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番外編
22 可哀想な平民なんていない
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バンドール家。落ち目の侯爵家。先代の当主は相当やり手でバンドール家ここにあり、と社交界を賑わせたらしいが、現当主のカナン・バンドールが暗愚の極みだった。
先代ダグラスの唯一の失敗と影で言われてる。そしてその事をカナン・バンドールは露ほども気づいていないのが彼の愚かさを加速させる。
そのカナンの息子であるカレリオが王太子の婚約者になっているのが唯一の成功らしいがこれもダグラスが引退する前に仕込み、算段をつけて家督を譲った、家督を譲った後も何かにつけて口を出し、婚約者にねじ込んだともっぱらの噂だった。
カナン・バンドール侯爵は無能
それは引退し、のんびり暮らす先代と本人である現当主、そして息子のカレリオだけが知らない周知の事実。いや、カレリオはなんとなく気が付いていたのかもしれなかった。
そんな評判がどんどん下がっていくバンドール家の使用人も才能のある者は一人、二人と離れ……足りなくなった人手を平民で埋め始める。
その一端で見た目とそこそこの腕を買われて召し上げられた一人にアルフォンスがいた。同時期に同じ条件で来た平民の中にリドリーもいたのだが、会えば挨拶を交わす程度の仲だった。
「ま、平民でも良いって賃金くれんなら良いかなって」
「そうだな……」
そんな会話をしたかどうか。しかし現在の当主は貴族権力主義者の塊のような男で、平民でも辞めるものが多かった。
そのカナンに育てられたカレリオがカナンと同じく使用人に高圧的な態度で接するのは仕方がなかったのかもしれない。
「おい」
「は、はい!今すぐ」
カレリオの護衛として学園についていくことになったアルフォンスはため息しか出なかった。王太子の婚約者であるカレリオはアルフォンスの名前すら覚えていなかった。
カレリオはまるでアルフォンスに興味などなかったが、いつも本を読んでいる様に感じた。
2人の間にあるものはただ、主人と護衛である使用人、それだけの関係。それで何の問題もなかったのに、アルフォンスは声をかけられたのだ。
「ねえ、君。カレリオの護衛のアルフォンスでしょう?僕、カズハ。仲良くしてね!」
怪しい、そう思ったが無邪気な顔で話しかけてくるカズハをアルフォンスは払い除ける事はしなかった。
「ねえ、アルフォンス!カレリオに虐められてるでしょ?僕には分かるんだ!可哀想なアルフォンス!僕が君の力になる!」
「え……」
虐められてなどなかった。ただ、何の交流もないだけだ。それが寂しいと思った時もあるが、貴族と平民。そんな物だろうと思っていた。
「虐め……られてなんか……」
「可哀想!だってアルフォンスは平民出だし、カレリオはあれでも侯爵家の子供だもん、絶対可哀想でしょ!」
カズハは何度も何度も「可哀想」を繰り返す。そして
「僕はアルフォンスの味方!好きだよ、大好き」
「カズハ……さま……」
「カズハって呼んで!可哀想なアルフォンス」
繰り返されるうちになんだかそんな気がしてくる。可哀想な自分、虐めてくるカレリオ。じわじわとそれが事実なのではないかと。
カレリオは何も言わず、ただ静かに本を読んでいる。
名前も呼んでくれない主人。
アルフォンスと呼び、好きだと言うカズハ。
アルフォンスの心はカズハへ傾いて行く。
「カレリオって怖いでしょう?」
「え?ええ……」
怖いと思った事はなかったが、そう言われると冷え冷えとした美貌の無表情は怖い、かもしれない。サラサラと綺麗な銀髪に真っ青な瞳。温かみより冷たさを感じる色合いを持つ侯爵令息。
「わがままだし、自分が万能だって思ってる」
「そ、そう……ですね」
わがまま?本を読んでいて時間を忘れる事があるくらい。たまに資料を持ってこいと言うくらい。それくらいはわがままの部類にはならない。そしてカレリオが万能?そんな事はないと思うが……。
「もう!ほんとあったまきちゃう!僕が殿下と話ししてたら割り込んできてさ!もう!」
違和感はあるが、何度も何度もカズハに言われるうちに「そうではないか?」と思い始めてしまう。
一度そう思うと、「そう」としか思えなくなり……アルフォンスの中でカレリオは「意地悪でわがままな嫌な貴族」にどんどん作り替えられて行った。
先代ダグラスの唯一の失敗と影で言われてる。そしてその事をカナン・バンドールは露ほども気づいていないのが彼の愚かさを加速させる。
そのカナンの息子であるカレリオが王太子の婚約者になっているのが唯一の成功らしいがこれもダグラスが引退する前に仕込み、算段をつけて家督を譲った、家督を譲った後も何かにつけて口を出し、婚約者にねじ込んだともっぱらの噂だった。
カナン・バンドール侯爵は無能
それは引退し、のんびり暮らす先代と本人である現当主、そして息子のカレリオだけが知らない周知の事実。いや、カレリオはなんとなく気が付いていたのかもしれなかった。
そんな評判がどんどん下がっていくバンドール家の使用人も才能のある者は一人、二人と離れ……足りなくなった人手を平民で埋め始める。
その一端で見た目とそこそこの腕を買われて召し上げられた一人にアルフォンスがいた。同時期に同じ条件で来た平民の中にリドリーもいたのだが、会えば挨拶を交わす程度の仲だった。
「ま、平民でも良いって賃金くれんなら良いかなって」
「そうだな……」
そんな会話をしたかどうか。しかし現在の当主は貴族権力主義者の塊のような男で、平民でも辞めるものが多かった。
そのカナンに育てられたカレリオがカナンと同じく使用人に高圧的な態度で接するのは仕方がなかったのかもしれない。
「おい」
「は、はい!今すぐ」
カレリオの護衛として学園についていくことになったアルフォンスはため息しか出なかった。王太子の婚約者であるカレリオはアルフォンスの名前すら覚えていなかった。
カレリオはまるでアルフォンスに興味などなかったが、いつも本を読んでいる様に感じた。
2人の間にあるものはただ、主人と護衛である使用人、それだけの関係。それで何の問題もなかったのに、アルフォンスは声をかけられたのだ。
「ねえ、君。カレリオの護衛のアルフォンスでしょう?僕、カズハ。仲良くしてね!」
怪しい、そう思ったが無邪気な顔で話しかけてくるカズハをアルフォンスは払い除ける事はしなかった。
「ねえ、アルフォンス!カレリオに虐められてるでしょ?僕には分かるんだ!可哀想なアルフォンス!僕が君の力になる!」
「え……」
虐められてなどなかった。ただ、何の交流もないだけだ。それが寂しいと思った時もあるが、貴族と平民。そんな物だろうと思っていた。
「虐め……られてなんか……」
「可哀想!だってアルフォンスは平民出だし、カレリオはあれでも侯爵家の子供だもん、絶対可哀想でしょ!」
カズハは何度も何度も「可哀想」を繰り返す。そして
「僕はアルフォンスの味方!好きだよ、大好き」
「カズハ……さま……」
「カズハって呼んで!可哀想なアルフォンス」
繰り返されるうちになんだかそんな気がしてくる。可哀想な自分、虐めてくるカレリオ。じわじわとそれが事実なのではないかと。
カレリオは何も言わず、ただ静かに本を読んでいる。
名前も呼んでくれない主人。
アルフォンスと呼び、好きだと言うカズハ。
アルフォンスの心はカズハへ傾いて行く。
「カレリオって怖いでしょう?」
「え?ええ……」
怖いと思った事はなかったが、そう言われると冷え冷えとした美貌の無表情は怖い、かもしれない。サラサラと綺麗な銀髪に真っ青な瞳。温かみより冷たさを感じる色合いを持つ侯爵令息。
「わがままだし、自分が万能だって思ってる」
「そ、そう……ですね」
わがまま?本を読んでいて時間を忘れる事があるくらい。たまに資料を持ってこいと言うくらい。それくらいはわがままの部類にはならない。そしてカレリオが万能?そんな事はないと思うが……。
「もう!ほんとあったまきちゃう!僕が殿下と話ししてたら割り込んできてさ!もう!」
違和感はあるが、何度も何度もカズハに言われるうちに「そうではないか?」と思い始めてしまう。
一度そう思うと、「そう」としか思えなくなり……アルフォンスの中でカレリオは「意地悪でわがままな嫌な貴族」にどんどん作り替えられて行った。
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