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43 ヘンテコでも生きている

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 このクソみたいな世界からやっと解放された、ありがとうアッシュ。ありがとう……上田さん!

 シルヴィオレのひとひらの思念に、ミーミルを想う心はなかった。

「シルヴィ!シルヴィーーーー!! 」

 かび臭い古城にミーミルの叫びは響いたけれど、俺らの心にも一欠片も響きもしない。独りよがりの愛を最後までシルヴィオレにぶつけ続けても、何も響いてこない。

「帰ろっか」
「そだな」
「帰ろー。あ、今日は働いたからいっぱいご褒美貰うぞう」
「……お手柔らかに」

 俺はその場に立っている。今日はウルズの番だ、俺を優しく抱き上げる。俺ももう慣れてしまって、自分の足で地面を歩くことがだいぶ減ってしまったなぁ。

「なんで、なんでシルヴィを殺した!俺は、俺はずっとシルヴィと生きて行くつもりだったのに!」

 血が流れる手を抑えながらミーミルが恨みがまし気に睨みつけるけれど、可哀想だとかそんな気持ちは一切わかない。

「シルヴィオレがそう望んだからだけど」

 本人が本当にそう望まなければ「同族喰い」は発動しない。シルヴィオレは俺に喰われてエサになりこの世界から解放されることを願い、俺はシルヴィオレを喰ってこの世界から消してやることを望んだ。だから、シルヴィオレは俺に喰われたというのに。

「どうして! 」
「可愛がってやんなかったからだろ。シルヴィは可哀想なやつだ」
「俺はシルヴィのことを愛していた!お前達に、お前達に分かる訳がない!! 」

 スクルドがミーミルを虐め始めたぞ。でも止める気がさらさら起こらない。むしろもっとやれって思う。

「分かんねえよ。もちろんシルヴィも分かってなかったろうな。可哀想にな、意味も分からずこんな所にずっと一人で放置されて。絶望の上に絶望を塗り固められたらそりゃ速攻死を選ぶよな」
「そ、そんなことはない!シルヴィは俺のことを」
「心から憎んでいた、そしてその憎しみも枯れはてたんだろうな。何とも思ってなかった、きっとそうだ」
「嘘だ!!」

 嘘じゃない。最初にみたシルヴィオレの淀んだ青い目は何にもなかった。ただ、どうやっても死ねない、何もできない、ただ時だけが過ぎていくこの世界を呪う事すらやめてしまった、そんな目をしていた。

「嘘じゃないさ、魔王には感情があるんだ。ヘンテコだけど命があるんだ。可愛がってやらなきゃ心が死ぬんだぞ」

 スクルドが偉そうな顔で言ってるけど、俺、可愛がってもらってたっけ?

「可愛がってるだろ?毎日ベッドで。今から可愛がってやろうか?」
「え、やだけど」

 俺、顔に出てたか?ウルズが変な事言い出したぞ。てか魔王がヘンテコなら勇者だってヘンテコだろ!

「なあ、ウルズ。勇者ってさ、魔王に結構執着するよね」
「うーむ、そうだなあ……俺らもたいがいアッシュちゃんにくっ付いてるしなあ。乳首つまんでいい?」
「だめ、痛いから。なんかあるのかなぁ?」
「あー昨日噛んだっけ?俺らもアッシュちゃんを売っぱらって大金は手に入れたけど、なーんか虚しくなったしなぁ。結局未練があったんだろうな、藤の宮に見に行ったりしてたし……多分、あるよ。そういう因果」

 服の下をごそごそと漁るウルズの手をペンっと叩いたけど、やめる気はないみたいだ。すぐ治らないっつーの。

「可愛がる!?俺だってシルヴィオレのことを、愛して……愛してたのに!! 」
「一人身勝手に愛を叫ばれても迷惑だろーに。そんなんだから羽も喰わせてもらえない」
「は、はね……?何のことだ」

 あースクルドそれは無理だ。

「スクルド、シルヴィオレはレベル20だった。羽は出せなかったよ」
「20かあ……そんな低レベルでこんな所に繋がれちゃって。まあ絶望するよね、死にたいよね」
「だって……だって魔王は死なない」

 ミーミルのいうことは正しい。魔王は死なない。

「死ななきゃ何でもして良いの?こわー。ま、シルヴィオレはもういないし、お前も自由に生きたら?」
「う、うう……うううう!」

 俺達は蹲って泣くミーミルをその場に放置して家路についた。ミーミルはその後どうしただろう、まあ後を追った気がするけど個人の判断に任せよう。

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