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12 一条のコード

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 ただ空気を吸って吐き出す日々。低燃費の魔王は飯もあんまり食べなくても死なない。便利な道具だ。

 最初、魔王を捕まえることなんてできなかった。人々は恐怖し、魔王を畏れた。だからゲーム通りに魔王は人間を狩っていった……しかし、そこに勇者が現れる。勇者は魔王に倒されるNPCだったのに、変化が起こった。

「う、うそっ!何で勇者に負けるのよ! 」
「こっちだって、進化してんだよ!! 」

 何故かは分からないが……あまりに高度に発達し過ぎたAIのせいなのか、偶然なのか……それこそ、何か超次元的な神の力なのか。
 もしかしたらこの世界が日々増えて行く魔王を駆逐したかったのか……。勇者に負ける魔王が増えて来たのだ。負けると魔王は死に戻る。

「ちぇー死んだぁ。やり直しかよ」

 現実世界ではVRゴーグルを外す人々。そしてまた始まるニューゲーム。勇者が狩っても魔王は減らない。そして世界は魔王を捕える方法を見つけたのだ。

「魔王を「ログアウト」させずに弱いまま、この世界に留めおけば良い」

 絶技、という勇者にしか使えない技が発生した。

「っ?!」

 それでも絶技で捕らえたはずの大半の魔王は消えた。

「勇者強すぎ、クソゲーじゃん!」

 長時間ゲームを起動し過ぎると起こる強制終了のお陰だ。それでも現実でメイド魔王の評価は下がっていき、この世界に訪れる魔王は減っていく。
 そして決定的な死亡事件が起こるのだ。廃ゲーマーがゲームをしながら死んだ。違法パッチを当てて強制終了しないようにした……そして勇者にログアウトを取り上げられた魔王の中の人は、現実で飲まず食わずの後、力尽きる。
 最初に死んだ魔王もまだ世界に取り残されているだろう。
 そして現実世界でメイド魔王は発売禁止になり、闇に葬られた。そして新たな魔王はほとんど現れなくなったのに、たまに来るのだ。アッシュのような事を甘く見ている馬鹿なゲーマーが。そして、世界に囚われる。


「え……」

 自分の馬鹿な選択で、現実で全てを失い魔王アッシュになってしまった中村悠馬の世界に、光が差したのだ。

 それは光、ではなく一条のコードだった。

「ス、ステータス、オープン……」

 一人、豪華で汚い部屋でそう呟いてアッシュは震え、隠れて声を押し殺して泣いた。

「うっ。うう、うーーーっ」

 アッシュのステータス画面にはログアウトの文字は、ない。ただ、ここに来てから何も変化のないステータス画面に変化が出たのだ。

「ス、ステータス能力、偽装……っ」

 新しいスキルが追加され、それは実行された。アッシュの能力値は元と変わらない物になる。でもアッシュ本人には隠された能力が見えている。
 追加された能力は「ステータス能力偽装」。呼んで字のごとく、ステータス画面を偽装出来る、だ。そして黒く見え辛くなっているが、昨日まで無かった能力、これは非アクティブ状態だが、確かにあるという証拠。
「同族喰らい」。これは魔王が魔王を殺せるという事だろう。

「う、うう……う」

 絶望し、死を願う魔王達の願いを叶えてやれる能力になるだろう。

「うーーーーっ」

 それよりもアッシュが涙したのは誰かが手を差し伸べてくれたこの事実だ。

 現実で死んでそれで終わらないこの世界。この世界にまだ救いが必要な事を誰かが気づき、誰かが実行してくれた事が、嬉しくて嬉しくて仕方がなかったのだ。

「洞窟、洞窟へ行かなきゃ……」

 ゲームでの始まりの場所、自分の魔王洞窟で救い主が待っている。その事がはっきり分かった。







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