上 下
17 / 122

17 ワシ、神子に襲われる。

しおりを挟む
 ワシが殿下を無視……無視はしとらんの、わざと近寄らなくなってから、神子カズハの機嫌が悪いらしい。なんなんじゃ?カレリオと言う邪魔者がいなくなったんだから、思いっきりいちゃつけば良いのに。
 それともなんだ?カレリオが来ないからイベントが起きないのか?

 そんな事はワシの知ったこっちゃない!

「何で来ないのさ!」

 とうとうクラスにカズハが乗り込んできた。リドリーがカズハの前に立ち塞がる。そりゃそうだ、カズハはすぐ手が出る。
 すぐに胸ぐらを掴もうとするし。うーん?カズハ、本当に最近の子か?ちょっと手は早いし喧嘩っ早しい。
 あれなのかな?主人公補正で何をやっても許されるって思ってるクチかな?そういうのはお断りしたいのじゃが?

 ワタシはこの世界がゲームでもなく、カズハが主人公でもないと知っている。なんせ70年もダグラスの内側から世界を見続けて来たんだから。
 確かにBLゲームそっくりだけれども、モブはモブじゃなくて、生活しているし、悪役令息のカレリオだって父がいて、祖父がいて、その上には何代も連なる家系があって……。

 全てが神子中心に回っている訳じゃないのだから、勝手されても困ってしまう。

「用がないからですが……」

 カレリオが自分の婚約者を奪ったカズハに何の用があると言うのだ。避けるのが当然だろう!

「行きましょう、カレリオ様」

 ちょうど昼休みだ。リドリーに庇われながらワシは席を立つ。何のイベントを狙ってるんだ?廊下でぶつかるやつか。階段で押すのはまだ後だったかな?
 とにかくハーレムルートを狙うならどんどんイベントをこなさないといけない。それなのに、虐める側のカレリオが来ないから、イベントが発生しなくて焦っている、そんな所だろう。馬鹿馬鹿しい、ワシは殿下との失言と失態を集めるのに忙しいんじゃ。他の攻略キャラなんぞ知らんわ、他所でやれ。

「待て!どこ行くんだよ!」

「っ!カレリオ様」

「うわっ」

 一瞬、リドリーが間に合わなかった。カズハはワシの腕を掴もうとし、掴み損ねる。カズハが掴んだのはワシの制服の袖であり、思いっきり引っ張るから

ビリリ……!

 良い音がして肩から制服は破れるし、

「ぎゃん!」

 ワシは思いっきり尻餅じゃ!痛い!腰がーーーー!

「え?!あっ!」

「カズハ?何をしている」

「あっ!ジェスター……こ、これは!これは、カレリオが、お、ぼ、僕を転ばせて……」

 逆なんだ。ゲームのイベントとは逆なんだ。ゲームのではカレリオがカズハの制服を破き、転ばせる。ジェスターを見て思い出したぞ!ワシ、ちょっと遅い!
 そして今の状況はワシが床でうめいていて、更に制服の袖は取れかかっている。

「カズハ……お前は立っていて、カレリオは転んでいる……流石にこの状況でお前がカレリオに転ばされたというのは、あまりにおかし過ぎる」

 ジェスター・ギニングは苦い顔をする。辺境伯の息子で攻略対象者にしてハーレム要員。ああ、ジェスターのイベントであったな、制服破れるイベント。それだったかぁ~~逆だけど。

「カレリオ様!申し訳ございません!立てますか?!」

「リドリー……無理じゃ……腰を強打した……」

「あちゃあ……!」

 助け起こしに来たリドリーにそっと被害状況を報告する。じじぃの軟腰ではあの衝撃に耐え切れなかった。ズキンズキンと頭まで痛みが駆け上る!これはやってしまった奴じゃぁああ!

「失礼します」

 そっと抱き上げて貰う、い、いたたた……っ!

「カレリオ……大丈夫なのか……?」

 ジェスターが声をかけてくるが、それどころではない。だんだん痛みが酷くなる!早く、早く救護室へーーー!

「た、ただちょっと転んだだけで大袈裟なんだよ!絶対ジェスターの気を引きたくて演技してんだよ!」

 カレリオは別にジェスターの気は引きたくはないぞ。そんな事より!

「り、リドリーぃ……」

「あっ!急ぎます。ギニング辺境伯令息、失礼致します」

 リドリーは形ばかり頭を下げて、ワシを救護室に運んでくれた。

「い、急いで!でも振動は少なく……」

「無茶です!!今度は浮遊魔法でも覚えろとおっしゃいますか!?」

 リドリーならできる気がする。

しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。

処理中です...