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11 荒縄のアンナ 終

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「何故、アルザール様は魅了から解き放たれたのでございましょう?」

 解呪のために呼ばれた術師、医者は首を捻った。

「私は魅了魔法なんて使ってない!出してよ!ここから出して!!」

 そう叫び続けるアンナを他所に話し合いは行われていた。

「どうもあのアンナをと言う者は無意識のうちに魅了を発動させていたようです。今は魔力封じをつけていますが、意識化で行っていない為、解呪は出来ない様子」

「厄介な……」

「アルザール様、あの者の魅了が解けた時のことを思い出して下され」

 アルザールはぼんやりする記憶を懸命に探る。王太子の安全がかかっているのだ。

「あの時……確か」

 2年生のフローラ嬢とその友人、そしてもう一人一年生の女生徒がいた。

「確か、リカルドの妹だったような」

 そういえばリカルドは共にアンナのそばにいたことがあったはず。だが、突然近寄らなくなっていた。

「フローラ嬢とリカルドに話を聞く必要がありそうだな」

 医者は術師達の了解を得てから、アルザールはリカルドとフローラへ話を聞くために学園に顔を出した。フローラはアルザールとの面会を渋ったが、リカルドも一緒であるという事で応じてくれた。

 ひとまず学園長室に二人は呼ばれた。

「お話とは一体なんでしょうか?」

 アルザールから、先日の件で謝罪と言われたのに学園長室である事から、二人は不信感に包まれていた。

「まず、先日、フローラ嬢に声を荒げた件について謝罪したい。言い訳になるかもしれんが、何故あのような事をしたか私にも分からなかった……が、全ての元凶はアンナである事が分かった。リカルド、お前も一時期アンナに侍っていただろう……あれのせいだ」

「……思い出したくもない過去です。本当に自分が情けなく、恥ずかしい汚点です」

 吐き捨てるようにリカルドは言う。

「分かってくれ、許してくれとは言わないが、アンナは捕らえた。もう二度とあんな事は起こらないはずだ。フローラ嬢、申し訳ない事をした。恐ろしかったであろう、すまない」

「大丈夫です、アルザール様。私にはリカルドもお友達もいますから。それにしてもアンナさんが捕まったとはどう言う事なのですか?」

 協力を仰ぎたい二人に、アルザールはアンナが禁忌魔法の魅了使いである事を伝えた。

「なんと!」「まあ……恐ろしい……」

「王子がまだその呪縛から解けないのだ。何かないか?リカルド、お前が呪縛を解いた時は何かしたか?私が呪縛から解かれた時は何かあったか?些細なことでも良い。何か、なにかないか?!」

 しかし、リカルドもフローラも何も特別な事は思い当たらなかった。

「すみません、アルザール様」

「いや、いい。しかし何か分かったらすぐに教えて欲しいと思う!どんな事でも良い」

「必ずや」

 リカルドとフローラはお辞儀をして学園長室を後にした。

「やはり、隣国より解呪士を招きましょう。このように強い魅了は危険です。長期間晒されれば人格の変容を招きやすくなります。一刻も早く!」

「そう、だな」

 外聞より、優秀な王太子と学友を失う訳にはいかない。王の名で書かれた救援を求めた書簡は隣国へ届き、すぐに解呪士がやって来て、十人掛でやっと王太子の解呪に成功した。
 他の二人も解呪士の回復を待って次々と解呪する事ができた。

「恐ろしく根が深く、強力な魅了でした。伝説の黒魔女の再来かと思われました」

「これが17歳の少女の力とは思えませぬが……少々実験に使ってはみたいですなぁ」

 裏取り引きはなされ、必ず逃さないよう、二度とこの地は踏まぬよう、この件は内密に。と強く念を押して、戻る解呪士団の一行の中にアンナは詰め込まれた。

「あれ?「ホウレンソウ」って隣国編あったかしら?まぁいいわ!まだ見ぬイケメン!顔を洗ってまってなさいよーー!」

 意気揚々とするが、その後アンナの姿を見た者は誰一人としていなかった。

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