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番外編

10 私は悪役令息をやめました

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 やはり、転機はお祖父様がお庭で頭を打って倒れられた事だろう。

 私はその頃、学園で辛く心細い毎日を過ごしていた。学友は皆、私の事は遠巻きに見る。婚約者であるセブスト殿下には私に冷たいし、最近やってきた神子は蔑んだような見下した目で見て来る。
 しかも私の護衛であるはずのアルフォンスまで、神子に夢中で私を睨みつける事もしょっちゅうだ。

 私は、学園に味方が一人もいない。そして家に帰っても

「殿下の心を離してはならん!」

「し、しかし父上……」

「口答えは許さん!!」

 それしか言わない父上。何事にも無関心でのんびりしているお祖父様しかいない。家にも味方と呼べる者は誰一人としていなかった。

 それなのに、突然お祖父様に呼ばれた。学園を早退して帰ると、いつも私の事など眼中に無かったお祖父様が

「カレリオ」

 なんとも愛しそうに呼ぶのだ。

「良い。殿下の御心は神子に傾いておるのであろう?……辛かったなカレリオ。私はお前の味方だ。お前がこれ以上苦しむのを見たくはないのだ」

「わ、わたし、わたし、わたしは……」

「カレリオ、ワシの可愛い孫よ。王にはワシからきちんと断っておく。おいで、泣いて良いのだ、カレリオ」

 そうして優しく両手を広げ、呼んで下さった。

「う、うわあああーーーっ!おじいさまぁーーーーー!」

「今まで良く頑張ったね、カレリオ。私はお前を誇りに思う」

 久しぶりに誰かに撫でられた。お祖父様の手は大きくてとても安心出来た。


 それからお祖父様は国王に掛け合ってくれて、しかも私の代わりに学園に行くと言い出す。

「どうじゃ?そっくりじゃろう?」

「ほ、本当ですね!」

 腰をさすり、時には大怪我をして屋敷に戻られるお祖父様。それなのに、私を悪く言うことは一つもない。叱る時は理由があるし、納得できる事だった。

「借金をなんとかせよと申し付けたぞ!放置しておいては利息がますばかり!」

「はいっ!」

 お祖父様の言うことは正しくて、私は学園にいる時より何倍も勉強したが、とても楽しかった。
 休みの度に戻ってくるお祖父様に褒めてもらいたくて仕方がなかったからだ。

「あ、あの……カレリオ様……今まで申し訳ございませんでした」

「……大丈夫だよ、アルフォンス。それより資料を取ってくれないか?お祖父様の課題は中々難しいんだ」

「ならばこちらの資料はいかがでしょうか」

「あ、中々分かりやすいね。ありがとう」

「……いえ」

 お祖父様に怒られた事がある。

「これ、カレリオ。いくら使用人とは言え、そんな風に蔑ろにしてはいかん。人を良く使うのも侯爵家の嗜みの一つじゃ。それにろくに礼も出来ん奴は使えん奴ばかりじゃ!」

「え……はい」

 父上を見て育った私はお祖父様が平民や使用人に優しくするのにとても驚いた。父上は使用人を人と思う必要はないと言い切る人だったからだ。

 でも使用人に優しくするお祖父様の周りには笑いが絶えなかったし、皆お祖父様に尽くしていた。

「私も……ああいう方がいい……」

「そうでございますね」

 ぽつりとこぼした言葉をアルフォンスは聞いていて、一緒に小さく笑ってくれた。ああ、睨み合ってるよりよっぽど嬉しい。その時から少しづつアルフォンスと打ち解けて行ったように思う。
 私が学園に通わなくなって、アルフォンスが神子と会う事もなくなった。最初の内はそれを恨まれていたんだろう、やっぱり鋭い目で見られていることが何度もあった。でも平民出のアルフォンスが一人で学園に行く理由はない。私の護衛だから学園に行き、神子と会う事が出来ていたんだから。
 私だってそれくらい分かっていたけれど、アルフォンスを叱ったりしなかった。いや、叱る事でもないと思えたのと、単にお祖父様に言いつけられた借金の清算が大変だったからだ。本当にお父様は一体何をしてらしたんだ!?痛む頭を抱えながら書類と格闘する日々。
 私が見下した態度を改めると、どんどん使用人も優しくなっていった。

「大丈夫ですか?カレリオ様」

「うん。難しいけれど、何とかなりそうだ。うーんでもまだ小さい借金がいくつもあるんだ。しらみつぶしに探さなくちゃ」

「……お手伝い致します」

 アルフォンスもお祖父様に私を手伝って勉強するように言われている。お祖父様はリドリーと言う平民を連れて歩いていて、しかもリドリーはかなり高い給料をもらっている。出自に関わらず、能力が高い者はしっかり給料がもらえる。それを間近で見ているから、きちんと働こうって思うんだろうな。流石お祖父様だ。
 
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