟殿下が埋葬したと言う。
 

 私はどうしても諦め切れなかった。死んだと聞いたあの日から、あの方の姿を追い求めた。

「いないなら、作れば良いのでは……?」

 とうとう私はあの方と同じ髪の色、瞳の色の女性を第二夫人として招いた。しかし、どの妻も濃紺の髪で水色の瞳の男の子を産む事はなかった。

 そして諦めかけていたのに、最後の名前も覚えていない妻が目当ての子供を産み落とした。

「おおお……っ!」

 濃紺の髪に水色の瞳。あの人と同じ色!

「旦那様、あのそちらのお子様の事なのですが、生まれ月が早すぎるのではないかと、医師が申しておりまして……もしやとは思うのですが、こちらにお越しになった際には最早お腹に子供がいて……そちらのお子様は旦那様の血を引いていないのでは、と……」

「構わぬ」

「旦那様、しかし!」

「構わぬと言ったのだ、聞こえぬのか!」

 執事は静かに頭を下げた。私の血などこの際どうでも良いのだ。この髪、この目に比べたら、なんと小さな事か!!

「私の手元で育てよう。誰にも見せぬ。今度こそ我が手の中で!」

 この子に友人も地位も名誉も必要ない。ただ、私のみがあれば良い。幸い、正妻の産んだ長男は優秀だ。さっさと家督と職を譲ってこの子と二人で暮らそう。
 どうせ宰相などなんの興味も未練も無かった。あの人が悔しそうに睨むのが嬉しくて嬉しくてその椅子に座っていただけだ。

「お前の名前はジュードだ」

 私の愛しいあの方と同じ名前。今日からこの子がジュードなのだ。

「今度こそ、絶対に手放してなるものか……」

 ジュードが泣き出す。何故だろうか?私は一番の笑顔を浮かべていたはずなのに。

「旦那様、まだ赤子でございますれば」

「……そうであったな、乳母を雇いたい。教養のある者が良いな、あの人くらい、最低限の礼節は必要だ」

 執事はまた頭を下げ

「手配いたします」

 そう言って出ていった。乳母が決まるまで、あの平民出の女に預けねばならんのはかなり不服だが仕方がない。

「泣き喚いても可愛いものよ」

 力一杯、おぎゃおぎゃあ!と泣くジュードの額に口付けた。


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