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新しい土地
30 行くべき先
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膝の上で丸くなる3匹を起こさぬように、セーブル家では先延ばしにできない深刻な話をしていた。
「……出来る事なら、祖国マロードを裏切るような真似はしたくない。しかし、ヨシュアの事を考えると……ジュリアス殿にお任せするのが最善のような気がしてしまうのだ」
「……親子ほど年が離れているのですよ?!お父様!」
「だからです。ジュリアス様は子供のヨシュアにそのような無体を働く方ではないでしょう」
ジュールとマリーは真にヨシュアの事を考えている。ずっと、永遠に家族がヨシュアの面倒を見る事は出来ないかもしれない。
ジュールとマリーはヨシュアより先に亡くなるだろう。子供達はそれぞれ伴侶を得て、それぞれに子供が出来る。その時、我が子とヨシュアを天秤にかけてしまうかもしれない。
それよりも、兄弟にヨシュアの面倒をみさせたくないと、2人は考えているのだ。
ヨシュアに普通の伴侶が出来るとは思えない。誰がすき好んで、子爵家の三男の、スキルが一つしかない男のところに嫁に来るだろうか?
ならば、今ですら大事にしてくれるジュリアスの所に……帝国の皇帝ならば、一生ヨシュアに不自由な暮らしはさせないはずだ。
しかし、そうなると……
「我が家は…マロードを裏切ったと言われても仕方がないことになるな……」
敵国の皇帝に息子を送ろうと言うのだ。二心ありと言われても何も言えない。
「マリーの実家のトレヌ公爵家にも火の粉が飛ぶだろう」
「そちらは問題ありませんよ、旦那様。お父様から手紙が届いておりました。トレヌ公爵家も領地に全員戻ったそうです。……しかも…何やら帝国から接触があったらしく……」
「トレヌ公爵家になんと?」
「言い難いことでございますが、はっきり言えば、帝国につけと……かなりの高待遇を提示されたようです」
「そうか……」
ジュールは考える。長年仕えた国を裏切りたくはない。失望した王太子の国でも。しかし、子供達のことを考えると……。
「私にも帝国から手紙が来ておるのだ……」
「お父様、本当ですか?!」
「ああ、ただし……学園の案内書なのだ…しかもたくさんの学び舎がある」
この領地にいては学校に通わさせてやる事が出来ない。アナベルは今14歳だ。もうどこかの学園へ通っていてもおかしくない年齢だった。
家族のことを思うジュールには、1番の悩みであった。
「帝国は学園が多く、充実している。アナベル、お前も学園に通ってもいい歳だ。すぐにルルカもカレルも学園へ行く歳になるだろう。お前たちの大切な体験をこの地で奪うことはできない」
「学園で……旦那様を最初に見ましたしね……」
マリーは少しだけ頬を赤らめた。
「マロードを捨て、帝国へ行った方が良いのは分かっているのだ……だが私は裏切りものの烙印を押されるのが恐ろしいのだ」
マロードを捨てることは、今までの人生の大半を捨てることになる。ジュールにそれは酷な事だ。
「旦那様、これはとても重要な話です。続きは子供達が全員揃ってからに致しましょう。わたくし達だけで決めて良い話ではございませんわ」
マリーは労わるようにそう言った。しかし、分かっているのだ。あの小さいが聡明な子供達は必ず、自分達のことよりも父の名誉を守る為にはどうするべきか考えるだろう。
帝国には行かない、そう言うだろう。
そう言うであろうこともジュールは十分に承知している。だからこその苦悩。
どんな決断をしても、家族は誰一人として反対しないからこその苦悩を抱えている。
ぴくり、膝の上で丸くなり静かにしていたアリィが目を開けた。
「終わったぞ、マリー」
シュレイもフィオも目を覚ました。
「ふーやっぱり主と離れると大変だなぁ」
「そうであるなぁ」
欠伸をしたり体を伸ばしたりする小さな自称ペット達の様子に笑みが溢れる。
「ね、アリィ。囚われた女の子はどうなったの?」
様子からみて、成功したのだろうけれどマリーは気になった。
「もちろん、王子様の手を取って逃げ出したぞ。女の子を助けるのは大抵王子様と決まっておろう?」
「え?!王子様?!」
アナベルは飛び上がった。それじゃ幸せになれないじゃないか!子犬はプルプルと首を振る。
「大丈夫、もっとちゃんとした方の王子様だからな!」
「は、ははは……それは、良かった」
ちゃんとしていない方の王子様を長年に渡り、陰に日向に支えてきたジュールは乾いた笑いしか出なかった。
「……出来る事なら、祖国マロードを裏切るような真似はしたくない。しかし、ヨシュアの事を考えると……ジュリアス殿にお任せするのが最善のような気がしてしまうのだ」
「……親子ほど年が離れているのですよ?!お父様!」
「だからです。ジュリアス様は子供のヨシュアにそのような無体を働く方ではないでしょう」
ジュールとマリーは真にヨシュアの事を考えている。ずっと、永遠に家族がヨシュアの面倒を見る事は出来ないかもしれない。
ジュールとマリーはヨシュアより先に亡くなるだろう。子供達はそれぞれ伴侶を得て、それぞれに子供が出来る。その時、我が子とヨシュアを天秤にかけてしまうかもしれない。
それよりも、兄弟にヨシュアの面倒をみさせたくないと、2人は考えているのだ。
ヨシュアに普通の伴侶が出来るとは思えない。誰がすき好んで、子爵家の三男の、スキルが一つしかない男のところに嫁に来るだろうか?
ならば、今ですら大事にしてくれるジュリアスの所に……帝国の皇帝ならば、一生ヨシュアに不自由な暮らしはさせないはずだ。
しかし、そうなると……
「我が家は…マロードを裏切ったと言われても仕方がないことになるな……」
敵国の皇帝に息子を送ろうと言うのだ。二心ありと言われても何も言えない。
「マリーの実家のトレヌ公爵家にも火の粉が飛ぶだろう」
「そちらは問題ありませんよ、旦那様。お父様から手紙が届いておりました。トレヌ公爵家も領地に全員戻ったそうです。……しかも…何やら帝国から接触があったらしく……」
「トレヌ公爵家になんと?」
「言い難いことでございますが、はっきり言えば、帝国につけと……かなりの高待遇を提示されたようです」
「そうか……」
ジュールは考える。長年仕えた国を裏切りたくはない。失望した王太子の国でも。しかし、子供達のことを考えると……。
「私にも帝国から手紙が来ておるのだ……」
「お父様、本当ですか?!」
「ああ、ただし……学園の案内書なのだ…しかもたくさんの学び舎がある」
この領地にいては学校に通わさせてやる事が出来ない。アナベルは今14歳だ。もうどこかの学園へ通っていてもおかしくない年齢だった。
家族のことを思うジュールには、1番の悩みであった。
「帝国は学園が多く、充実している。アナベル、お前も学園に通ってもいい歳だ。すぐにルルカもカレルも学園へ行く歳になるだろう。お前たちの大切な体験をこの地で奪うことはできない」
「学園で……旦那様を最初に見ましたしね……」
マリーは少しだけ頬を赤らめた。
「マロードを捨て、帝国へ行った方が良いのは分かっているのだ……だが私は裏切りものの烙印を押されるのが恐ろしいのだ」
マロードを捨てることは、今までの人生の大半を捨てることになる。ジュールにそれは酷な事だ。
「旦那様、これはとても重要な話です。続きは子供達が全員揃ってからに致しましょう。わたくし達だけで決めて良い話ではございませんわ」
マリーは労わるようにそう言った。しかし、分かっているのだ。あの小さいが聡明な子供達は必ず、自分達のことよりも父の名誉を守る為にはどうするべきか考えるだろう。
帝国には行かない、そう言うだろう。
そう言うであろうこともジュールは十分に承知している。だからこその苦悩。
どんな決断をしても、家族は誰一人として反対しないからこその苦悩を抱えている。
ぴくり、膝の上で丸くなり静かにしていたアリィが目を開けた。
「終わったぞ、マリー」
シュレイもフィオも目を覚ました。
「ふーやっぱり主と離れると大変だなぁ」
「そうであるなぁ」
欠伸をしたり体を伸ばしたりする小さな自称ペット達の様子に笑みが溢れる。
「ね、アリィ。囚われた女の子はどうなったの?」
様子からみて、成功したのだろうけれどマリーは気になった。
「もちろん、王子様の手を取って逃げ出したぞ。女の子を助けるのは大抵王子様と決まっておろう?」
「え?!王子様?!」
アナベルは飛び上がった。それじゃ幸せになれないじゃないか!子犬はプルプルと首を振る。
「大丈夫、もっとちゃんとした方の王子様だからな!」
「は、ははは……それは、良かった」
ちゃんとしていない方の王子様を長年に渡り、陰に日向に支えてきたジュールは乾いた笑いしか出なかった。
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