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1 ワシ70歳、覚醒する。

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 ダグラス・バンドール御年70歳。それがワタシ。

「あ……」

「大旦那様!大旦那様が目を覚まされました!」

 バタバタとメイドが走ってゆく、きっと主治医を迎えに行ったのだろう。後頭部がものすごく痛む……そうだ、ワシ……いやワタシは庭の石畳に躓き派手に転んで頭を強打した。そしてそのまま暗転……そして思い出した。

「ワタシ、おじいちゃんになってるんですけど……」

 くしくもワタシ、新藤宮子30歳も庭の石畳に躓き派手に転んで頭をを強打した……が、ワタシは今、ダグラス・バンドールになっていて……ワタシがどうなったかは分からない。なにせ私は70年前からダグラスだ。ダグラスの中から映画か何かを見るように、ダグラスの一生と言うか家族と生活を見ていた。私はそれをダグラスTVとして気楽に楽しんでいたのだが、孫のカレリオが生まれた時にガバリと起き上がったもんだ。

「か、カレリオ・バンドール!「猫★神子!天翔ける星に願いを」の悪役令息じゃん!きゃわわ!」

 そうダグラスの中で絶叫したが、私の生活は変わらず。悩んだり、色々運命を変える事が出来るかと思って考えてみたが何もできなかった……仕方がないので、だらりと寝転がってずっとダグラスTVを見ていたのに。

「今になって、表に出てくるとは……」

 ワタシがダグラスで、ダグラスはどこいった?もしかして寿命??ダグラスは頭を打って死んじゃったんだろうか??おーい!ダグラスじーちゃーん!どこいったー??

「でも今ならまだ間に合う!!」

 ワタシはぎゅっと両手を握りしめた。「猫☆神子!天翔ける星に願いを」はプレイしていたBLゲームなのだ。略して「ねこ☆てん」のカレリオはこの国の王太子、セブスト様の婚約者で、悪役令息として立派に主人公の召喚された神子を虐めまくり、断罪されてしまう。

 その煽りで我がバンドール侯爵家も没落。家族全員で炭鉱送り。エンディングに

「祖父ダグラスも炭鉱で……」

 と、しっかり明記されているくらい炭鉱確定事案なのである。足腰も痛いワタシとダグラスは炭鉱に行きたくない。体は70歳のお爺ちゃんなんだから!

「父上!大丈夫ですか?」

 どたどたと贅肉を揺らしながら入ってきた息子のカナンにまずは確認だ。

「カナンよ、カレリオは今、学園の一年生か?」

「父上?突然何を……」

「答えよ!」

 ひぃっ!と縮み上がる息子のカナンははっきり言おう、駄目息子だ。はっきり言おう、ダグラスがきちんとした教師を付けなかった、と言うか放置した。
 そして甘やかされて育ったカナンは駄目侯爵へと成長してしまった。ごめん、ダグラスTVで画面にいっぱいクッション投げつけたけど、ダグラスには通じなかったんだ。あと流石、体はダグラス。中にいたワタシが現れてもダグラスっぽい喋り方をちゃんとしてる。何か補正でもあるのかな!?と思うレベルだ。

「か、カレリオは、一年生だよな?ロッソ」

「さようでございます、旦那様」

 後ろで頭を下げる執事のロッソにカナンは恐る恐る尋ねる。この執事、見た目は使えるようでいて、実はかなり駄目執事だ。毎日金をちょろまかしてるし、儲からない事業の話ばっかり持ってくるし、仕事はできない。良い人材を見つけたらクビだ。
 そして一人息子のカレリオが何年生かも分からない駄目父……気合を入れて修正しなければ、炭鉱がワタシを手招きしている!嫌だ!!

「すぐに馬車をやり、カレリオを寮から連れてきなさい。明日は学園を休んでよいと伝えよ」

「は?父上、何を」

「私に意見するのか?カナン」

「ひい……っ!ロッソ!父上の言う通りに!」

 目を覚ましたのは昼過ぎであったが、忙しい日になりそうだった。

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