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51 残念ながら始まらなかった物語

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「アッシュ、こんな所にいたの?もう良い?そろそろ俺と遊ぼうよ」

 セリカの部屋の扉がノックもなしに開いてロキがやって来る。

「お前ね、女の子の部屋にノックもなしに入ってくるのはデリカシーなくない? 」
「いーじゃん。セリカはもーうごかねぇもん、つまんない。それならきゃあきゃあいうアッシュと遊びたいじゃん」

 何というかロキもガキなのか?こんな世界にやって来たセリカ、そして誰も頼れる者がいない。そしてロキは何故か知らないが女の子は好きじゃない……いや、もしかしたらセリカという魔王らしくない普通の女の子の扱いをどうしたらいいか分からなかっただけなのかもしれない。
 どうしていいか分からないそのフラストレーションを別の場所から攫ってきた魔王で晴らした。何せロキは強さは一流だ……。でもそんな行動はセリカには理解できない、そして完全に心を閉ざしたセリカ。コノハには会って魔王喰いのコードは貰ったようだけれど、コノハはセリカを救済しなかった……コノハにも事情があるだろう。
 セリカは死ぬことを望んだけれどロキに阻止されたのかもしれない。ロキならコノハの勇者トールを追い払う事なんて訳ないと思う。コノハがトールを案じて逃げようと提案すればトールはコノハを連れて逃げただろうし。

「ロキ、セリカはコノハに会った後でこうなったのか? 」
「まーね。あの魔王を喰うとかいうのは便利そうだったし。何人か喰わせたんだけど、その後セリカが逆に喰ってくれって言い出してね。止めさせたよ」

 なぜやめさせたかをロキに聞くのは危険だと思った。ロキは多分自分の心の奥底を覗かれるのを嫌がる。覗かれるのを阻止するために力をふるうだろう……そうしたら俺は物理的に死んでしまう……いや、魔王だから死なないかもしれないが、動けないほどの大きなダメージを負うか監禁されてしまうかもしれない。
 それは不味い、俺は壊れてゆくスクルドに会いたい。常に一緒だった兄を失い、俺を奪われ、力ではロキに勝てない。かといってこの世を儚んで自決する潔い奴でもない。何かとんでもない良くないことに思考が行きついている可能性が高い。

 ならば俺ができることはもうこれくらいしかない。

「なあ、ロキ。俺セリカを喰いたい、良いだろう?」
「はあ!?何言ってんだ、いくらアッシュでも許さないよ! 」

 何で許さないって思うんだ?動かないセリカはつまらないって言ったのにな?

「ロキ、お前さっきセリカは動かないからつまらないって言ったじゃないか」
「言ったよ、その通りだもん」

 俺は言葉巧みにロキを丸め込む。

「じゃあいいだろ?あーでも喰えないかも、セリカが許可してくれないと魔王は喰えないんだった。魔王の同族喰いは両者の同意がないと駄目なんだよね」
「ふ、ふん。じゃあセリカを喰えないじゃん」

 あからさまにほっとしている。やはりなんだかんだいいながらロキはセリカに執着している。ああ、きっと本当ならこの世界に訳の分からないまま飛ばされた見習い魔王みたいなセリカと勇者のロキが手に手を取って楽しく冒険する物語が始まるはずだったんだろうな。
 そしてあちこちにいる魔王達を倒して真の平和でも築いて仲良く暮らす、そんな感じの物語。
 残念ながら始まらなかった物語。


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