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31 エピローグ
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「つきはまぁるく、ふくふくと」
ああ、今夜は綺麗なまん丸の月だ。ふくふくだったルドガーそっくりのまあるい月。
あの日、物凄い勢いで領主の館まで走って来たネネコに連れ去られるようにして家まで戻った。
「ルドガー……?」
庭にルドガーが寝ていた。まだ肌寒いのに、何で?と思ったら、横でモリーが泣いている。モリーが泣いているのに、ルドガーが起き上がって慰めないなんて、何があったんだろう?
「ルドガー?」
俺を連れてきたネネコもポロポロと涙を溢し始めてついには大声で泣き出してしまった。
「わああああーーーん!」
ああ、二人も泣いてしまった。俺じゃあ慰められないんだよな、ルドガー、ルドガー、助けてくれ。そんなところで寝てないで、いつもみたいに笑っておくれ。
「ふふ、ルドガー……絶対に俺の方が先に死ぬって宣言してたのになぁ」
庭に横たわるルドガーの横に膝をつく。月光に照らされた顔は一丁前に皺なんかできちゃって、おじさんの顔だけれど、やっぱり可愛い顔をしていやがる。ずるいだろ?顔色は青白いけれど、最初会った時の方がもっと青白かったなぁ。今の方がまだ頬に赤みがある、はは、流石だ。
「ルドガー……」
手を伸ばして、あまり膨らんでいない頬に触れた。まだ暖かい……死んだ後の方が初めて触った時より暖かいなんて変な奴め。
俺が触れたところから、ルドガーは散っていった。白い小さな花びらみたいに崩れていく。それは吹いてきた風に煽られ、月へと飛ばされて行く。見たことのあるその光景は、りんごの花が風に飛ばされていくのとそっくりだった。
「ああ、そうか。りんごか……ルドガーの匂いはりんごの花だったか」
サキュバスになってから、ルドガーは花の匂いがした。爽やかで好きな匂いだな、とは思っていたけれどりんごだったんだな。今、気がつくなんて。
「俺は駄目だなぁ」
俺は泣かない。ルドガーは俺が泣くのを嫌がるだろうから。ルドガーの体は風に乗って月へ飛ばされて行ってしまったけれど、跡に割れたサキュバスの核が5つ残った。
俺はそのかけらを皆に配る。
「ありがとう」
もうジジイに足を突っ込んだオーリは泣かずに受け取った。会った頃と変わらないエセルは泣き過ぎて何を喋っているか分からない。
「私もそう長くない。私の命が尽きればエセルも死ぬ、そう言う契約だ」
「俺もそうすれば良かったなぁ」
子供達にも欠片を渡して近況を聞いた。皆、一生懸命生きていた。
「母さんの教えが良かったからね」
「そうだな」
人を恨ます、自分にできることを見つけ、幸せを探す。私の妻は出来過ぎた男だったよ。
それから私は月の絵を描いている。夜中に、ルドガーの死んだ庭に出て、手頃な大きさのキャンバスいっぱいに銀の月を描いている。
「まあるく、ふくふく。おお、これはいい月だなぁ」
俺の生涯の最高傑作ができた!これは誰かに褒めてもらいたいと思って辺りを見ると、手を叩く音が聞こえて来た。
それはりんごの木の上からだった。
「上手だね」
「そうだろう!上手くかけた……最初に会った時のお前にそっくりだろ?ルドガー」
「うん。まん丸だった頃の私そっくり……なの?あの頃って私は鏡に映らないから分からなかったんだよ」
「だから、俺が描いてやったんじゃないか!にゃんこもこうも絵はヘッタクソだったからな」
「そういえば絵は苦手って言ってたね」
「だろ!」
りんごの太い枝に腰掛けたルドガーはにこにこ笑っている。
「俺も登る」
「また降りれなくなるかもよ?」
「お前が横にいるなら、降りなくていい。手を貸してくれるよな?」
少し困った顔で差し出された手を俺はしっかりと握りしめる。俺は枝の上、ルドガーの横に腰掛けた。
横にいるルドガーはまん丸のぽよんぽよんルドガーだ。
「うーん、俺。まん丸も嫌いじゃないけど、枝が折れそうだなって」
「ひ、酷い!」
笑うとルドガーは痩せた吸血鬼だった頃の姿に変わっていた。
「うん……ヤりたい」
「馬鹿じゃないの?!」
「あー、いやうん、そうなんだけど」
「うわーうわーうわー!レオン最低」
「俺ね、一つだけ願いがある」
「なあに?」
こてん、と首を傾げるルドガーは可愛い、いつも通りとても可愛い。
「今度は男同士でも人間と吸血鬼でも結婚を許してくれる神様がいる所に行きたい。そしてルドガーと結婚する」
「え、あ、あはは……気にしてたの? 」
「絶対ドレスを着せてやる」
「そこぉ?!」
そこだろ!きっと銀色の髪に青い目で、真っ白なドレスはよく似合う。
「一緒に、行けるよな?」
「うん。迎えに来たんだよ」
俺はルドガーの手を離さない。
「じゃ、帰ろっか」
「どこへ?」
ルドガーが上を指差す。
「月へ」
成程、確かに。帰るには相応しい場所だな。
「おう!」
手を繋いだまま、歩き出す。肉体の重みを脱ぎ捨てた俺は、落ちることなく歩き出す。振り返ることはしない。別に未練なんてないからな。
きっとそのうちネネコかモリーがりんごの木にもたれて死んでる俺を見つけるだろう。そして皆は一言言うさ。
「ああ、やっぱりね。ルドガーから離れて生きていけるわけがないもんな」
って。それくらい俺はルドガーのことが大好きだからな。
「ルドガー、愛してる。満月みたいに丸くても三日月みたいに細くても」
「おや、奇遇ですね。私もレオンのことを愛してますよ、ふふ」
まぁるくても、そうじゃなくてもふくふくと。
銀の月はふくふくと。
ああ、今夜は綺麗なまん丸の月だ。ふくふくだったルドガーそっくりのまあるい月。
あの日、物凄い勢いで領主の館まで走って来たネネコに連れ去られるようにして家まで戻った。
「ルドガー……?」
庭にルドガーが寝ていた。まだ肌寒いのに、何で?と思ったら、横でモリーが泣いている。モリーが泣いているのに、ルドガーが起き上がって慰めないなんて、何があったんだろう?
「ルドガー?」
俺を連れてきたネネコもポロポロと涙を溢し始めてついには大声で泣き出してしまった。
「わああああーーーん!」
ああ、二人も泣いてしまった。俺じゃあ慰められないんだよな、ルドガー、ルドガー、助けてくれ。そんなところで寝てないで、いつもみたいに笑っておくれ。
「ふふ、ルドガー……絶対に俺の方が先に死ぬって宣言してたのになぁ」
庭に横たわるルドガーの横に膝をつく。月光に照らされた顔は一丁前に皺なんかできちゃって、おじさんの顔だけれど、やっぱり可愛い顔をしていやがる。ずるいだろ?顔色は青白いけれど、最初会った時の方がもっと青白かったなぁ。今の方がまだ頬に赤みがある、はは、流石だ。
「ルドガー……」
手を伸ばして、あまり膨らんでいない頬に触れた。まだ暖かい……死んだ後の方が初めて触った時より暖かいなんて変な奴め。
俺が触れたところから、ルドガーは散っていった。白い小さな花びらみたいに崩れていく。それは吹いてきた風に煽られ、月へと飛ばされて行く。見たことのあるその光景は、りんごの花が風に飛ばされていくのとそっくりだった。
「ああ、そうか。りんごか……ルドガーの匂いはりんごの花だったか」
サキュバスになってから、ルドガーは花の匂いがした。爽やかで好きな匂いだな、とは思っていたけれどりんごだったんだな。今、気がつくなんて。
「俺は駄目だなぁ」
俺は泣かない。ルドガーは俺が泣くのを嫌がるだろうから。ルドガーの体は風に乗って月へ飛ばされて行ってしまったけれど、跡に割れたサキュバスの核が5つ残った。
俺はそのかけらを皆に配る。
「ありがとう」
もうジジイに足を突っ込んだオーリは泣かずに受け取った。会った頃と変わらないエセルは泣き過ぎて何を喋っているか分からない。
「私もそう長くない。私の命が尽きればエセルも死ぬ、そう言う契約だ」
「俺もそうすれば良かったなぁ」
子供達にも欠片を渡して近況を聞いた。皆、一生懸命生きていた。
「母さんの教えが良かったからね」
「そうだな」
人を恨ます、自分にできることを見つけ、幸せを探す。私の妻は出来過ぎた男だったよ。
それから私は月の絵を描いている。夜中に、ルドガーの死んだ庭に出て、手頃な大きさのキャンバスいっぱいに銀の月を描いている。
「まあるく、ふくふく。おお、これはいい月だなぁ」
俺の生涯の最高傑作ができた!これは誰かに褒めてもらいたいと思って辺りを見ると、手を叩く音が聞こえて来た。
それはりんごの木の上からだった。
「上手だね」
「そうだろう!上手くかけた……最初に会った時のお前にそっくりだろ?ルドガー」
「うん。まん丸だった頃の私そっくり……なの?あの頃って私は鏡に映らないから分からなかったんだよ」
「だから、俺が描いてやったんじゃないか!にゃんこもこうも絵はヘッタクソだったからな」
「そういえば絵は苦手って言ってたね」
「だろ!」
りんごの太い枝に腰掛けたルドガーはにこにこ笑っている。
「俺も登る」
「また降りれなくなるかもよ?」
「お前が横にいるなら、降りなくていい。手を貸してくれるよな?」
少し困った顔で差し出された手を俺はしっかりと握りしめる。俺は枝の上、ルドガーの横に腰掛けた。
横にいるルドガーはまん丸のぽよんぽよんルドガーだ。
「うーん、俺。まん丸も嫌いじゃないけど、枝が折れそうだなって」
「ひ、酷い!」
笑うとルドガーは痩せた吸血鬼だった頃の姿に変わっていた。
「うん……ヤりたい」
「馬鹿じゃないの?!」
「あー、いやうん、そうなんだけど」
「うわーうわーうわー!レオン最低」
「俺ね、一つだけ願いがある」
「なあに?」
こてん、と首を傾げるルドガーは可愛い、いつも通りとても可愛い。
「今度は男同士でも人間と吸血鬼でも結婚を許してくれる神様がいる所に行きたい。そしてルドガーと結婚する」
「え、あ、あはは……気にしてたの? 」
「絶対ドレスを着せてやる」
「そこぉ?!」
そこだろ!きっと銀色の髪に青い目で、真っ白なドレスはよく似合う。
「一緒に、行けるよな?」
「うん。迎えに来たんだよ」
俺はルドガーの手を離さない。
「じゃ、帰ろっか」
「どこへ?」
ルドガーが上を指差す。
「月へ」
成程、確かに。帰るには相応しい場所だな。
「おう!」
手を繋いだまま、歩き出す。肉体の重みを脱ぎ捨てた俺は、落ちることなく歩き出す。振り返ることはしない。別に未練なんてないからな。
きっとそのうちネネコかモリーがりんごの木にもたれて死んでる俺を見つけるだろう。そして皆は一言言うさ。
「ああ、やっぱりね。ルドガーから離れて生きていけるわけがないもんな」
って。それくらい俺はルドガーのことが大好きだからな。
「ルドガー、愛してる。満月みたいに丸くても三日月みたいに細くても」
「おや、奇遇ですね。私もレオンのことを愛してますよ、ふふ」
まぁるくても、そうじゃなくてもふくふくと。
銀の月はふくふくと。
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可愛いタイトルにつられて一気読み。ちゃんとタグ見てから読めば良かった…。朝から泣き過ぎる自分に引いたけど、素敵な作品を読めて幸せです。
こんばんは!
そうなんですよ、タグに「ハンカチのご用意ください」です(;´Д`)朝から申し訳ない……。
優しい人を書いていると書いてるほうまでなんだか優しい気持ちになってきます
こんばんは!お返事遅くて申し訳ございません!
どこまでも優しい人を書いてみたいなと思ってできた感じです。
いつでも見守ってくれる真ん丸ちゃんです。
お読みいただきありがとうございます!&コメントありがとうございます(*‘ω‘ *)
わー!ありがとうございます!色々書いて良かったなあと本当にうれしいです!
物凄く良い子を書きたくなってあんな感じになりました。エールありがとうございます!
こちらの方は短めですが、双子のござるはこれからまだまだ続きます!