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42 魔王シルヴィオレ

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「俺、魔王アッシュは魔王シルヴィオレを喰う」
「俺、魔王シルヴィオレは魔王アッシュの餌になる」

 目の前で魔王シルヴィオレが粉になって風に散った。

「シルヴィ!シルヴィ!!うわあああああっ!」
「しゃーねぇだろ。それがシルヴィオレの意志なんだからよお」
「泣くくらいならなんでシルヴィオレに優しくしてやんなかったんかねえ」

 銀色の長い髪が印象的なシルヴィオレ。彼は古城に鎖で縛りつけられていた。魔王は何も食べなくても生きていける。かび臭くて、朝日が数時間だけ差し込み後は真っ暗な古城でたった一人……たまにやってくるのはそこで這いつくばっている勇者ミーミル。ミーミルは何故かここにシルヴィオレを一人置いていた。

「だって、だって、いつまで経ってもシルヴィは俺を愛しているって言わないんだ!だから、だからお仕置きで」
「どうして自分を鎖で縛って放置しておく奴を好きになると思ったんだ?」


 俺達が古城に囚われの魔王がいるらしいという噂を聞いてやってきたら、本当にシルヴィオレが縛られていた。

「なんて趣味の悪い……おい、聞こえるか?」
「……」

 最初シルヴィオレの目は何も映していなかった。見ることを諦めた目をしていたけれど、俺の頭についている角を見て、見ることを思い出したようだった。

「……まおう……なのか」
「ああ、お前に死を持ってきた」
「死……それは冗談でもキツい部類のヤツだな……」

 シルヴィオレはいつから絶望していたのかは知らないけれど、だいぶ絶望に飼いならされていた。まあいいさ、魔王なんてみんなそんなもんだから。

「もう、5人くらい魔王を殺したよ。さあ、手を出して。どういうことか教えよう」

 いつも通り手を組み、あの時を思い出す。あの時のすべてが目の前の魔王へ伝わるように……馬鹿な俺達にも救いの手を伸べる人がいたことを一つ残らず伝えるように。

「貴様あああああ!何をしている!シルヴィオレから離れろッ!」

 そこに踊り込んできたのがミーミルだった。完璧な形で伝えたい俺は「伝える事」にすべてを注いでいる。思いっきり無防備なんだけど。

「おーっとシルヴィオレの勇者は礼儀がなってねーなあ?」

 ガキィンっと大きな音がしたけれど、俺は放置する。今はシルヴィオレにすべてを伝えることが先決だ。閉じた目から涙があふれている……そうだ、お前は解放されるんだ。

「どけっ俺の魔王に触れるな!」
「やーだよ、俺達の魔王のやってることにケチつけんなよっと!」

 ウルズがミーミルの剣を剣で受け止め、横腹をスクルドが思いっきり蹴飛ばす。ミーミルは遠くの壁まで弾け飛ぶがすぐに戻ってくる。

「暇だし、遊んでやるか」
「2対1だけど、ごめんねー俺ら双子だからさー」
「黙れ黙れ黙れーーー!! 」

 俺がシルヴィオレにすべてを伝え終わった時、ミーミルはウルズが上に座り、スクルドの剣で手のひらを突き刺されていた。

「くそっくそっ!なんで、なんでこんなに強いんだ!」
「そりゃあ魔王アッシュちゃんの下僕だからね」
「アッシュちゃんから色んなものを引き出せるからねぇ。だいぶ前にニンゲンやめたんだよ」

 わあわあと外野がうるさい中、シルヴィオレは目を開けた。真っ青な綺麗な目だった、もう決意して迷いも何もない澄んだ目だった訳だ。

「アッシュ、俺を喰ってくれ」
「喜んで」

 そうして魔王シルヴィオレは即断した。
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