上 下
27 / 71
キノ殺

27 シャラ

しおりを挟む
 シャラの記憶が流れ込んでくる。

 王子に生まれながら、あまり良いとは言えぬ人生だった。何十人もいる側妃から生まれ、ただ男子だという事で、何度も命を狙われた。
 毒を盛られ、暗殺者に追われてシャラの心は変質していった。

 狩られる側から狩る側へ。技術と体を磨き、とうとうその力で、血塗られた第一王子へと駆け上がった。
 最初は保身のためだったかもしれない。しかし、失敗を知らない故に狩りに愉悦を見出してしまった。

 より強い獲物。より大きい獲物。より難易度の高い場所、そしてたどり着いた「王」という国の1番高み。
 シャラは何人もの王を狩った。

 その中で1番高潔であったのが、エドヴァルドであった。
 だから愛したと。だから殺したと。

 シャラは壊れていたと言うしか無かった。


「その君をこんな方法で殺してしまう俺はもっとおかしいんだろうな」

 血に濡れているであろう手を見る。俺を拉致して以来、シャラは暗殺の依頼を全て断っていた。
 しかし、アージェン王から依頼された暗殺は行う予定であったようだ。

「……俺にはそんな事は出来ないからな」

 体は覚えているだろうが、最終判断を下すのがキノコでは、そんな依頼は成功しないだろうし、何より暗殺なんてしたくない。

「そうだ……竜は乗せてくれるかな?」

 シャラの首には飛竜を呼ぶ為の笛が掛かっている。中身が違うから、来てくれないかも知れない。でも。

 俺は竜笛を吹いた。通常なら、常人は鳴らすことも出来ないらしいが、体は覚えていた。

ピゥーーイィーー……

 アージェンの竜舎から、シャラの竜が飛んで来た。竜は不信感をいだきながらも、キノコの生えたシャラを乗せ

「行けるだけ、北の山に」

 意味の分からない命令を実行してくれた。雪と氷に閉ざされて、人が寄り付かないような岩山に降り立つと、竜に帰るように命じる。
 寒さが苦手な竜は急いで飛び立った。

 小さな岩の隙間に入り込む。

「寒いなぁ。ここじゃ胞子が飛んでも休眠だよ」

 南国育ちのシャラの体は、寒い寒いと訴える。大丈夫、俺も凄く寒い。

「シャラ、殺してごめんね」

 両手でシャラの体を抱きしめる。

「殺されたから、殺すなんて最悪だった。許してあげれば良かったんだ。君を殺してもエドは帰って来ないんだから」

 寒い、寒いなぁ。

「君をたくさん傷つけたら、俺の恨みが晴れると思ったんだ。そしたら……違ったんだ。君も間違えたけど、俺も間違えたんだ」

 キノコを凍らすと旨味成分が増えるんだってよ?

「許して、あげれば良かったんだ……そしたら、俺はきっと苦しく無かったのに。」

 ごめんね、殺してごめんね。

「人を殺すってこんなに苦しい事だったんだね……分かってあげられなくてごめんね、シャラ」

 ここでなら、俺もゆっくり死ねそうだよ。

「一緒に死んであげる事しか、もう出来なくてごめんね」

 シャラの体はまだ生きていたけれど、心は俺に殺されてしまったのだから、シャラと言う人間は死んでいる。

「ごめんね、俺も苦しいんだ。もう一度死んでくれ。今度は俺も一緒だから……」

 体が眠気に勝てなくなって来た。

「シャラ、ごめんね」

 俺は深く深く氷の中に沈んだ。





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒
BL
頭に強い衝撃を受けた瞬間、前世の記憶が甦ったのか転生したのか今現在異世界にいる。 俺が王子の婚約者? 隣に他の男の肩を抱きながら宣言されても、俺お前の事覚えてねぇし。 てか、俺よりデカイ男抱く気はねぇし抱かれるなんて考えたことねぇから。 婚約は解消の方向で。 あっ、好みの奴みぃっけた。 えっ?俺とは犬猿の仲? そんなもんは過去の話だろ? 俺と王子の仲の悪さに付け入って、王子の婚約者の座を狙ってた? あんな浮気野郎はほっといて俺にしろよ。 BL大賞に応募したく急いでしまった為に荒い部分がありますが、ちょこちょこ直しながら公開していきます。 そういうシーンも早い段階でありますのでご注意ください。 同時に「王子を追いかけていた人に転生?ごめんなさい僕は違う人が気になってます」も公開してます、そちらもよろしくお願いします。

隠しキャラに転生したけど監禁なんて聞いてない!

かとらり。
BL
 ある日不幸な事故に遭い、目が覚めたら姉にやらされていた乙女ゲームの隠しキャラのユキになっていた。  ユキは本編ゲームの主人公アザゼアのストーリーのクリアまで隠されるキャラ。  ということで、ユキは義兄に監禁され物理的に隠されていた。  監禁から解放されても、ゲームではユキは心中や凌辱、再監禁、共依存など、バッドエンドばかりが待っているキャラ…  それを知らないユキは無事にトゥルーエンドに行き着けるのか!?

子悪党令息の息子として生まれました

菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!? ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。 「お父様とお母様本当に仲がいいね」 「良すぎて目の毒だ」 ーーーーーーーーーーー 「僕達の子ども達本当に可愛い!!」 「ゆっくりと見守って上げよう」 偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

【完結】うたかたの夢

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
 ホストとして生計を立てるサリエルは、女を手玉に取る高嶺の花。どれだけ金を積まれても、美女として名高い女性相手であろうと落ちないことで有名だった。冷たく残酷な男は、ある夜1人の青年と再会を果たす。運命の歯車が軋んだ音で回り始めた。  ホスト×拾われた青年、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血あり  ※印は性的表現あり 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 全33話、2019/11/27完

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

処理中です...