上 下
80 / 122

80 ワシ、卒業旅行について行く

しおりを挟む
 元がゲームの世界。日本の学生さんのように卒業といえば卒業旅行をする。いくら王太子では無くなったとは言え一国の王子。そんな殿下がお出かけできる所は少なく、手近なオルトラ温泉郷に来ておる訳じゃ。
 宣伝?客寄せパンダ?何の事かな??

「……学生時代のようだな?」

「よもやなぁ」

「ワシャ知らん」

「ひ、酷いっ!」

 ダスティン・レイモンド・ワシにケンウッドが揃いおったわ。

「わざわざ辺境からご苦労だったな?ケニー。ジェスターは優しいか?んん?」

「うるさい!そう言うお前こそ、なに孫に懸想しておるんじゃ!この鬼畜!」

「やめろ、ケニー!ティムは今日機嫌悪い。全くサディーアが殿下達と話しているだけではないか」

「おージジイの嫉妬は怖いなぁ?」

 最終的にダスティンの怒りはレイモンドに向いたので、ケンウッドは上手くやったようじゃ。

「しかし、見事にお主も若返ったのう、ケンウッド」

「他人事の振りしおって!どうせお前も一枚噛んおるんじゃろ、この腹黒っ!学園では便宜を図ってやったのに!」

「良いではないか。ワシのつらーい気持ちを知って欲しかったのじゃよぉ?あとの?」

「ま、また悪巧みかっ!ワシは知らん!」

「それがの……」

「……ほう?」

 ワシがダスティンの企みをケンウッドに耳打ちする。

「ほう!それは良い!」

「じゃろう?」

 まあ、こういう悪巧みに乗って来るからやはりケンウッドはケンウッドなんじゃよね。

「全く学生気分をまた味わう事になろうとはなぁ」

「そうじゃなぁ。長く生きていると不思議な事もあるもんじゃ……」

 ワシとケンウッドは並んで殿下達を見ている。セブスト殿下とサディーア、トレヴァー、ジェスターと並んで話をしている。
 真ん中に神子はいないが、ゲームで見た事のある様な一瞬に、眩しさを覚える。ワタシはダグラスの一部になりつつある。昔のように隔離された存在ではなく溶け合ってしまった。

「お主、だいぶ丸くなったのう」

「お前もではないのか?」

「老いた以外の何か……まあ、どうでも良いか」

「我々は見た目はどうであろうとも結局はジジイじゃからの」

 老い先短い我らがちょこっとおかしかろうが、若人には影響無かろうよ。そこにいる4人の若者の未来にちょこーーーっと暗雲を漂わせてしまった気もするが、まあきっと大丈夫じゃろ。ワシとケンウッドが並んで話しているのを見て、殿下とジェスターがにこりとこちらをみて笑っておる。なんだかんだ言って美形揃いじゃのう。

「なあ、ダグよ。お主、今の状況は辛いのか?」

「……ケニーはどうだ?ジェスターと共にこの後辺境じゃろう?滅多なことでは王都に戻っては来ぬのだろう?」

「ワシは辛くはない。元々辺境に逃げようと思っておったからのう……ジェスターはワシのようなジジイに良く気を使う。まるでお姫様扱いじゃ……ジジイなのにの」

「そうじゃの、ジジイなのにのう……分かって貰えて嬉しいぞ、ケニー」

「そう言う分かって欲しいだったのかっ!この腹黒ッ!惚気ではないかっ!」

「ではお前のさっきの台詞も惚気か?んん?」

「違うわい!」

「じゃあワシも違うもーん」

 わしとケンウッドのやり取りは

「お二人で楽しそうですね。私達も仲間に入れてくださいよ」

 と、笑顔で駆けてきたセブスト殿下とジェスターの到着で自主的に打ち切った。

「しかし、セブスト殿下の事をあれほど貶して呆れておきながら、同じことをしてしまうとは……自分が恥ずかしいです。許してください、ケンウッド様」

 昔ガサガサ、今つるつるのケンウッドの手を取ってなでなでしているジェスターに、ワシと殿下は苦笑いするしかない。

「もういいと言うたではありませんか。私は元より辺境に住むつもりでしたから、その辺りは……」

「ありがとうございます……ああ、あなたの優しさが心にしみます。一生大切にしますので、お許しください」

「だから、もういいと……」

 ケンウッドの奴、ちょいと照れておるの。まんざらでもないんじゃろうなぁ……ティムの奴はいい仕事をしたのではないだろうか?ワシ?ワシはちょっとリドリーに金を払っただけじゃし??


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

【完結R18】異世界転生で若いイケメンになった元おじさんは、辺境の若い領主様に溺愛される

八神紫音
BL
 36歳にして引きこもりのニートの俺。  恋愛経験なんて一度もないが、恋愛小説にハマっていた。  最近のブームはBL小説。  ひょんな事故で死んだと思ったら、異世界に転生していた。  しかも身体はピチピチの10代。顔はアイドル顔の可愛い系。  転生後くらい真面目に働くか。  そしてその町の領主様の邸宅で住み込みで働くことに。  そんな領主様に溺愛される訳で……。 ※エールありがとうございます!

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】目が覚めたら縛られてる(しかも異世界)

サイ
BL
目が覚めたら、裸で見知らぬベッドの上に縛られていた。しかもそのまま見知らぬ美形に・・・! 右も左もわからない俺に、やることやったその美形は遠慮がちに世話を焼いてくる。と思ったら、周りの反応もおかしい。ちょっとうっとうしいくらい世話を焼かれ、甘やかされて。 そんなある男の異世界での話。 本編完結しました よろしくお願いします。

処理中です...