上 下
29 / 71
キノコ神の使徒達

29 おかしな神殿

しおりを挟む
 俺はとっとこ走っている。とっとことっとこ!

「体か。ネズミでいいじゃん」

 小さな野ネズミの頭の上にキノコをライドオンして、俺は秋のゼードラウンを走り回っていた。

「す、すごいチュウ」

 小さな体で俺は街を見上げた。ものすごく発展している!

 街の人々は笑顔だし、冒険者も闊歩している。街もきれい!

「やったなぁ、エド。お前の国はものすごく発展してるよ。お前の甥は凄いなぁ……チュウ」

 俺はあの2人に国王という名のバトンを渡す仕事をやり遂げたんだなあ。

「に、しても、なんだ」

 俺はキョロキョロと行き交う人々を見回すと、かなりの人の頭の上にピンクのキノコかにょっきり生えている。

「あれ……?」

 俺は技と語尾をネズミっぽくする遊びも忘れてぼーっと、人々の頭の上を見ていた。

「どいたどいたーー!ウスベニのお通りだよーー!」

「王宮への早馬かー」

「俺もウスベニが採れればなぁ」

「ははっ!あんな高額キノコみつけたらひと財産じゃねーか!1本70万ギルはくだらねぇだろ!」

 えっ?どこにでも生えてる毒キノコですよ!

「お客さん……ウスベニいらんかねぇ?」

「どうせ偽物だろ!本物なら王宮に自分で持ってくだろ!」

「へへ……それはどうか分かりませんよ?」

「昨日のS級冒険者、ウスベニの大群生見つけたらしいぞ」

「流石S級キノコハンター!一生遊んで暮らせるじゃねーか」

 な、何かおかしい……。

「ウスベニ教に帰依した方がいいかな?」

「あそこは王からの寄付が凄いからなー」

「ウスベニの養殖もしてるって本当?」

 ウスベニ教?!ちょっと!セアンとリィム?!

「御神体の確保に忙しいらしいからね」

「御神体様の髪飾りは効果凄いしね」

一体、どうなって……?!ウスベニ教って何?!御神体?!
 俺は恐ろしさを感じながらも、お参りに行くという人の後ろをついて行った。


「ど、ドン引くーー!」


 国のほぼ真ん中に神殿があり、沢山の人々が訪れていた。その神殿の前の広場に大きな神像が建てられていた。

 間違いない俺だ。

 大体の作りはエドヴァルドだが、どことなく俺っぽい雰囲気があって……頭にキノコが生えている。

「最悪じゃん、弱点丸見えだよ!」

 見当違いの意見、すまん。

「しかし……なんなのこの神殿」

 人々に紛れ、俺は神殿の内部に侵入した。

「ママーネズミちゃんよー」

バレた!

「あらあら、あの子も御神体があるわ。きっと神様の御使ね。大切にしましょう?」

 おかしい……!おかしいぞ!
奥から神官の説法が聞こえる。

「~であるから、ウスベニ様は精霊様のお力を借り、我ら人々に愛と平和を与えてくださるのです。ウスベニ様最大の教えは愛でございます。例えそれが同性同士、人以外の精霊や動物でも愛があれば胞子を飛ばす事もあるという事です」

は?!飛ばさないでくださいますか?!

 俺はすぐさま否定したが……その神官の教えを広めようとする、真摯だが誇らしげな笑顔。
 説法を聞く人々の笑顔。神殿に流れる暖かい空気に、精霊も遊ぶ環境の良さ。

 内容はどうであれ、これはこれで良いのかもしれない。人は心の中に神を持つという。
 頭の上にキノコ神を持っていても悪くないのかもしれない。

「キノコの高値取引はやめて貰いたいな……」

 俺はどこにでもいる毒キノコなんだから。

 帰ろう。トンデモ宗教だが、これで救われる人もいるかもしれない。あとはセアンとリィムに会ってマリアンヌちゃんを困らせたらいけないよ、と伝えて帰ろう。
 そしてまた寒い雪山に行って凍ってしまおう。誰が森へ胞子を運んだか知らないが、俺はまだ罪悪感で息苦しい。
 俺は俺として胞子を飛ばす生活に戻れない。

「砂漠や火山でも良いかな」

 長い人生?キノコ生だったが十分生きたし、もう良いんじゃないかな。

 くるりとネズミの鼻を入り口に向け、光の指す方に向いた。

《逃すかっ!!》

「え?」

 そんな声かけて聞こえたかと思うと、俺の小さな体は強風に煽られたかのように、奥へはじき飛ばされた。うおおーーー?!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

EDEN ―孕ませ―

豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。 平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。 【ご注意】 ※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。 ※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。 ※前半はほとんどがエロシーンです。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒
BL
頭に強い衝撃を受けた瞬間、前世の記憶が甦ったのか転生したのか今現在異世界にいる。 俺が王子の婚約者? 隣に他の男の肩を抱きながら宣言されても、俺お前の事覚えてねぇし。 てか、俺よりデカイ男抱く気はねぇし抱かれるなんて考えたことねぇから。 婚約は解消の方向で。 あっ、好みの奴みぃっけた。 えっ?俺とは犬猿の仲? そんなもんは過去の話だろ? 俺と王子の仲の悪さに付け入って、王子の婚約者の座を狙ってた? あんな浮気野郎はほっといて俺にしろよ。 BL大賞に応募したく急いでしまった為に荒い部分がありますが、ちょこちょこ直しながら公開していきます。 そういうシーンも早い段階でありますのでご注意ください。 同時に「王子を追いかけていた人に転生?ごめんなさい僕は違う人が気になってます」も公開してます、そちらもよろしくお願いします。

隠しキャラに転生したけど監禁なんて聞いてない!

かとらり。
BL
 ある日不幸な事故に遭い、目が覚めたら姉にやらされていた乙女ゲームの隠しキャラのユキになっていた。  ユキは本編ゲームの主人公アザゼアのストーリーのクリアまで隠されるキャラ。  ということで、ユキは義兄に監禁され物理的に隠されていた。  監禁から解放されても、ゲームではユキは心中や凌辱、再監禁、共依存など、バッドエンドばかりが待っているキャラ…  それを知らないユキは無事にトゥルーエンドに行き着けるのか!?

子悪党令息の息子として生まれました

菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!? ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。 「お父様とお母様本当に仲がいいね」 「良すぎて目の毒だ」 ーーーーーーーーーーー 「僕達の子ども達本当に可愛い!!」 「ゆっくりと見守って上げよう」 偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

処理中です...