【完結】ゲームで死んで救いのないクソったれな世界で魔王になる

鏑木 うりこ

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48 常識はずれには常識を

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「笑え、魔王アッシュちゃん。お前は魔王だろ?」
「魔王らしくしろよ、アッシュちゃあん?あはは、あははは!」

 やめろ、ロキを煽って死のうとしないでくれ!

「黙れ、二人とも……俺は……お前らみたいな負け犬なんて嫌いだ、早くどっかへ行ってしまえ!」

 頼むから、逃げてくれ。俺はどうせ死なないんだ、お前達みたいにな。だからお前らはどこかへ逃げ延びてくれ。

「嫌い……ふふ、嫌いだってよ」
「俺らぁもアッシュちゃんが嫌がること、好きだもんねぇ……あはは」

 俺があいつらを逃がそうと口を開く前に、ロキが動き出した。自分じゃ動けないウルズとスクルドの襟首をつかむ。

「や、やめて!」
「ウッザ、ほんとうっざい。なにこの茶番、俺、こういうの嫌いなんだよね」
「クソっ……はな、せ」

 そして二人を居住区からぽいっとダンジョン部へ放り出してしまう。

「死ぬならそっちで死んでくれる?うざいから。じゃあね」

 双子が蹴り壊した扉はいつの間にか修復されていた。あれだけ死にかけの二人にここの扉をもう一度開ける力はないだろう。

「あーあ、あからさまにほっとした顔しないでくれる?傷つくな」
「……戻ってウルズとスクルドにトドメを刺しに行かないとならもう少し安心できるんだけどな……?」

 どう考えてみても俺達ではこいつを何とかすることができない。そうしたらどうするか、俺はこの理不尽な世界で嫌というほど学ばされて来た。
 そう難しくないことでも犠牲を払わなければならないこと、生きる為に自尊心は必要ないこと。

「あーあ、大人しくなっちゃって。まあそれはそれで良いけれどさ。ねえ、俺と名前を呼んでくれる?」

 少なくてもウルズを背負ったスクルドが遠くまで逃げる時間は稼がなきゃならない。こいつにおもちゃを与えて、それで遊んでいる間に距離を離し……生き延びて欲しい。
 どこからくるのか分からない嫌悪感は無くならない。俺はこいつが嫌いだけれどもそれを押さえつけて笑う。

「一つ、お願いがある。なに、簡単なこと、すぐに実行できるやつだから聞いてくんない? 」
「なんだろ?簡単なこと? 」

 ベッドの端に腰をかけて俺の髪の毛をいじり始めた。なんだか恋人同士のようじゃないか。俺は縛られたまんまだけど。

「ここは嫌だ。このベッドはセリカのベッドだろ?女の子のベッドに寝転がっているのは気が引ける」
「あっは!確かにね、分かるよ。じゃあ俺が使ってる部屋にしよう、それならいいだろ?」

 俺は知ってる。こういう常識はずれの変態は常識的なことをいうと喜ぶんだ。常識はずれの変態と長く一緒に暮らして来た俺がいうんだから間違いない。

「ああ、それなら良いよ……ロキ」
「んふふ!」

 ロキは嬉々としてベッドの横にあった棚から小さなナイフを取り出して両手を縛っていた縄を切ってくれた。

「俺の部屋はこっち!ついてきて」
「ああ」

 機嫌が直ったロキは多分ウルズとスクルドを追わないだろう。俺は素直にロキの後をついて部屋を出た。セリカはこの部屋のロッカーに入れられたまま……。


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