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3 今は逃げる時だ

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「ルドガーさまぁ!」
「チム!お母さんも連れてきたか?!」
「うん!」
「お母さんは屋敷の中に入ってもらって。人数に限りがあるから、付き添いは一人で元気な奴らは庭で待機だ」
「分かった」

 領主の屋敷から出た火は案の定、民家に飛び火した。こうなってはもう止められない。私の土地は離れているから、飛び火はないだろうけど人々が避難して来る。

「るどがーさま、おうちがもえちゃったよぉ」
「生きていればまた建て直せる。私もお手伝いしてあげるから、今は泣かないで」
「うん……」

 まだ5歳のアンが必死に涙を拭いている。子供とお年寄り、病人は屋敷の中に、元気な大人は外で燃える町を見つめていた。

「何が、起こったんだ……」

 誰もが呆然とする中、私の優秀な使い魔が戻って来る。

「ご主人様!領主の屋敷に賊が……いえ、中央からの刺客が来たみたいですにゃん!」
「ええー?!今の領主って良い人だよね?!」

 現在の領主は領民思いの良い領主だ。人々の暮らしはここ何年も安定して来ているし、税率も安くて良い人だよ?

「良い人で真面目過ぎたんですにゃん!どうらやら元々とても偉い貴族だったらしくて謀略に巻き込まれてこの地に飛ばされたのに、ここでも良い領主と言われ始めて……消されたにゃん!」
「うわぁー汚い奴だぁ」
「なんだって?!俺らはそんなことのために家や家財を失ったのか!」

 側で黒猫の報告を聞いていたみんなは怒ったり泣いたり……偉い奴の犠牲になるのはいつも下のものだよね……。しかも消された……エリック・ハウズは殺されてしまったの?いい人だったのに……いい人は、早く死んでしまうんだ。

「ルドガー様、中央からの刺客がこっちに来ますにゃん!」
「うう、やだな。ゴーレムは守りを固めて。にゃんこちゃんは逃げ遅れた人がいないか見てきて」
「かしこまにゃん!」

 逃げ込む人、追いかける刺客……剣士や騎士っぽい奴らもいた。そして奴らも気が付き始める。私がこのりんごの木に囲まれた土地の外には手を出さないことに。
 ぐるりと辺りを囲み、膠着状態に陥った。囲めばやがて降参するしかないと踏んだんだろう。ふふん、そうは行くか。うちに避難してきている全員を屋敷の中に迎え入れて、地下倉庫にある抜け道の扉をガコンと開けた。この扉はとても重くて、私かにゃんこちゃんじゃないと開けられない……つまり普通の人間ではびくともしないんだ。

「この抜け道を通って山の方に逃げてくれ。怖い人がいなくなったら戻っておいで。私はあの土地から離れられないからここで待っているよ」
「うん、分かったルドガー様。また会えるよね」
「無論さ」

 そうして私は私の屋敷に逃げ込んでいた人達を全員逃した。中には領主の19になる息子もいたが励ますことしかできない。

「今は逃げる時だ。分かるね、レオン」
「このご恩は必ず! 」
「ああ」

 抜け道は屋敷の地下から伸びているから、外で見張っている奴らには気づかれないだろう。たまにちょっかいを出してくる奴とわざと小競り合いをしたりして時間を稼ぐ。その間にみんな無事に逃げて欲しい。

「にゃんこちゃん、こうちゃん、ゴーレム達も皆が逃げたのがばれないように、少し暴れるよー」
「はーい!」

 まあとはいえ私は吸血鬼。人間が束になっても特に問題はないでしょう。


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