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55 ゆるし

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 流石にすぐには決められないと、オルネラさんは言う。当然だな。

「ねえ、イス。オルネラさんを遠くからでも守ってやれる何かない?このまま彼女を帰したら、彼女絶対に幸せになれない。きっと誰か権力者に弱味を握られてそいつの言われるままにイスの力を振るうように言われちゃう気がする」

「あり得る話だな」

 イスファーンは少し悩んでから「少し目立つが我慢しろ」と言ってオルネラさんに左手を出すように言った。恐る恐る差し出した左手の甲をトントン、と爪の先で突くと血が滲んだ。少し痛かったのか彼女も顔を顰める。

「ここ、俺の鱗を一枚張り付けておく。これがあればオルネラに何が起こったか、オルネラが何を言われたか全部俺に分かる。いつもは見ていないが、ここに暫くは記録されることになる。オルネラが何者かによって意思を捻じ曲げられたらすぐ分かるようにな。用があればコレに向かって念じてから話せ、大体聞こえる」

「わ、わかりました……」

 親指の爪くらいの大きさの真っ黒い鱗が一つだけじんわり染み出してきて、皮膚に張り付いた。

「お前がもう願いはないと俺に伝え、俺も了承した時にそれはなくなる。それまでついたままだが我慢しろ」

 女性の手に変なものをつけるのはどうかと思うが、危ない目に合うよりきっとマシだろう。一度家に帰るというオルネラさんに俺は声をかけた。

「ねえ、最近フィンから手紙が行った?俺がここに来てから君に手紙をって何枚か書いてたんだけど」

「……いいえ、フィン様からは3年前別れたっきりなにも……そう、手紙を……あなたがそんな提案を?」

「うん。話を聞いたらフィンって最低だって思ったからね。手紙書いて謝りなって言ったんだけど、ついてなかったんだ……」

「見て……見たかったです」

「俺も見せたかったな……結構真面目に書いてたんだけどな」

 女性が好きそうな便箋を取り寄せて何度か間違えながら色々書いていたっけ。流石に内容は見てないけれど、真摯な言葉が綴られていたはずだ。

「……あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「俺?俺はリクトだよ」

 オルネラさんはふと優しい顔をして

「ありがとう、貴方のお陰できっとフィンは楽しく過ごせたんでしょう。フィンに変わってお礼を申し上げます。そして私も長年の後悔が少し解けたような気が致します。あの時、もっと上手くできなかった自分を恥じて悔いる日々でした……もう、良いのですね?」

 なんで俺に聞くんだろう?そう思いながらも俺は答えてしまう。

「うん、もう良いよ。大丈夫、君が背負うべきものはもう何一つないよ。君とフィンは赦さている」

 まるでそれは神が人間の罪を赦すようだったなんて、きっと誰も思っていないよな?

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