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新しい土地

36 昼飯をご馳走になりに

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「む!これはご家族様、共も連れずにお出掛けですかな?」

 全員が下を向き、暗い気持ちのまま屋敷の門をくぐった瞬間、声をかけられた。

「あ」

 俺は知っている。今、平民の服を着て気楽そうにしているが、この間死にかけた親衛隊隊長のダリウスさんだ。何でこんな所にいるんだろう?

「ヨシュア、知り合いか?」

 お父様に言われ、こくりと頷いた。

「ジュリアスさんの….知り合いの方です。先日遊びに行った時にお会いしました」

 間違った事は言ってない。

そうか。お父様は口の中でそう呟いて

「ならばジュリアスどのに伝えていただけるだろうか。あの屋敷には違う者が住んでいるので、お尋ねの時はご注意くださいと」

「ふむ」

 ダリウスさんは少し考えたようだった。

「夕食前だな」

「は?」

 今はまだ昼食も食べていない時刻だ。

「少し、マクドル爺さんの家までピクニックして来てくれるかな?爺さんに昼飯を奢って貰うと良い」

「あなたは……何を言って……?」

「夕食どきにまた会おう!」

 ダリウスさんは手を挙げて走り去って行った。

「ジュールよ、あの男に従おう」

 器用にお父様の肩に登ってシュレイが話しかけた。

「当てなく、歩き回ってもしょうがないものだ。……後、メロウとやらに会ってみたいぞ」

 シュレイに小さく笑いかけて、お父様は顔を上げた。

「私も噂のメロウちゃんに会ってみたいな」

「お父様、私もです」

 アナベルお兄様が続いた。

「あら、じゃあわたくしも会いたいわ。お腹に赤ちゃんがいるのでしょう?母親同士、通じるものがあるかもしれないわ」

 屋敷の裏の草原を進み、人気が無くなった頃を見計らってシュレイは巨大な黒い馬の姿に戻った。

「ふわぁ…大きいんだねぇ」

 近くて見ると圧倒的な大きさに、俺は見上げるしかなかった。お父様はそれでも、ひょいっと足をかけ、その背中に飛び乗ってしまう。上から手を伸ばし、お母様を引き上げた。

「ヨシュアも一緒に乗りましょう?」

 ふ、俺は空気の読める息子!パパとママのラブラブに水を差さないのだ!

「私は良かったら、アーロに乗ってみたいんだけど…お姉様、アーロ良いかなあ?」

「もちろんだよお!ヨシュア!レンもしっかり掴まって!」

「うおー!空ッスかーー!楽しみッス!」

「じゃあカレルは私とフィオに乗ろう。狼型でも大丈夫かな?」

「嬉しいです。お兄様!フィオよろしくお願いします」

「頭上のイージス殿をしっかり押さえておけよー!」

 

「……ぐへ……」

「ごごごめんね?!ヨシュア!僕楽しくってつい!」

「ごめん……アーロ…体力なくて……」

 空は楽しかった!とても楽しかったし、マクドルさんの家までそんなに遠い距離じゃないのに、俺はもうダメだ!
 アロイスの羽毛はもふもふで気持ちも良かったけど、早すぎだ!俺のペットは猫のレンで本当に良かった!レン好きだ!
 マクドルさんの家が見える頃になると、庭先に2人が出ていて手を振っていた。

「そのままこちらにどうぞ!」



「いやあ!都会のペットさんは大きくも小さくもなれるのですなぁ!」

 まだその設定使うんだ、マクドルさん……。

「皆さまお昼はまだでしょう?いつもお爺さんと2人だけの食卓だから寂しくて!よかったら私達と一緒に食べてくれないかしら?」

 デイジーさんはにこにこと笑う。

「お、お、おばあちゃまーーーー!うわーーーーん!」

 いつもの優しい笑顔にルルカお姉様が泣き出してしまった。

「ルルカ……!申し訳ございません!」

「良いのよ、良いのよ。お母様。何せ私とルルカさんはお友達なんですもの」

「狭い家ですがとりあえず入ってくだされ。ペット様は小さくなっていただけると助かりますな」

 マクドルさんとデイジーさんは何も聞かずに招き入れてくれ、何も聞かずにお昼を振る舞ってくれた。

「ああ!我が家にこんなに人が居るなんて!嬉しくてワクワクしてしまうわ」

 くるんとデイジーおばあちゃまは裾をひるがえして回ってみせる。

「まあ!デイジーおばあちゃまのワクワクなんて、何が起こるかドキドキしちゃう!」

 すっかり泣き止んだルルカお姉様は、ニコニコと笑顔だが、俺は絶賛玉作成中で作られた玉は家族にドンドン吸い込まれて行く。
 みんな口にしないが自分たちがこれからどうなってしまうか、不安しかない。

「お父様……!」

 アナベルお兄様が口を開こうとした瞬間、馬丁のダンが飛び込んで来る。

「メロウが産気づいています!旦那様かなりまずいです!」

 俺とレンは顔を見合わせて、頷いた。シュレイもしっかり持ってきたクッションから立ち上がる。

「ジュールよ、馬とは言え3匹の命がかかっておる。行ってくるぞ」

 お父様は優しい顔をして頷いた。

「どんな命でも救えるものなら救って差し上げて欲しい。大丈夫だ、我々家族は皆、生きているのだからね」

「ヨシュア、気をつけて」 

 こくり、お母様にうなずき、ダンについて走り出す。

「厩のあんちゃん、メロウちゃんはどうッスか?」 
 
「もうまじー感じっす。立ってられないっすよ!玉の坊ちゃんが来てくれてほんと助かった!」

「急ごう。この死にかけておるのがメロウだな?」

 小さいシュレイがダンの肩に乗った。

「うお!こちらが都会のペット様っすか!すげー腕輪ありがとうございます」

「今はその話は後だ」

 はいっ!ダンは

「坊ちゃん!失礼するっすよ!」

 俺を小脇に抱えて走り出した。

「この方が早いっす」

「……お手間おかけします……」


 カッ!俺は輝いた!

「フォ!発光人間再び」

 辛そうに閉じられていた、メロウちゃんの黒い目が少し開いた。

「メロウちゃん!ヨシュアとシュレイさんがきたッスよ!頑張るンス」 

「なるほどの。立て、メロウ!」

 瀕死のメロウちゃんにシュレイは命令する。人でなし!馬だった!
 シュレイに言われ、ヨロヨロとメロウちゃんは立ち上がった。

「ダンとやら、手を突っ込んで仔馬の足を引っ張りだせ!」

「わかりやした!旦那!」

 そこからは初心者の俺とレンは目を回さないようにするだけで手一杯だった。ひぃいいいい!こ、子供を産むってこんなにハードなの?!
 俺は玉を生産し、レンは運ぶのを手伝っている。

「ダン!違う、そちらの子ではない!奥におる小さい方を引き出せ!」

「へ?手前の子を出した方が楽では?」

「違う!小さい方を出さねば死んでしまう!そして大きい方も小さい方が出るまで出ないと踏ん張っておるわ!それが1番の原因じゃ!」

「?!よく分からんが、メロウ!耐えろ!坊ちゃん玉お願いしますよーーー!」

「ひええええ!わかりましたぁぁああ!」

 ぐっとダンさんは手を突っ込み

「捕まえやした!行きますぜ!」

 ずる、ずるるるるっ!と仔馬の前足を掴んで引き出した。
 ずるんと仔馬は産まれたが

「息してやせん!」

「ヨシュア!玉!」

「はひぃー!!!」

 ダンさんは仔馬に息を吹き入れ、何とか仔馬は自分の足で立ち上がった。

「ひ、ひぃ」

 俺は倒れる寸前だが、全部の足に力を入れてプルプルと懸命に立ち上がる仔馬をみて感動した。汚いが可愛い……しかし仔馬には足が6本あった。少し多いな?

「もう一頭は?!」

 メロウちゃんの横に、さっきの仔馬の2倍はありそうな立派な6本足の仔馬がしゃんと立っていた。

「う、産まれた?両方産まれた?!」

「やったっすよー!全員無事とは!奇跡ッス!……足!多いッスね?!早く走りそうっすね?!」

 ダンさん、それで良いのかい?

「すまんな、我の影響だ。まあ、足は早かろう」

 シュレイはすまなそうに目を伏せた。命を守る為に最善を尽くした。しかし仔馬の運命は変わってしまった。普通の馬では無くなってしまったのだから。

「さあ、メロウのお乳を飲んで……おい、動かないなぁ。行けよ、腹減ってるんだろ?」

 小さい方の仔馬はメロウちゃんからおっぱいを貰っているが、大きい方の仔馬は動き出さなかった。

「良い良い。ダンよ、そやつは兄が満ち足りるまで、乳は貰わぬとよ。」

「え?どうしてなの?」

「そやつは、自分が兄の力まで吸った事を悔いておるのだよ。みたら分かろう、この双子の大きさの違い。力の大半は弟が取ってしまったのだ」

 比べて見ると体の大きさが全然違う。シュレイのいうことは納得出来た。

「故に産まれる時も兄が先でなければ出ないと駄々を捏ねたし、今もグッと我慢しておる。難儀で義理堅い赤ん坊だの」

 くくくっと苦笑する。

「ミルク作って来るっすよ!」

 ダンは走り出した。

「そうじゃのう。たくさんいるじゃろうなぁ……しかし、仔馬は可愛いの、ヨシュア。メロウも良い雌じゃ」

「そうだね……シュレイ。お母様もこんなに大変な目にあっても、私達を産んで下さったんだね」

「ああ、母は強いのう」

 でっかい哺乳瓶を持って戻ったダンさんはみんなを連れて来た。

「あらあらまあまあ!可愛いらしい」

「無事だったんだのう、良かった良かった」

「仔馬って可愛いわー」


 誰も仔馬達の足の数に突っ込まないのが流石セーブル家だなぁと思った。

 この仔馬達は兄がメアで弟がロアと名付けられ、メアがレギルさんの愛馬に、ロアがダリウスさんの愛馬になる事になる。

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