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32 俺は上弦でぽりぽりして怒られる

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「ふへ」

「ファイさん!拾った傍から食べないで下さい!いつまで経っても溜まりません!」

「ふへ……」

 俺は木の実が好きだ。めちゃくちゃ好きだ。木の実を茶碗いっぱいに盛り付けて飯の代わりにかっこみたいくらい好きだ。
 だから秋は大好きだ。その秋が来た!

 ジジィとババァの家はもう直すところがない。扉もしっかりつけたし、窓もガラスを嵌めてやった。壁も厚くしたし、床もちゃんとしたから、冬も寒く無いだろう……ってこの村、温泉が地下を通ってるからあったかいんだけどな!

 夏は暑かったがな……。

 ぽりぽり、ぽりぽり。自慢じゃねーが、くるみは素手で割れる。俺たちは山に木の実拾いに来ているんだが、流石にキースの言い分はもっともだ。
 
 ぽりぽり、ぽりぽり。美味い。

「もう良いです!良いですか?自分で取らないと、ナッツケーキも作れませんからね?!」

「……うぐ」

 このくそ寂れた村にもたまーに行商が来る。そいつの持ってくる小麦粉でキースはケーキを焼いてくれる。美味い、最高に美味い。焼きたてのケーキってあんなに美味いものなんだな。



「キースさん!今日も持って来ましたよ!」

「村のおじいちゃんとおばあちゃんが買い終わって残ったらケーキの材料は全部買います」

「荷馬車いっぱいに持って来ましたから!」

「他の物も売って下さいよー」

 何せぼったくり価格でも、俺にケーキを作ってくれるから、キースは買う。金もまあ、潤沢にある。
 持ってくれば持ってくるだけ売れるなら商人は張り切るよな。

「で、ですね?キースさん、例のポーションなんですが……」

「ああ、ハイハイ。在庫ありますよ」

「是非ー!」

 この村の近くの山は薬草も多くて色んなポーション作りに適していた。毛生え薬に、痩身薬。しばらく人から魅力的に見える幻視薬。
 調合は楽しいから色々作って在庫が溢れ……ジジィババァに1時間だけ若返る薬なんかを飲ませて笑っていたら、この行商が買い取ると言い出した訳だ。

 向こうがぼったくり価格で来るもんでこっちもぼったくり価格で提供したんだが、ほくほくと買っていきやがる。
 どこで超ぼったくり価格で販売してんのか怖いわ。

 面倒なので交渉はキース任せ。俺はボケ防止にジジィに木彫りの熊を作らせている。ジジィ達は手先が器用で色んな物を作ってはこの行商に売りつけて小遣い稼ぎをしているし、ババァどもは刺繍とか毛織りとかやって小遣いを稼いでいる。

「キースちゃんとファイちゃんも外套作ってあげるねぇ」

「……」

 だっせぇ田舎柄のコートだが、あったかいし、軽いしで仕方ねーから冬には着てやろう。

「疲れ目になるからあんまりやるんじゃねーよ!」

 ったく、年寄りの癖に張り切りやがって!湿布ばっかり作らせてんじゃねーよ!あと目薬とか容器が面倒だから作んねえからな?!マジで!

 あと暇だったのか、毎日大量に木の実をくれる……正直嬉しい。ありがとうよ!ジジィ!ババァ!

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