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スキルの不思議

13 ピィさんニョロ山さんグリ川さん

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「かーちゃん!大丈夫か!」

「ええ、レン大丈夫よ。ヨシュアったら心配し過ぎよ」

 倒れた後すぐにわたしは気がつきました。でも目を覚ますと自分が光の玉で囲まれて、前が見えないくらい密集していて小さく笑ってしまいました。あらあら!

「だって!お母様がお倒れに!」

「お母様ーーー!」

 私の可愛い子供、ヨシュアとルルカが飛びついて来ます。カレルは少し離れたところに立っているが、手招きをすれば駆け寄ってきてくれました。
 
「お母様、心配しました…!」

 カレルはヨシュアの兄として振る舞ったのね、流石はお兄さんだわ。私は嬉しくなってしまう、こんなに子供達に心配をかけたのに。

「もう大丈夫よ、ごめんなさいね」

「お母様、私のせいですよね……」

 ヨシュアが泣いています。自分のスキルが一つしか無いことが広まったのを私が恐れたからだと思っているのかしら……いいえ、ヨシュアは賢い子ですもの。
 話が広がって、ヨシュアが傷つくかもしれないことを悲しんだ私を哀れんでくれたのだわ。

「ヨシュアが悪いことなんて何も無いのよ」

 どこまでも、どこまでも優しい子。こんな素敵な子供が私の所に来てくれたなんて…神様ありがとうございます。

「かーちゃん!かーちゃんを守れなくてごめん!手伝ってくれる人を呼ぶッス!俺、心当たりがあるんだ。かーちゃんがやられちゃうと、ヨシュアもルルカもカレルもみーんな困る!」

「レン?よく分からないわ」

 黒猫のレンは喋るようになると、わたしの事をかーちゃんと呼ぶようになりました。下町の言葉だというのですが、下町育ちのレンには馴染みが深いのでしょうね。わたくしも不快感はなく、元気なレンらしいわと思っております。

「あーーもーー!なあ!かーちゃん、小鳥好きか?」

「小鳥?嫌いじゃないわよ」

「もー決まり!それでいい!ピィさん!そういう事、おなしゃーーーす!」

「ピィ♪」

 あらあら?可愛いオレンジの小鳥が私の手の上に乗ったわ。

「レン、どうしたの?小鳥じゃないか」

 子供達はレンが不思議なことを始めたので、涙は引っ込み興味深げに現れた小鳥を見ています。

「ねーちゃんと小にーちゃんは順番待つっす!俺1人じゃ守りきれないから助けを呼んだンス!まずはかーちゃんからっす!」

「ピピィ♪」

 ご機嫌に小鳥は私の手のひらの上で跳ねる。

「かーちゃん、ピィさんに名前をつけてください!ピィさんは可愛い名前を御所望ッス!」

「そ、そうねぇ、アリィなんてどうかしら?」

「ピッ♪」

「決まりッスね!ねーちゃん小にーちゃん、ヨシュア下がるっす!結界をはるっす!アリィ先輩お願いするッス!」

「構わぬぞ、我らの端に連なる小さき弟よ。汝、名は……カーチャンではないな?名を」

 小鳥のアリィは突然喋り始めました。なんて涼やかで美しい声なんでしょう!

「わ、わたくしですか?私はマリーと申します」

「よろしいマリーよ。我は名をアリィ、名付けはマリー。幾久しくそなたを守護する事をここに誓おう。マリーよ指を出せ」

 私はアリィに言われるままに人差し指を出しますと、アリィは短く首の辺りに押しつけ

「これで契約はなった。マリーは体が強くないな。無理をしてはいかんぞ」

 指の先、爪が光っていて中に紋様が浮かんでおります。

「あら…素敵ね、よく分からないのだけれどもアリィ、よろしくお願いしますね」

「うむ、我に任せておけ…ピィ♪」

「ふー!ピィさん……いやアリィさんとかーちゃんの相性も良かったみたいだし、俺良い仕事したなぁ!」

 がばり!とルルカがレンの首を絞める。淑女らしからぬ行動に私は驚いてしまいます。

「レン?!レン!どう言う事?!私には分かるわよ?!何なの!この物凄い神力は!あの小鳥、小鳥じゃないでしょ?!」

「そりゃ元ピィさんッスからねー。どんどん行くっすよ!話を振ったら面白そうだからって手伝ってくれる先輩がたくさんいてくれたッス!小にーさん、次っす」

「ちいにいさん?!私か?!」

 次に指名されたカレルが後退りをします。不思議なあだ名をつけられたものですね。

「小にーさんはそうだなぁ…ニョロ山さん!ニョロ山さーん」

 ぴょろり 小さなトカゲが現れます。色が白いのが不思議なトカゲさんです。

「ニョロ山さん、チース!こちらが俺の主人のにーさんの小にーさんッス!どうすか!」

 ニョロ山さんと呼ばれたトカゲは、身軽にぴょんと跳ねるとカレルの手のひらの上に乗りました。

「おお!可愛いな!」

「小にーさん、ニョロ山さんに名前をつけて欲しいっす!かっこいい名前がいいって言ってるっす!」

「そうだなぁイージスなんてどうだろう」

「流石小にーさんっす!センスバツグンっす!ニョロ山さんも大満足っすよ!」

「君の名前はイージスでいいかい?」

 カレルの手のひらの上のトカゲは大きな目を2.3度瞬いて、口を開けます。

「良き良き、気に入ったぞカレル。仲良くしようてはないか。ワシは無粋が嫌いだ。たくさん遊ぼう。契約の印はどこにしようかの?ちょっと失礼するぞ」

 トカゲのイージスはするりとカレルの服の中に飛び込んでしまいました。
あらあら!

「イージス、くすぐったい!」

「少し我慢!我、名をイージス。カレルを主人とし……」

 その先は聞こえませんでしたが、カレルとイージスはなにやら話合っているようでした。

「大丈夫じゃ、マリー。皆、ここ最近ちっとも地上に呼ばれずに退屈を持て余しておったのじゃ。我らとしても久しぶりの地上にウキウキしておる。そして、お前の末の息子は良いのう。あの玉、ほんに美味いのう!」

 私の心配を感じ取ってか、アリィが肩の上から話しかけて来てくれました。アリィは語る声も涼やかで耳に心地よいです。

「自慢の息子ですわ、アリィ」

 そうであろう、そうであろう。アリィは目を細めて笑ってくれます。何ていい子なんでしょう。アリィがどんな子でも、決して私達家族に害を為さないと確信しました。

 部屋に強い風が吹き荒れ、収まるとカレルの胸元からイージスがちょこんと顔を覗かせました。

「ニョロ山先輩お疲れっす!」

「レンー。ワシはイージスだ。お前も忘れてはならんぞー」

 了解ッス!レンは猫なのに後ろ足で立ち上がります。まぁ可愛いらしいわ。

「さて、ねーちゃんっすけど。ねーちゃんみたいな「退魔の聖女」はやっぱりグリ川さんレベルじゃないと駄目なんじゃないかって思うんすよね!そうですよね!グリ川さん?」

「レン!レンさん!?ここまで続くと、流石の私でも気がつきますわよ?!しかもこちらのグリ川さん!手のひらに乗るくらいお小さいですが!伝説の魔獣グリフォンじゃないですか!!!!」

 ワシとライオンが美しく混じり合った魔獣グリフォンの小さい子がルルカの手のひらに乗っております。

「ねーさん!その人はグリ川さんです!グリ川さんなんです!嫌なら名前をつけて下さいよ!」

「くるるるる……?」

「うっ?!」

 グリ川さんと呼ばれた小さな魔獣さんは悲しげに喉を鳴らして、こてん、と首を傾げます。まるで

「僕だけ仲間に入れてくれないの?僕は来ちゃダメなの?」

 と、悲しげに訴えているようです。

「ねーさん……グリ川さん可哀想ッス。グリ川さん、青い空を思いっきり飛びたいそうなんす。叶えてやってくださいよ!」

「あ、アロイスでどうかしら……」

 あらあら!ルルカったら一瞬で名前を思いついたみたいね。よっぽどグリフォン……いいえ、アロイスの事が気に入っちゃったのね。

「るるか!るるかー!嬉しい!僕嬉しい!僕、ルルカを乗せてびゅーーんってするの!契約ね!模様ができるから、るるか女の子だし、目立たないとこにしよ!」

「あ、アロイス!ありがとう!お前は良い子ね!」

「るるかーもっとなでなでしてぇー!」

「グリ川さんは甘えたがりさんっす!そこが魅力の1つっすね!さあ、とりあえずこんなもんっす!これで今日みたいに厚化粧ババァにかーちゃんがやられることもねーっす!」

「ピィ♪あのような下品な雌はもうマリーには近寄らせないピ♪」

 アリィが声は可愛いけれど、内容は手厳しい事を言ってくれました。子供達の手前、咎めたい所ですが、真にわたしの気持ちを代弁してくれたので、不問にいたします。

「先輩方!それぞれ使用人ちゃん達に一目会っておいて欲しいっす!ここの使用人ちゃん達は皆んな気持ちの良い人間ッス。」

「あいわかったっピィ♪マリー、ちと行ってくるでな?」

「分かったわ、アリィ」

「ワシも行くぞ」
「僕もみんなについてくねぇ」

「よろしく頼むよ、イージス」
「迷子にならないようにね?アロイス」

 イージスはぷるんと体を震わすと羽が出てきます。3匹はパタパタと廊下に出て挨拶に行ってしまいました。

 なにやら家族が増えて楽しくなる予感が致します。

 しかし……私は旦那様がお帰りになられたら、決意を話さねばなりません。






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