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71 今はだめ
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「ひいいいいいいいいい!」
尻尾の毛が全部立ってるフォーリが俺に抱きついている。
「アッシュなんて比じゃない!デール怖い!デール怖いいいいい!」
「フォーリ、前が見えないよ……」
グレイデールには馬車で向かった。グレイアッシュの騎士とグレイデールの騎士の混合部隊に守れられてゆっくり進んでいったけれど、グレイデールの国境を越えて王都に近づくにつれてフォーリの毛がきれいに全部逆立っていく。
王のご帰還じゃ……!
正当なる王のご帰還である!
「……俺、王様じゃないし」
王じゃ、王じゃ!我らが王じゃ!
話聞いてくれない人がいっぱい飛び回ってる……凄い、いっぱい……。
「にゃにゃちゃあん……おれ、いっしょうけんめいにゃにゃちゃんのこと、ぶちゅりてきにまみょるから……おにぇがいみしゅてにゃいで……」
「あ、うん……頼むね、フォーリ」
涙と鼻水にまみれたフォーリに文字通り泣きつかれた。よっぽど怖いらしい。
「向こうよりにゃにゃちゃんを取り込もうとする力が強い気がする」
「そっかなあ、亡霊なんて皆同じでしょ?」
「にゃにゃちゃん!たくましい!抱いて!」
「……やだけど……」
フォーリにしがみつかれている俺を出迎えたのはとても偉そうな女王様だった。
「たかが妾腹の子が……このグレイデールに何用か!早々に去ね!」
わあ……周囲はざわつくし、一瞬で辺りの気温がギュンっと下がった。
「ぴえっ」
フォーリが情けない声を上げるけど、これは女王様が怖いんじゃなくて、冷気と殺気だった亡霊達の気配が怖すぎるだけ。耳は寝てるし、尻尾は股の間に入ってブルブルしている。
「フィオナ王妃!何を仰るのです!ナナ様はトライフト様がお認めになった次期国王にして宝冠を持つ者!いくら王妃様といえ、ないがしろにしてよい方ではございません!」
「黙れ!突然現れたどこの馬の骨とも知らぬ小僧に、下げる頭など持ち合わせてはおらぬ!次期国王は我が長子アンネリーゼと決まっておる!早くその者を処分してしまえ!目障りだ、汚らわしい!」
「トライフト様はナナ様に全てを譲ると申されておりました!」
なんだなんだ……こっちの国でも揉めてるなあ。まあそりゃそうか、突然現れた俺みたいな訳の分からん奴に国を譲るとか言われても困るよな、俺も困るし。
「俺だって困ってるんだけどなあ……」
俺、王様なんかなりたいって思った事ないのに、俺の父親だったトライフトさんなんて顔も知らないや。断ろうにも亡霊の皆さんの圧が凄すぎて口に出せない。フォーリも
「今はだめ!」
って言うし……。
身の程知らずとはこのことか
愚かな女だと思っていたが、我の見立てに間違いはなかったな。
もう要らぬ、退場願おう。
この女の娘も王の血筋ではないしの
……あ、なんかすごいこと言ってるのが聞こえる……。でも俺が止める事は無理なんだよね。
「お黙り!お前たちは私の言う事が聞け……う……ッ……」
「王妃……?」
つかえぬ王妃よ、こちらへ招いてしんぜよう
ほほ、さすればナナの偉大さが分かると言う物
ナナ様は導く者……
王妃様はその場に倒れて喉を掻きむしっている。
「フィオナ王妃!?いかがなされた!?」
まるで空気が吸えないように、口をパクパクさせてもがいている。怒りで真っ赤だった顔が青くなり、そして白くなって……。
「誰か、医者を!王妃の様子がおかしい!」
わあっと人が寄って来て、俺から王妃は見えなくなった。きっと一言も発せずに王妃は死んじゃうだろうと思う……意識が失われるまで苦しんで苦しんで……人の手ではどうしようもなくて、そのまま帰らぬ人になるだろう。
「亡霊の仕業だな」
「俺もそう思う……」
亡霊が心臓を握れば心臓麻痺、肺を握れば息が出来なくなってああなる……多分そうだ。一気に苦しまずに行けるだけ心臓麻痺の方が良いんだろうか。
「ナナ様はこちらへ、お部屋に案内致します」
青い顔をしたメイドがその場から遠ざけてくれた。フィオナ王妃はまだ苦しんでいるだろう。彼女の周りには生きた人間もいるが、亡霊達がニヤニヤと嗤いながらその様子を楽し気に見ているんだから……。
尻尾の毛が全部立ってるフォーリが俺に抱きついている。
「アッシュなんて比じゃない!デール怖い!デール怖いいいいい!」
「フォーリ、前が見えないよ……」
グレイデールには馬車で向かった。グレイアッシュの騎士とグレイデールの騎士の混合部隊に守れられてゆっくり進んでいったけれど、グレイデールの国境を越えて王都に近づくにつれてフォーリの毛がきれいに全部逆立っていく。
王のご帰還じゃ……!
正当なる王のご帰還である!
「……俺、王様じゃないし」
王じゃ、王じゃ!我らが王じゃ!
話聞いてくれない人がいっぱい飛び回ってる……凄い、いっぱい……。
「にゃにゃちゃあん……おれ、いっしょうけんめいにゃにゃちゃんのこと、ぶちゅりてきにまみょるから……おにぇがいみしゅてにゃいで……」
「あ、うん……頼むね、フォーリ」
涙と鼻水にまみれたフォーリに文字通り泣きつかれた。よっぽど怖いらしい。
「向こうよりにゃにゃちゃんを取り込もうとする力が強い気がする」
「そっかなあ、亡霊なんて皆同じでしょ?」
「にゃにゃちゃん!たくましい!抱いて!」
「……やだけど……」
フォーリにしがみつかれている俺を出迎えたのはとても偉そうな女王様だった。
「たかが妾腹の子が……このグレイデールに何用か!早々に去ね!」
わあ……周囲はざわつくし、一瞬で辺りの気温がギュンっと下がった。
「ぴえっ」
フォーリが情けない声を上げるけど、これは女王様が怖いんじゃなくて、冷気と殺気だった亡霊達の気配が怖すぎるだけ。耳は寝てるし、尻尾は股の間に入ってブルブルしている。
「フィオナ王妃!何を仰るのです!ナナ様はトライフト様がお認めになった次期国王にして宝冠を持つ者!いくら王妃様といえ、ないがしろにしてよい方ではございません!」
「黙れ!突然現れたどこの馬の骨とも知らぬ小僧に、下げる頭など持ち合わせてはおらぬ!次期国王は我が長子アンネリーゼと決まっておる!早くその者を処分してしまえ!目障りだ、汚らわしい!」
「トライフト様はナナ様に全てを譲ると申されておりました!」
なんだなんだ……こっちの国でも揉めてるなあ。まあそりゃそうか、突然現れた俺みたいな訳の分からん奴に国を譲るとか言われても困るよな、俺も困るし。
「俺だって困ってるんだけどなあ……」
俺、王様なんかなりたいって思った事ないのに、俺の父親だったトライフトさんなんて顔も知らないや。断ろうにも亡霊の皆さんの圧が凄すぎて口に出せない。フォーリも
「今はだめ!」
って言うし……。
身の程知らずとはこのことか
愚かな女だと思っていたが、我の見立てに間違いはなかったな。
もう要らぬ、退場願おう。
この女の娘も王の血筋ではないしの
……あ、なんかすごいこと言ってるのが聞こえる……。でも俺が止める事は無理なんだよね。
「お黙り!お前たちは私の言う事が聞け……う……ッ……」
「王妃……?」
つかえぬ王妃よ、こちらへ招いてしんぜよう
ほほ、さすればナナの偉大さが分かると言う物
ナナ様は導く者……
王妃様はその場に倒れて喉を掻きむしっている。
「フィオナ王妃!?いかがなされた!?」
まるで空気が吸えないように、口をパクパクさせてもがいている。怒りで真っ赤だった顔が青くなり、そして白くなって……。
「誰か、医者を!王妃の様子がおかしい!」
わあっと人が寄って来て、俺から王妃は見えなくなった。きっと一言も発せずに王妃は死んじゃうだろうと思う……意識が失われるまで苦しんで苦しんで……人の手ではどうしようもなくて、そのまま帰らぬ人になるだろう。
「亡霊の仕業だな」
「俺もそう思う……」
亡霊が心臓を握れば心臓麻痺、肺を握れば息が出来なくなってああなる……多分そうだ。一気に苦しまずに行けるだけ心臓麻痺の方が良いんだろうか。
「ナナ様はこちらへ、お部屋に案内致します」
青い顔をしたメイドがその場から遠ざけてくれた。フィオナ王妃はまだ苦しんでいるだろう。彼女の周りには生きた人間もいるが、亡霊達がニヤニヤと嗤いながらその様子を楽し気に見ているんだから……。
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