【完結】僕とファイさんの恋愛事情。月と僕と貴方の世界。

鏑木 うりこ

文字の大きさ
53 / 61

53 上弦で俺は訳のわからん賛辞をされる

しおりを挟む
「ここにファイと言う人物はいるだろうか」

 作戦会議をしていた俺達は訪問者にギョッとした。白夜の翼のクランハウスは闇魔族に見つからないように目立たない場所にある。だからプレイヤー以外尋ねてくる事はないからだ。

「どうする」

「対応しよう、俺が出る」

 ヒソヒソと尋ねて来た男に聞こえないように打ち合わせをしてから、俺は姿を見せる。

「俺がファイだが、あんたは何者だ?俺はあんたみたいな知り合いはいねーんだけど?」

 竜騎士なら威風堂々としているから、相手もビビってくれるだろうが、錬金術師じゃ迫力が足りない。悲しいが仕方がない。
 男はぽかんと口を開けて俺の顔を見ている。なんだよ、目も鼻も口もちゃんとあるぞ?

「え……可愛いな」

「は?」

 兵士風の男は訳のわからん事を口にした。おい待て、俺はどこをどうみても男だろうが。何言ってんだ?こいつ。
 俺の冷たい一言にハッとしたのか、咳払い一つしてからやっと本題に入った。

「とある高貴な方がファイと言う人物を探している。一緒に来て貰えないか?礼は弾むぞ」

 これはなんだ、罠か?それとも何か俺の事を一方的に知っている奴の訳のわからん冗談か?
 視線を感じてチラリと後ろを振り返ると、フォートレイが口をぱくぱくさせて、無言で喋っている。

《そいつ、マクファーランの、騎士》

 へえ、キースの国ね。キースの野郎戴冠式も行うとか言ってるらしいな。なら見てやった方がいいだろう。

「俺がその高貴な人とやらが探している奴と同一人物か分からんが、礼が貰えるなら行っても良いぞ。その代わりたっぷり頼むぞ」 

「そうか!ありがたい。すぐにでも出発出来るか?」

「ああ、ここの家主に少しだけ挨拶させてくれ」

「構わん、表に馬車が止めてある。話が終わったら来てくれ」

 ああ分かったと男に伝える。男は笑顔で止まっている馬車へ向かい、俺は屋敷の中の仲間に振り返る。

「ちょっと前入りしてくるわ」

「ファイなら捕まっても素手で牢をぶち破るよな」

 おい、俺を何だと思ってんだ?

「あの人、ファイに惚れたな?顔をまじまじと見た後固まってたぞ?」

「マリアルフ何を言ってるんだ?別にプレイヤーなら美形に作るのは当たり前だろ?お前だってモテるんだろ?」

 も、モテねーよ!ちくしょう!なんて逆ギレして杖を振り回された。そう言う凶暴な所を治した方が良いだろうな?

「大丈夫?馬車であの人に襲われたりしない?貞操の危機よ?」

「フォートレイ、俺に襲いかかるような危篤な奴は居ない」

 フォートレイのよくわからん妄想にはついて行けない。

「大丈夫だ!ファイなら返り討ちだって!」

「でも急に押し倒されたら……なし崩しで……」

「ねーって!ファイなら、ねーよ!あははは!!」

 ない話だが、そこまで大笑いされると腹が立つ。レクシーの鳩尾にパンチを喰らわすと腹を抱えて蹲る。ざまーみろ。

「んじゃあ。お先、な」

「分かった。くれぐれも一人で無茶はするなよ?」

 騒ぎを聞きつけて現れた時透に手を振り、俺は馬車へと乗り込んだ。

 別にしばらく見ていないキースの阿呆面が早く見たくなった訳でも、あいつが婚約すると言う女の顔を見てみたくなった訳じゃない。

 ガタゴトと揺れる乗り心地の悪い馬車に身を委ね、窓の外を見る。クランハウスからマクファーランまでは3日も有れば着くだろう。

「なんと美しい……女神も確たるものか」

「……」

 聞こえないふりをしているが、多分騎士だと言う男の賛辞がとても耳障りだ。多分本人は口に出しているつもりは無いんだろうが、ぽかんと開いた口から俺にしっかり聞こえるくらいの小声でずっと呟いている。
 なんだ?プレイヤーに会ったことのないクチかぁ?全部聞こえなかったふりをして、流れる景色を見ていた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

処理中です...