【完結】僕とファイさんの恋愛事情。月と僕と貴方の世界。

9 俺は上弦に事件に遭遇する

「くそっ！」

　月は上弦だ。俺の力はぬけなくなり、通常の力が出せる。いつ闇魔族に俺がプレイヤーだと嗅ぎ付けられるかわからないからな……用心は大事だ。月が満月近くなると勿体無いのでキースに力を渡しておく。
　循環を考えるとやはり口からになってしまうんだが……

「んん、ふ、」

「ファイさん……」

　し、仕方ないんだ、仕方がないんだが！キースの奴どこかで余計な事を覚えて来やがったな！
　くちゅくちゅと中をねぶってくるあいつの舌が熱い。だからと言ってすぐ離しては力の伝達が出来ない！くそっ！

「あ、あむっ」

「ん、」
　
　沢山送りたければ長時間粘膜接触が必要だ。くそっ！どうしてこうなった！頭がぼうっとしてくる。おかしい、アバターだから、そう思ってたのに、この世界で俺たちは肉体を持っているんだった……。

「ファイさん……かわい」

　はっ！危ない！とりあえずキースを殴っておく！

「い、痛いぃー！」

「調子に乗んな！阿呆！」

　力の譲渡だから、気持ち良ければどうやら伝導率は良いみたいだが……常にあいつにとろとろにされているみたいで腹が立つ！

　くそぉ！闇魔族めっ！誰かなんとかしてくれーーー！


「た、助けてくれ！魔物の大暴走スタンピートだ！！」

「はあ？こんな外れの街でそんなイベントねぇだろ」

　薬屋に常連の木こりが飛び込んできた時、俺はたまたまキースと店先にいた。

　しまった、イベントとか口にしてしまった！俺は自分がプレイヤーな事を隠している。どこから闇魔族にバレるか分かった物じゃないからな。

「いや！現に起こってるんだ！今までは冒険者がいっぱいいて、魔物を間引きしてくれてただろ？でも闇魔族が出てきてから、冒険者が減っちまった！」

　はあ、なるはどな。ゲームのアリアゲートオンラインはかなり人気だったから、冒険者としてたくさんの人がログインしていた。それが閉じられた、そしてログインも出来なければ、俺みたいにログアウト出来ない奴がいるって事か。

「この辺のモンスターなんて……」

「ファイさんっ！魔物なんて俺たちが狩れる訳ないんですよ！」

　キースが止めてくれた。うお、すまん今のは俺が迂闊だった。ゲーム的に言えばキースもこの木こりもNPCという奴だ。NPCは戦ったりしないし、とても弱い。

「じゃあ……どうしたら……？」

「……隠れて、魔物が過ぎ去るのを待つしかありません！逃げますよ、ファイさん！店は諦めて下さい！生きていればやり直せます！」

　はあ？！まじか！

「あと1時間もしないうちに城壁を突き破ってあいつらが攻めてくる！早く逃げるんだ、ファイ、キース！君達は優秀な薬屋だ。きっと君達の腕はこの後必要になる！俺は、少しでも街に到達する魔物を……」

「無理ですよ！デニス！木こりの斧じゃ一角うさぎがせいぜいでしょ！」

「嫁と娘を逃がす時間くらい稼がにゃ……俺は父ちゃんなんだぜ！」

　木こりの名前はデニスだったのか、そして盛大なフラグを立てて行きやがった。くそっ！俺は隠れて暮らしてぇっつーの！

「ファイさん、逃げますよ！」

　外を見れば街の人が着のみきのままで走っている。すっころんて泣く子供、それを叱咤しながら引きずって走るおばちゃん。今生の別れと抱き合う夫婦。あーーーくそっくそっ！

「俺が……」

「錬金術師じゃ何も出来ないはファイさんの口癖でしょ！！」

　そうなんだ、弱い錬金術師じゃ、満月に近い力の満ちた状態でも、闘いは苦手だ。ああ、竜騎士にアバターチェンジ出来れば……。

「もしかして……」

「ファイさん！！」

　キースの襟首を掴んで部屋に引き摺り込んだ。

「試したい、できる気がする」

「はあ？！」

　なんか、できる気がする。