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キノ殺

23 シャラ

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「そのキノコはウチのだって言ってんだろぉ?!」

「ええやろ!!キノコの1本や2本!寄越せぇよ!」

 俺が権限行使を使ったので、土の精霊王に俺の居場所がすぐに通じた。こんな暑い所に来てくれるなんて、良い上司だなぁ!

「そのキノコは俺の奥さんが気に入ってんだ!返して貰おう!」

「んだと?!われぇ!そのキノコをウチの嫁にしてやるんだぞ?文句あっか!」

「格上げじゃん?」

「喜べよ」

「良い話じゃないか、受けろよ」

 阿呆上司!滅びろ!

「暑くて無理でーす」

「我慢しろ!」

「エドヴァルド様は私の妻にしますから、精霊王様は別の者でお願いします」

「話がややこやしくなるから、シャラ殿は黙って!」

 自己主張が激しすぎます。

「精霊王様には私の姉でも妹でも好きな者を差し出しますから、そちらで我慢してください!」

「いや、キノコで」

「キノコは私が貰います!」

「そのキノコは森に返せ!」

「大事にしますから!キノコください」

「わしだって大事にするぞ!焼きキノコにせーへんようにするわ」

「最初からキノコはウチのなんだよ!」

 精霊王に食ってかかるシャラ殿の胆力はすごいがキノコ的にはもう疲れたわ。

「寝よ」

 俺は菌糸に戻ってすややかに眠りについた。




「エドヴァルド様は私の妻になってアージェンに住んでいただく事になりました」

 シャラ殿!精霊王様に勝ったのか!

「私の一念をなめてもらっては困ります」

「何があったの……!?」

「火の精霊王様には私の妹がお仕えする事になりました」

「土の精霊王様には必ず幸せにすると誓って参りました」

「……俺の意思は?」

「大丈夫、私達は相思相愛ですから」

「いつの間に?!」

「ずっと以前からじゃないですか……!」

 シャラ殿?シャラ殿?この人、妄想が酷い!


 シャラ殿は俺を抱えて歩く。どこに行くにも片時も離さないし、俺には室内履すら用意して貰えなかった。 

「私の可愛いキノコさんはいつになったら、愛の結晶を宿してくれるのでしょうか?」

「……何を妄想したのか知りませんが、キノコは胞子で増えますからね?」

 シャラ殿は少し首を傾げたが

「私とあなたの子供がそんなにたくさん居たとは」

 何かを妄想したのだろう。優しく手を伸ばし、俺を抱き上げる。嫌だと拒否してみても丸々無視されるか

「可愛いお口を塞いでしまいましょうね?」

「ちょっ!ちょっと!こんな所でっ」

 どこでもサカろうとするのやめて!こっちは羞恥を知るキノコなんだから!


 シャラ・ラジール・アージェンは見目良い男だ。白金の髪に浅黒い肌、青い瞳で均整のとれた長い手足。柔和な笑みを浮かべ、アージェンの王子だと言う。
 
「エドヴァルド様」

 優しく、優しい声で俺を呼ぶ。まるで宝物のように、大切に扱い腕の中に囲い込む。

「エドヴァルド様」

 熱っぽい青い瞳のその奥。

「シャラ殿、私達はいつから愛し合っていたのですか?」

 驚いて、目を丸くしたが

「私達の出会いを忘れてしまうなんて、なんていけない人なんでしょう?」

 首筋をなぞり、そのまま下へ。トン、と心臓の上で止まった。

「10年前、ここに私の愛を打ち込んだでしょう?あなたは優しく受け止めてくれたじゃないですか」

 青い狂気が揺れていた。


 そうかシャラ殿、あなたがエドヴァルドを殺したのか。
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