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51 迎え撃つ者、逃げる者
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「兄上!」
「アッシュ、私達は会わぬ方がいい。行くぞ、ニナ」
「はい、我が君」
小さな何も知らない頃は兄のデールといつも一緒にいた。ある時から兄はニナと言う側付きを従え、アッシュと距離を置き始めた。
「王など、デールがなれば良い!」
最初からアッシュはそう思っていたが、周りはそれを許さなかった。そして、デール派とアッシュ派に分かれて対立を始め、大きな溝が広がる。
王はデールに。そう公言して、王弟として自分が兄を間近で支えるのだと。
しかし、兄とは隔離され、兄の側にはニナと言う護衛がいつも居る。そうして兄恋しさに忍び込んだ兄の居室で見てしまったのだ。
「ああ!ニナ、私の可愛いニナ!愛しているよ!」
「デール様、私も愛しております……あっ!あぁ……」
愛する兄が自分以外の者と愛し合う姿。
「兄上……私が兄上を一番愛していると言うのに……ふふ、いいでしょう。私の愛を、きっちり教えて差し上げますよ!」
そこからアッシュは積極的に動いた。グレイルを掌握し、兄をこの手に収めるために!
しかしアッシュの願いは叶わず、グレイルは割れ、兄とは完全に引き離される。
「グレイルなどいらない!私は、私はデールが欲しい!!」
その願いは永遠に叶わない。今でもそしてこの先も。
「王!アリディス王!!敵襲です!グ、グレイデールが、グレイデールの黒狼騎士団が国境を破りましたッ!先頭には金色の狼!グレイデール王の旗が掲げられております!」
「はっ!来たか……素晴らしい!」
「ひっ」
なんの前触れもなく、部屋の扉が開き兵士の大声が聞こえる。それまで奥の奥を舐られ、意識ももうろうとしていたのに、ナナは覚醒する。一気にずるりと引き抜かれ、ぶるりと震えた。
「迎え撃つ準備を!」「はっ!」
一枚ガウンをまとって歩き出す。本当に欲しい物を手に入れる為に。
「半分のコレはもう要らない。私はアレが、アレが欲しい!」
呆然とベッドの上で寒さに上掛けを引き寄せるナナに一瞥もくれることなく、アリディスは破られたという国境の方を見ている。
「ああ、私の兄上……今、参りますよ。今度こそ貴方は私の物だ!」
身のうちにある魂の咆哮に釣られて、アリディスは去ってゆく。
「た、助かった……?」
暫く、状況が分からずベッドの上で震えていたが、ナナは誰も自分の事を見ていない事に気が付いた。急いで服を身に着けて、扉の中に入る。
「ナナちゃん、大変よ。戦争になるわ!」
500歳だという元側妃が亡霊なのに慌ててナナに状況を伝えてくれた。
「よくわからないけれど、あのグレイデールの王自らグレイアッシュに攻め込んできたのよ」
「逃げるのよ、ナナちゃん。狙われているのは貴方みたいだわ!このままじゃ貴方はグレイデールの王を釣る餌に使われるわ」
「な、なにそれ怖い」
「急いで靴を履いて外套を羽織るのよ!そして外にある食べられるものを全部部屋に持ち込んで!」
たくさんの亡霊達がナナに話しかける。
「それが終わったら右の壁の下から12枚目のタイルを押すの」
言われた通りにタイルを押すとかび臭い臭いと共に壁の一部が人一人通り抜けられるくらいの隙間が空いた。
「ランプを持って!中に入って!!」
言われた通りにナナは従う。
「左の壁の出っ張り、そう、そこ!押して。扉が閉まるわ!」
何それ知らない!と若い亡霊達は驚いているが、「たくさんあるのよ、この城にはこういう使われなくなった仕掛けが。逃げるのよ、ナナちゃん!」
「あ、ありがとうございます!お姉様方!」
「素直でいいけれど、走って!」
「はいっ!」
部屋から出ているけれど、亡霊の声が聞こえる。ナナに声を届けようと必死なのだ。
「ああ!もう無理……私の力はここまで……」
「駄目だ!こんな所で溶けちゃ誰も見つけてくれないよ!」
「無事に逃げ切ったら、ナナちゃんが拾いに来てちょうだい……頼むわよ」
何百年前の側妃だったか分からない女性の亡霊は全ての力を失ってどろりと溶けた。
「俺はあなたの名前も知らない!」
「良いのよ、ナナちゃん!この混乱に乗じで逃げないとダメ!急いで!」
別の亡霊がナナを急かす。
「急いで、その角を左よ!」
たくさんの亡霊に囲まれ、ナナは城の壁の中から地下からに張り巡らされた抜け道を迷うことなく進んでいった。
「アッシュ、私達は会わぬ方がいい。行くぞ、ニナ」
「はい、我が君」
小さな何も知らない頃は兄のデールといつも一緒にいた。ある時から兄はニナと言う側付きを従え、アッシュと距離を置き始めた。
「王など、デールがなれば良い!」
最初からアッシュはそう思っていたが、周りはそれを許さなかった。そして、デール派とアッシュ派に分かれて対立を始め、大きな溝が広がる。
王はデールに。そう公言して、王弟として自分が兄を間近で支えるのだと。
しかし、兄とは隔離され、兄の側にはニナと言う護衛がいつも居る。そうして兄恋しさに忍び込んだ兄の居室で見てしまったのだ。
「ああ!ニナ、私の可愛いニナ!愛しているよ!」
「デール様、私も愛しております……あっ!あぁ……」
愛する兄が自分以外の者と愛し合う姿。
「兄上……私が兄上を一番愛していると言うのに……ふふ、いいでしょう。私の愛を、きっちり教えて差し上げますよ!」
そこからアッシュは積極的に動いた。グレイルを掌握し、兄をこの手に収めるために!
しかしアッシュの願いは叶わず、グレイルは割れ、兄とは完全に引き離される。
「グレイルなどいらない!私は、私はデールが欲しい!!」
その願いは永遠に叶わない。今でもそしてこの先も。
「王!アリディス王!!敵襲です!グ、グレイデールが、グレイデールの黒狼騎士団が国境を破りましたッ!先頭には金色の狼!グレイデール王の旗が掲げられております!」
「はっ!来たか……素晴らしい!」
「ひっ」
なんの前触れもなく、部屋の扉が開き兵士の大声が聞こえる。それまで奥の奥を舐られ、意識ももうろうとしていたのに、ナナは覚醒する。一気にずるりと引き抜かれ、ぶるりと震えた。
「迎え撃つ準備を!」「はっ!」
一枚ガウンをまとって歩き出す。本当に欲しい物を手に入れる為に。
「半分のコレはもう要らない。私はアレが、アレが欲しい!」
呆然とベッドの上で寒さに上掛けを引き寄せるナナに一瞥もくれることなく、アリディスは破られたという国境の方を見ている。
「ああ、私の兄上……今、参りますよ。今度こそ貴方は私の物だ!」
身のうちにある魂の咆哮に釣られて、アリディスは去ってゆく。
「た、助かった……?」
暫く、状況が分からずベッドの上で震えていたが、ナナは誰も自分の事を見ていない事に気が付いた。急いで服を身に着けて、扉の中に入る。
「ナナちゃん、大変よ。戦争になるわ!」
500歳だという元側妃が亡霊なのに慌ててナナに状況を伝えてくれた。
「よくわからないけれど、あのグレイデールの王自らグレイアッシュに攻め込んできたのよ」
「逃げるのよ、ナナちゃん。狙われているのは貴方みたいだわ!このままじゃ貴方はグレイデールの王を釣る餌に使われるわ」
「な、なにそれ怖い」
「急いで靴を履いて外套を羽織るのよ!そして外にある食べられるものを全部部屋に持ち込んで!」
たくさんの亡霊達がナナに話しかける。
「それが終わったら右の壁の下から12枚目のタイルを押すの」
言われた通りにタイルを押すとかび臭い臭いと共に壁の一部が人一人通り抜けられるくらいの隙間が空いた。
「ランプを持って!中に入って!!」
言われた通りにナナは従う。
「左の壁の出っ張り、そう、そこ!押して。扉が閉まるわ!」
何それ知らない!と若い亡霊達は驚いているが、「たくさんあるのよ、この城にはこういう使われなくなった仕掛けが。逃げるのよ、ナナちゃん!」
「あ、ありがとうございます!お姉様方!」
「素直でいいけれど、走って!」
「はいっ!」
部屋から出ているけれど、亡霊の声が聞こえる。ナナに声を届けようと必死なのだ。
「ああ!もう無理……私の力はここまで……」
「駄目だ!こんな所で溶けちゃ誰も見つけてくれないよ!」
「無事に逃げ切ったら、ナナちゃんが拾いに来てちょうだい……頼むわよ」
何百年前の側妃だったか分からない女性の亡霊は全ての力を失ってどろりと溶けた。
「俺はあなたの名前も知らない!」
「良いのよ、ナナちゃん!この混乱に乗じで逃げないとダメ!急いで!」
別の亡霊がナナを急かす。
「急いで、その角を左よ!」
たくさんの亡霊に囲まれ、ナナは城の壁の中から地下からに張り巡らされた抜け道を迷うことなく進んでいった。
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