令嬢は至極真面目にレベルアップで解決無双！貧乏も婚約破棄もレベルに全てお任せです！

9 頭の中身がレベル停滞中

「おい」

「きゃっ！」

　小さな声かけと共に、何かをぶつけられた。ちょっと酷いなあと思いながら、何かな？と拾ってみるとボタンだったの。

「ボタン……？」

「つけろ」

　私の目の前に男子が立っている。えーと……ダラス・オーウェン伯爵令息ね。

「何故ですか？私は貴方の家の使用人でもなんでもないわ」

　さっとみるとオーウェン伯爵令息の制服はとてもきれいに手入れされていて、クラウスさんとは全然違う。きっとオーウェン伯爵令息の寮の部屋には使用人を呼んでいるか、使用人がいる家までしょっちゅう帰る事が出来る距離に住んでいるんだと思う。クラウスさんは違ったわ。いくつもボタンが緩んでいたし、ちょっと糸がほつれている所もあったから、本当に自分でなんとか出来なかったのよ。あの後、イザベラに直してあげるように教えたっけ。そしたらイザベラったら針を持ったことがなくてそこから教えたんだったわ。
　少し考え事をしてしまったけれど、拾ったボタンをオーウェン伯爵令息へ差し出す。かがった糸までついていたから、糸のほつれや摩耗で切れたのではなくて、力任せに引きちぎった事がすぐにわかる。なんでそんなことするのでしょう？制服が傷んでしまうわ。

「クラウスのはつけるのに、私のは何故つけない！」

「あなたは直してくれる使用人が近くにいるのでしょう？その人に頼んでください」

「お、お前に！お前にボタンをつけて貰えば、婚約者が出来るんだろう！」

　……何を言っているのかしら……？この方は……？私、言葉は分かるのに、言葉の意味が分からない事に初めて出くわしたわ。助けが欲しくて辺りを見ると、クラスの面々はさっと目を反らした！？これは、皆理不尽だと思っているのね。私がおかしいんじゃなくて、オーウェン伯爵令息がおかしいって事ね！

「わ、私はこの学園に在学中に婚約者を見つけなければならないんだ。そうでなければ父上に叱られ、オーウェン家から出されてしまう！だから私は早く婚約者を見つけなければならない！だからお前、ボタンをつけろ！！」

　私の目はきっと点だわ。私がボタンをつけたら婚約者が出来るわけないじゃない……。あの時はそれが縁でクラウスさんと顔見知りになって、パーティがあったからたまたま困っていた同士がパートナーになって、そこから話があったり、素敵だと感じたりしたから婚約者になった訳で……。私がボタンをつけたから婚約者が出来た訳じゃないのに。

　ダラス・オーウェン伯爵令息は、頭の中身のレベルが残念なのね。そう言えばレベルが近しい人がいたわね。良く分からない嫉妬心から私にイモムシをばらまいた人が……。
　教室の隅で下を向いている彼女が。