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60 人間らしさが減ってない?

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 そして俺は夢を見る。

爆炎と、破壊音。舞い散る火の粉とまるで怪獣映画のような巨大な影。はは、一体何が起こってるんだ?気にはなったけれど、目は開けなかった。だってとても眠かったんだ。

ぽこ。

 適当に地面に寝転んだのが悪かったんだろう。

ぽこ。ぽこ。

 聞こえないはずの可愛い音がする。それはぽこぽこ、ぽこぽこと俺の周りから音を出して生え、いつの間にかぐるりと一周囲まれた。

きゃはは!開いた、開いた、扉が開いた。
あの日でもないのに扉が開いた!
一名様、ごあんなーい!
うわ、何この子、すっごーい!

いらっしゃい、いらっしゃい!常若の国へ!

「ん……」

 眩しい。ただの芝生の上に寝転がったのに、光が地面から漏れている。そして俺の座っていた地面が消えた。

「わ!」

 光の中に落ちてゆく!

「どういうことだーーー!」

 俺の叫びは外にはあまり漏れなかったようで、俺が寝転んでいた芝生の周りにはぐるりと一周白いキノコがサークルを作って生えているだけだった。

「凄い!凄い!世界を攪拌する者!魔王を捕まえちゃった!」

ん?なんて??

 俺は月が物凄く大きく見える丘の上に移動していた。

「魔王~踊ろう!素敵なフェアリーリングができてるよ!」

「今期の魔王はちっちゃいなぁ!」

「あはは!秘めた力は大きいね」

「踊り明かそう、魔王。そして妖精族にも力を分けておくれ!」

 きれいな昆虫の羽みたいなものを装着した可愛い自称妖精達に俺は囲まれていた。いや待て、聞きたいことが山のように出てきたぞ、おい!

「おい待て、ここはーー」
「ここはかなり離れた場所。竜の羽ばたきでも4日はかかる場所!」
「ここに火はない。火の精霊じゃあ見つけられない場所」

 小さな、手のひらに乗りそうな奴らがぱたぱたと羽を忙しなく動かして俺の周りを飛んでいる。その度に羽からキラキラ輝く粉が舞って、幻想的であり……幻惑的な何かが見える気がする。

「俺はーー」

「キミは魔王だ。世界に死と混乱を撒き散らす者、だがそれは変革であり、攪拌である。滞った流れを整えるんだ、それが使命だろ?魔王」
「でもこの魔王弱い!弱すぎーーきゃははは!」
「だから自分以外を強くする力を持たされたのさ!火種だ、争いの火種だよ!」

 ぐるぐる飛び回りながら腹を抱えて笑っている。そういうことなのか?俺がこの世界に来たのは美味いもんを食ってゆっくりするためじゃないのか?

「なぁに、君は美味いもんを食ってゆっくりすれば良い!周りが勝手にかき混ぜて行くんだ。君は何も悪くない、悪いのは?」

ーーかみさま、さーー

 妖精達は踊りながら歌いながら飛び回る。楽しそうにラッパみたいになった花を吹く者もいる。

「ねえ、魔王。名前を教えておくれ?」
「弱っちい魔王、俺らと遊ぼう。そして俺らも流れを作る!一緒に遊ぼう」

「おれ、おれ……俺の名前は、リクト、だよ」

「そう、リクト。リクト、いい名前だね!さあ、立とう魔王!妖精の恐ろしさを人間に思い出させてやろう、魔王!」

「おれは、あれ?魔王だっけ?」

 俺はいつの間にか今度は魔王になっていた。

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