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ん?キノコの様子が……?
54 龍巫女
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「ルド」
「うるさい!あっちへ行け」
「ルド」
「しつこい!」
「ルド…」
「テイゼル!仕事に戻れ!」
強く出られないが、それでも諦め切れないのか。情けなくゼルは言い続ける。
「シリル様……ルドにちょっとくらい触らせてくださいよ」
「ならん!我が夫が汚れるっ!」
「そんな訳ないでしょう~!」
龍巫女……名前をシリルと言う。シリルは長い長い髪を結え、手にホウキを持ってゼルの手をペシンと叩いた。
きた日からシリル様はほぼ、俺の隣にいて、腹を撫でたり触ったり話しかけたりと甲斐甲斐しい。
「初代様が産まれるまで何千年待ったと思っておるのじゃ!」
そうでなければこんな面倒な龍巫女などやる訳がなかろう!少女のように頬を膨らませて、プンプンと怒った。
シリル様は見た目も少女のようで背も小さい。それでも迫力満点なのはやはり年季の差なんだろう。あ、これ言ったら駄目な奴ね。女性に歳の話は振ってはいけないよ、キノコとの約束だ。
「あー早く会いたいのう」
「あと29日と言ったところでしょうか?」
「楽しみじゃのう!楽しみじゃのう!」
「も、もしかしてシリル様は卵が産まれるまでずっとルドにくっついているんですか?!」
今更ながらに絶望の表情で、ゼルは自分より遥かに小さいシリル様を見下ろした。
「当たり前じゃ」
「ルド?!良いのか?!ずっとそんなんで!」
ふぅとため息をつく。
「良いじゃないか……シリル様は随分待ったんだろう?30日くらいどうってことないよ」
「うわぁああ…ルドの優しさが今とても憎い……!」
何故憎まれねばならんのだ。解せぬ。
「テイゼルはこころが狭く無能であるからなぁ?」
ニヤニヤと笑うシリル様はとても楽しそうだ。
卵が育つ間、俺はシリル様から色々な話を聞いた。この国の歴史や巫女について。
「龍巫女とは、力ある龍帝を好きすぎてつがいになってしまった哀れな少女のことよ。龍帝が死んで生まれ変わるまで何年でも待ち続ける、阿呆な女のこと。妾のように」
賢者のような遠い目をしてシリル様は自虐的に呟く。
「シリル様はずっとこっちにいらっしゃいますが、良いのですか?」
「神殿には後継者がおる。エドヴァルドに呼ばれた時点で、妾はもう神殿に帰らぬつもりであったでのう」
次の龍巫女は3代目の龍帝のつがいだと言う。3代目様が生まれ変わるまで、帝国の為に巫女として過ごすらしい。
少しづつ育って行く卵。少しづつ膨れてゆく腹。少しづつ語りだす卵。15日も過ぎる頃には卵は既に明確な意思を持ち、シリル様と念で会話をしていた。
「ちょっと!シュリ!!老けたってどう言うことよ!!舐めんなこの駄龍!!!」
凄く仲が良い。初代様の名前はシュリというそうだ。
30日目の月が満ちる真夜中に、俺は苦もなくころんと薄い水色の卵を産んだ。
「安定の安産」
でかいアレを出してスッキリ、解放感はあれど、痛いとか裂けるとかないので、俺ってば超優秀スーパーキノコ!
「シュリ……!」
シリル様は卵にしっかりと抱きついている。卵も嬉しそうで、殻の中でも抱きしめ返せないのを残念に思っているようだ。
「シリル様、急がないと」
「そうであった!ではな!落ち着いたら連絡する。エドヴァルド、大儀であった。そなたに龍の祝福があらんことを!」
シリル様は用意してあった卵袋にしっかりと水色の卵をしまい込む。
「卵、元気でな。後はお任せします」
卵に別れを告げた。シリル様は窓から出て闇に溶けて行く。これから2人で愛の逃避行なのだ。
「ルド!卵は産まれたか??」
待ちきれなかったのか、ゼルが扉を開けて入ってきた時には、既に俺の腹はぺたんこで、卵の姿もシリル様の姿もない。
「卵は……俺たちの卵は……?」
「シリル様と駆け落ちしましたよ」
ゼルは む、と真顔になってから
「少し早くないか?せめて卵から出てから駆け落ちはして欲しかった」
うーん、と唸り声をあげた。確かに少し早い気はするな!しかし、お披露目をしてしまうとどうしても保卵室に入れろと言う声が上がる。
シリル様はそれを嫌がって、自らの手で卵を育てるのだ!と張り切っていた。
父親に自らの姿を見せないまま居なくなった、水色卵の息子はきっと幸せにやっていくだろう。
ゼルはいつものように俺の手を握り、頑張ったな、ありがとうと労ってくれた。久しぶりに触ったゼルの手は少し冷たかった。でもそれも…まぁ良いものだと不覚にも思ってしまった。
それから俺の卵量産体制は休止になった。
「うるさい!あっちへ行け」
「ルド」
「しつこい!」
「ルド…」
「テイゼル!仕事に戻れ!」
強く出られないが、それでも諦め切れないのか。情けなくゼルは言い続ける。
「シリル様……ルドにちょっとくらい触らせてくださいよ」
「ならん!我が夫が汚れるっ!」
「そんな訳ないでしょう~!」
龍巫女……名前をシリルと言う。シリルは長い長い髪を結え、手にホウキを持ってゼルの手をペシンと叩いた。
きた日からシリル様はほぼ、俺の隣にいて、腹を撫でたり触ったり話しかけたりと甲斐甲斐しい。
「初代様が産まれるまで何千年待ったと思っておるのじゃ!」
そうでなければこんな面倒な龍巫女などやる訳がなかろう!少女のように頬を膨らませて、プンプンと怒った。
シリル様は見た目も少女のようで背も小さい。それでも迫力満点なのはやはり年季の差なんだろう。あ、これ言ったら駄目な奴ね。女性に歳の話は振ってはいけないよ、キノコとの約束だ。
「あー早く会いたいのう」
「あと29日と言ったところでしょうか?」
「楽しみじゃのう!楽しみじゃのう!」
「も、もしかしてシリル様は卵が産まれるまでずっとルドにくっついているんですか?!」
今更ながらに絶望の表情で、ゼルは自分より遥かに小さいシリル様を見下ろした。
「当たり前じゃ」
「ルド?!良いのか?!ずっとそんなんで!」
ふぅとため息をつく。
「良いじゃないか……シリル様は随分待ったんだろう?30日くらいどうってことないよ」
「うわぁああ…ルドの優しさが今とても憎い……!」
何故憎まれねばならんのだ。解せぬ。
「テイゼルはこころが狭く無能であるからなぁ?」
ニヤニヤと笑うシリル様はとても楽しそうだ。
卵が育つ間、俺はシリル様から色々な話を聞いた。この国の歴史や巫女について。
「龍巫女とは、力ある龍帝を好きすぎてつがいになってしまった哀れな少女のことよ。龍帝が死んで生まれ変わるまで何年でも待ち続ける、阿呆な女のこと。妾のように」
賢者のような遠い目をしてシリル様は自虐的に呟く。
「シリル様はずっとこっちにいらっしゃいますが、良いのですか?」
「神殿には後継者がおる。エドヴァルドに呼ばれた時点で、妾はもう神殿に帰らぬつもりであったでのう」
次の龍巫女は3代目の龍帝のつがいだと言う。3代目様が生まれ変わるまで、帝国の為に巫女として過ごすらしい。
少しづつ育って行く卵。少しづつ膨れてゆく腹。少しづつ語りだす卵。15日も過ぎる頃には卵は既に明確な意思を持ち、シリル様と念で会話をしていた。
「ちょっと!シュリ!!老けたってどう言うことよ!!舐めんなこの駄龍!!!」
凄く仲が良い。初代様の名前はシュリというそうだ。
30日目の月が満ちる真夜中に、俺は苦もなくころんと薄い水色の卵を産んだ。
「安定の安産」
でかいアレを出してスッキリ、解放感はあれど、痛いとか裂けるとかないので、俺ってば超優秀スーパーキノコ!
「シュリ……!」
シリル様は卵にしっかりと抱きついている。卵も嬉しそうで、殻の中でも抱きしめ返せないのを残念に思っているようだ。
「シリル様、急がないと」
「そうであった!ではな!落ち着いたら連絡する。エドヴァルド、大儀であった。そなたに龍の祝福があらんことを!」
シリル様は用意してあった卵袋にしっかりと水色の卵をしまい込む。
「卵、元気でな。後はお任せします」
卵に別れを告げた。シリル様は窓から出て闇に溶けて行く。これから2人で愛の逃避行なのだ。
「ルド!卵は産まれたか??」
待ちきれなかったのか、ゼルが扉を開けて入ってきた時には、既に俺の腹はぺたんこで、卵の姿もシリル様の姿もない。
「卵は……俺たちの卵は……?」
「シリル様と駆け落ちしましたよ」
ゼルは む、と真顔になってから
「少し早くないか?せめて卵から出てから駆け落ちはして欲しかった」
うーん、と唸り声をあげた。確かに少し早い気はするな!しかし、お披露目をしてしまうとどうしても保卵室に入れろと言う声が上がる。
シリル様はそれを嫌がって、自らの手で卵を育てるのだ!と張り切っていた。
父親に自らの姿を見せないまま居なくなった、水色卵の息子はきっと幸せにやっていくだろう。
ゼルはいつものように俺の手を握り、頑張ったな、ありがとうと労ってくれた。久しぶりに触ったゼルの手は少し冷たかった。でもそれも…まぁ良いものだと不覚にも思ってしまった。
それから俺の卵量産体制は休止になった。
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