43 / 59
43 ヘンテコでも生きている
しおりを挟む
このクソみたいな世界からやっと解放された、ありがとうアッシュ。ありがとう……上田さん!
シルヴィオレのひとひらの思念に、ミーミルを想う心はなかった。
「シルヴィ!シルヴィーーーー!! 」
かび臭い古城にミーミルの叫びは響いたけれど、俺らの心にも一欠片も響きもしない。独りよがりの愛を最後までシルヴィオレにぶつけ続けても、何も響いてこない。
「帰ろっか」
「そだな」
「帰ろー。あ、今日は働いたからいっぱいご褒美貰うぞう」
「……お手柔らかに」
俺はその場に立っている。今日はウルズの番だ、俺を優しく抱き上げる。俺ももう慣れてしまって、自分の足で地面を歩くことがだいぶ減ってしまったなぁ。
「なんで、なんでシルヴィを殺した!俺は、俺はずっとシルヴィと生きて行くつもりだったのに!」
血が流れる手を抑えながらミーミルが恨みがまし気に睨みつけるけれど、可哀想だとかそんな気持ちは一切わかない。
「シルヴィオレがそう望んだからだけど」
本人が本当にそう望まなければ「同族喰い」は発動しない。シルヴィオレは俺に喰われてエサになりこの世界から解放されることを願い、俺はシルヴィオレを喰ってこの世界から消してやることを望んだ。だから、シルヴィオレは俺に喰われたというのに。
「どうして! 」
「可愛がってやんなかったからだろ。シルヴィは可哀想なやつだ」
「俺はシルヴィのことを愛していた!お前達に、お前達に分かる訳がない!! 」
スクルドがミーミルを虐め始めたぞ。でも止める気がさらさら起こらない。むしろもっとやれって思う。
「分かんねえよ。もちろんシルヴィも分かってなかったろうな。可哀想にな、意味も分からずこんな所にずっと一人で放置されて。絶望の上に絶望を塗り固められたらそりゃ速攻死を選ぶよな」
「そ、そんなことはない!シルヴィは俺のことを」
「心から憎んでいた、そしてその憎しみも枯れはてたんだろうな。何とも思ってなかった、きっとそうだ」
「嘘だ!!」
嘘じゃない。最初にみたシルヴィオレの淀んだ青い目は何にもなかった。ただ、どうやっても死ねない、何もできない、ただ時だけが過ぎていくこの世界を呪う事すらやめてしまった、そんな目をしていた。
「嘘じゃないさ、魔王には感情があるんだ。ヘンテコだけど命があるんだ。可愛がってやらなきゃ心が死ぬんだぞ」
スクルドが偉そうな顔で言ってるけど、俺、可愛がってもらってたっけ?
「可愛がってるだろ?毎日ベッドで。今から可愛がってやろうか?」
「え、やだけど」
俺、顔に出てたか?ウルズが変な事言い出したぞ。てか魔王がヘンテコなら勇者だってヘンテコだろ!
「なあ、ウルズ。勇者ってさ、魔王に結構執着するよね」
「うーむ、そうだなあ……俺らもたいがいアッシュちゃんにくっ付いてるしなあ。乳首つまんでいい?」
「だめ、痛いから。なんかあるのかなぁ?」
「あー昨日噛んだっけ?俺らもアッシュちゃんを売っぱらって大金は手に入れたけど、なーんか虚しくなったしなぁ。結局未練があったんだろうな、藤の宮に見に行ったりしてたし……多分、あるよ。そういう因果」
服の下をごそごそと漁るウルズの手をペンっと叩いたけど、やめる気はないみたいだ。すぐ治らないっつーの。
「可愛がる!?俺だってシルヴィオレのことを、愛して……愛してたのに!! 」
「一人身勝手に愛を叫ばれても迷惑だろーに。そんなんだから羽も喰わせてもらえない」
「は、はね……?何のことだ」
あースクルドそれは無理だ。
「スクルド、シルヴィオレはレベル20だった。羽は出せなかったよ」
「20かあ……そんな低レベルでこんな所に繋がれちゃって。まあ絶望するよね、死にたいよね」
「だって……だって魔王は死なない」
ミーミルのいうことは正しい。魔王は死なない。
「死ななきゃ何でもして良いの?こわー。ま、シルヴィオレはもういないし、お前も自由に生きたら?」
「う、うう……うううう!」
俺達は蹲って泣くミーミルをその場に放置して家路についた。ミーミルはその後どうしただろう、まあ後を追った気がするけど個人の判断に任せよう。
シルヴィオレのひとひらの思念に、ミーミルを想う心はなかった。
「シルヴィ!シルヴィーーーー!! 」
かび臭い古城にミーミルの叫びは響いたけれど、俺らの心にも一欠片も響きもしない。独りよがりの愛を最後までシルヴィオレにぶつけ続けても、何も響いてこない。
「帰ろっか」
「そだな」
「帰ろー。あ、今日は働いたからいっぱいご褒美貰うぞう」
「……お手柔らかに」
俺はその場に立っている。今日はウルズの番だ、俺を優しく抱き上げる。俺ももう慣れてしまって、自分の足で地面を歩くことがだいぶ減ってしまったなぁ。
「なんで、なんでシルヴィを殺した!俺は、俺はずっとシルヴィと生きて行くつもりだったのに!」
血が流れる手を抑えながらミーミルが恨みがまし気に睨みつけるけれど、可哀想だとかそんな気持ちは一切わかない。
「シルヴィオレがそう望んだからだけど」
本人が本当にそう望まなければ「同族喰い」は発動しない。シルヴィオレは俺に喰われてエサになりこの世界から解放されることを願い、俺はシルヴィオレを喰ってこの世界から消してやることを望んだ。だから、シルヴィオレは俺に喰われたというのに。
「どうして! 」
「可愛がってやんなかったからだろ。シルヴィは可哀想なやつだ」
「俺はシルヴィのことを愛していた!お前達に、お前達に分かる訳がない!! 」
スクルドがミーミルを虐め始めたぞ。でも止める気がさらさら起こらない。むしろもっとやれって思う。
「分かんねえよ。もちろんシルヴィも分かってなかったろうな。可哀想にな、意味も分からずこんな所にずっと一人で放置されて。絶望の上に絶望を塗り固められたらそりゃ速攻死を選ぶよな」
「そ、そんなことはない!シルヴィは俺のことを」
「心から憎んでいた、そしてその憎しみも枯れはてたんだろうな。何とも思ってなかった、きっとそうだ」
「嘘だ!!」
嘘じゃない。最初にみたシルヴィオレの淀んだ青い目は何にもなかった。ただ、どうやっても死ねない、何もできない、ただ時だけが過ぎていくこの世界を呪う事すらやめてしまった、そんな目をしていた。
「嘘じゃないさ、魔王には感情があるんだ。ヘンテコだけど命があるんだ。可愛がってやらなきゃ心が死ぬんだぞ」
スクルドが偉そうな顔で言ってるけど、俺、可愛がってもらってたっけ?
「可愛がってるだろ?毎日ベッドで。今から可愛がってやろうか?」
「え、やだけど」
俺、顔に出てたか?ウルズが変な事言い出したぞ。てか魔王がヘンテコなら勇者だってヘンテコだろ!
「なあ、ウルズ。勇者ってさ、魔王に結構執着するよね」
「うーむ、そうだなあ……俺らもたいがいアッシュちゃんにくっ付いてるしなあ。乳首つまんでいい?」
「だめ、痛いから。なんかあるのかなぁ?」
「あー昨日噛んだっけ?俺らもアッシュちゃんを売っぱらって大金は手に入れたけど、なーんか虚しくなったしなぁ。結局未練があったんだろうな、藤の宮に見に行ったりしてたし……多分、あるよ。そういう因果」
服の下をごそごそと漁るウルズの手をペンっと叩いたけど、やめる気はないみたいだ。すぐ治らないっつーの。
「可愛がる!?俺だってシルヴィオレのことを、愛して……愛してたのに!! 」
「一人身勝手に愛を叫ばれても迷惑だろーに。そんなんだから羽も喰わせてもらえない」
「は、はね……?何のことだ」
あースクルドそれは無理だ。
「スクルド、シルヴィオレはレベル20だった。羽は出せなかったよ」
「20かあ……そんな低レベルでこんな所に繋がれちゃって。まあ絶望するよね、死にたいよね」
「だって……だって魔王は死なない」
ミーミルのいうことは正しい。魔王は死なない。
「死ななきゃ何でもして良いの?こわー。ま、シルヴィオレはもういないし、お前も自由に生きたら?」
「う、うう……うううう!」
俺達は蹲って泣くミーミルをその場に放置して家路についた。ミーミルはその後どうしただろう、まあ後を追った気がするけど個人の判断に任せよう。
19
お気に入りに追加
505
あなたにおすすめの小説
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!
汀
BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
ある日、人気俳優の弟になりました。2
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる