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21 王太子殿下の悪い遊び(婚約者ベルナデットの嘆き)
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カグラス様が悪い遊びに取り憑かれてしまった。
「次はいつ行ける?」
「……十日後ではいかがですか?」
「よし、それまでに仕事を仕上げてしまおう」
「はい」
いつにもまして政務に励んでおられる。それは良いのです、しかしわたくしは婚約者として物申さねばならないのです。
「殿下、人の噂になるような場所へ足を運ぶのはやめていただきたいのですが」
「……ベルナデット、それくらいは目を瞑ってくれないか? 」
「殿下!」
「この話は終わりだ!」
殿下はわたくしを振り切って行ってしまわれた……なんと言うこと……まさか娼館に、魔王と戯れに行かれるなんて!
「ベルナデット様……」
わたくしの侍女が気遣わしげに声をかけて来るがわたくしは上手く返事が出来ない。
魔王……数年前から突如として現れた角を持つ生き物。人間と似ているが纏っている雰囲気がまるで違う。そしてその美貌は薄寒いほど美しいものばかり。背徳、そんな言葉が相応しい魔の者達。
最初、人間はこの魔王に対処する術がなく、たくさん犠牲になった。しかし魔王に対抗する者達が現れ始めたのだ。それが勇者だった。勇者は普通の人間より強かったが、魔王は優勢だった。
そして、ある技が習得されてから、魔王はその数を激減。そして何人も捕えられ始め……魔王を好きを扱えると言う優越感に人々は酔ってしまった。
それが娼館に魔王が飼われ始めた理由。そして我が国の近くの娼館に魔王が在籍していると言う話をカグラス殿下は知ってしまった。以前から魔王を見てみたいとおっしゃっていた殿下。その魔王と触れ合えると周囲の静止も聞かず、数名の護衛と共に出かけられてしまったのだ。
「アッシュ……良かったなぁ」
無事お帰りになった事には安堵したが、殿下は魔王に執着してしまった。後から聞いた話なのだが、「魔王」と「王族」には惹かれ合う何かがあり、執着したり、嫌悪したり……なにか特別な関係性があるらしかった。
そして沼から抜け出せぬようにズブズブと魔王に嵌ってゆかれてしまった。
「良いではありませんか。魔王とはいえ、所詮男娼。子が出来るわけでもない、ただの遊びですよ。それで気が晴れて仕事も真面目にこなして下さる。良い事ではないですか?」
「そう、でしょうか……」
確かにその魔王の元に通い始めてから、殿下の仕事は明らかに精度を増し、処理も早くなっている。
「ああ、早くアッシュに会いたいなぁ」
ほおを染め、まるで恋する少年のように空を見上げている姿にはため息しか出ないが。
わたくしと殿下は完全な政略結婚の為の婚約だ。だから、愛とか恋とかはないけれど、お互いに尊重しあっている、はずだ。
「良いではありませんか。女性に手を出している訳ではないですし」
「……そう、ね」
同意したのは間違いだった。カグラス様はアッシュという魔王を手元に置くと言い出し始めてしまったのだ。
「殿下、魔王ですぞ!」
「魔王といっても大人しい…‥ただ、角のある少年のようなものだ。何も人間に危害は加えない!」
「お忘れか!魔王は魔王です、人間を襲います!」
「アッシュはレベルが5しかない。その辺の子供と大して変わらない……お前、レベル5の者を片手でいなす事は可能か?」
「……簡単でございますが、しかし!」
「アッシュは大人しい魔王だ。娼館から逃げ出す力もないような、そんな奴なんだ……何も、何も悪さなんてしない。ステータスも見た、本当に何にもできない魔王なんだ」
娼館から安くはない金額の提示。しかし熱心なカグラス様……。その魔王がいればカグラス様は真面目に政務に取り組み、次期国王としての責務も果たすと約束してくれた。
「その魔王、時が来たら娼館に返すことはできますか?魔王は長寿だという、カグラス様に必要がなくなったら、娼館に戻す、それでいいなら」
その条件を娼館も飲んだという……そしてカグラス様は魔王アッシュを連れて帰り、小さな離宮に住まわせた。その敷地から絶対に出さないという条件で。魔王は何の不平も漏らさずそこで暮らし始めた。
「……美しいです。本当に背徳感のある美貌の持ち主ですよ、アレは」
そうメイド達から報告があった。そしてわたくしも魔王アッシュを目にするのである。庭までなら出ていいと許可を取ったという次の日、魔王は外を歩いていた。
本当に美しい少年のような姿だと、目を奪われた。キラキラと輝く白銀の髪に、宝石のような紫の瞳。肌の色はどこまでも白く、唇が花びらのように赤い……なんて、なんて美しい姿!それなのに、見てはいけないものを見てしまったような心地の悪さを感じさせる……昼間、陽の光の下で見かけたのにそこだけ健全な光が吸い取られたかのような雰囲気。纏う空気は完全に夜の色をしている……淫靡?悪い誘惑?そんな言葉がちらつく姿……。
本人は鼻歌でも歌いそうなほど軽い足取りで時折しゃがみこみ庭の地面を眺めて微笑んでいる。長い間監禁生活が続いていたらしいので、外に出られるだけでも楽しいのかもしれないけれど……。
「ダメ……駄目だわ……早く追い出さなきゃ」
そう、私の本能は告げていた。ここにあの魔王を置いておいてはいけない。この国が潰されてしまうと。直接会って追い返そうとしたが、はっきり言われてしまうのです。自分にその権限はないと。言われてみればそうかもしれません、きっとこの魔王は自分の意志でここに来たかったわけではないのでしょう。カグラス様に連れて来られたからここにいる、そういう事なのです。
カグラス様を何とか説得しなくては……あの魔王はここにおいて良い存在ではないとお伝えしなくてはなりません。
「次はいつ行ける?」
「……十日後ではいかがですか?」
「よし、それまでに仕事を仕上げてしまおう」
「はい」
いつにもまして政務に励んでおられる。それは良いのです、しかしわたくしは婚約者として物申さねばならないのです。
「殿下、人の噂になるような場所へ足を運ぶのはやめていただきたいのですが」
「……ベルナデット、それくらいは目を瞑ってくれないか? 」
「殿下!」
「この話は終わりだ!」
殿下はわたくしを振り切って行ってしまわれた……なんと言うこと……まさか娼館に、魔王と戯れに行かれるなんて!
「ベルナデット様……」
わたくしの侍女が気遣わしげに声をかけて来るがわたくしは上手く返事が出来ない。
魔王……数年前から突如として現れた角を持つ生き物。人間と似ているが纏っている雰囲気がまるで違う。そしてその美貌は薄寒いほど美しいものばかり。背徳、そんな言葉が相応しい魔の者達。
最初、人間はこの魔王に対処する術がなく、たくさん犠牲になった。しかし魔王に対抗する者達が現れ始めたのだ。それが勇者だった。勇者は普通の人間より強かったが、魔王は優勢だった。
そして、ある技が習得されてから、魔王はその数を激減。そして何人も捕えられ始め……魔王を好きを扱えると言う優越感に人々は酔ってしまった。
それが娼館に魔王が飼われ始めた理由。そして我が国の近くの娼館に魔王が在籍していると言う話をカグラス殿下は知ってしまった。以前から魔王を見てみたいとおっしゃっていた殿下。その魔王と触れ合えると周囲の静止も聞かず、数名の護衛と共に出かけられてしまったのだ。
「アッシュ……良かったなぁ」
無事お帰りになった事には安堵したが、殿下は魔王に執着してしまった。後から聞いた話なのだが、「魔王」と「王族」には惹かれ合う何かがあり、執着したり、嫌悪したり……なにか特別な関係性があるらしかった。
そして沼から抜け出せぬようにズブズブと魔王に嵌ってゆかれてしまった。
「良いではありませんか。魔王とはいえ、所詮男娼。子が出来るわけでもない、ただの遊びですよ。それで気が晴れて仕事も真面目にこなして下さる。良い事ではないですか?」
「そう、でしょうか……」
確かにその魔王の元に通い始めてから、殿下の仕事は明らかに精度を増し、処理も早くなっている。
「ああ、早くアッシュに会いたいなぁ」
ほおを染め、まるで恋する少年のように空を見上げている姿にはため息しか出ないが。
わたくしと殿下は完全な政略結婚の為の婚約だ。だから、愛とか恋とかはないけれど、お互いに尊重しあっている、はずだ。
「良いではありませんか。女性に手を出している訳ではないですし」
「……そう、ね」
同意したのは間違いだった。カグラス様はアッシュという魔王を手元に置くと言い出し始めてしまったのだ。
「殿下、魔王ですぞ!」
「魔王といっても大人しい…‥ただ、角のある少年のようなものだ。何も人間に危害は加えない!」
「お忘れか!魔王は魔王です、人間を襲います!」
「アッシュはレベルが5しかない。その辺の子供と大して変わらない……お前、レベル5の者を片手でいなす事は可能か?」
「……簡単でございますが、しかし!」
「アッシュは大人しい魔王だ。娼館から逃げ出す力もないような、そんな奴なんだ……何も、何も悪さなんてしない。ステータスも見た、本当に何にもできない魔王なんだ」
娼館から安くはない金額の提示。しかし熱心なカグラス様……。その魔王がいればカグラス様は真面目に政務に取り組み、次期国王としての責務も果たすと約束してくれた。
「その魔王、時が来たら娼館に返すことはできますか?魔王は長寿だという、カグラス様に必要がなくなったら、娼館に戻す、それでいいなら」
その条件を娼館も飲んだという……そしてカグラス様は魔王アッシュを連れて帰り、小さな離宮に住まわせた。その敷地から絶対に出さないという条件で。魔王は何の不平も漏らさずそこで暮らし始めた。
「……美しいです。本当に背徳感のある美貌の持ち主ですよ、アレは」
そうメイド達から報告があった。そしてわたくしも魔王アッシュを目にするのである。庭までなら出ていいと許可を取ったという次の日、魔王は外を歩いていた。
本当に美しい少年のような姿だと、目を奪われた。キラキラと輝く白銀の髪に、宝石のような紫の瞳。肌の色はどこまでも白く、唇が花びらのように赤い……なんて、なんて美しい姿!それなのに、見てはいけないものを見てしまったような心地の悪さを感じさせる……昼間、陽の光の下で見かけたのにそこだけ健全な光が吸い取られたかのような雰囲気。纏う空気は完全に夜の色をしている……淫靡?悪い誘惑?そんな言葉がちらつく姿……。
本人は鼻歌でも歌いそうなほど軽い足取りで時折しゃがみこみ庭の地面を眺めて微笑んでいる。長い間監禁生活が続いていたらしいので、外に出られるだけでも楽しいのかもしれないけれど……。
「ダメ……駄目だわ……早く追い出さなきゃ」
そう、私の本能は告げていた。ここにあの魔王を置いておいてはいけない。この国が潰されてしまうと。直接会って追い返そうとしたが、はっきり言われてしまうのです。自分にその権限はないと。言われてみればそうかもしれません、きっとこの魔王は自分の意志でここに来たかったわけではないのでしょう。カグラス様に連れて来られたからここにいる、そういう事なのです。
カグラス様を何とか説得しなくては……あの魔王はここにおいて良い存在ではないとお伝えしなくてはなりません。
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