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25 スコットさん、危機一髪

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「で?どうなったッスか?無理矢理噛み付いて傷物にしちゃったスか?」

 王の私室には警護のものが詰めている小部屋が併設されていて、この双子の皇帝、ルディールとサフィールの部屋も例外ではありません。ええ、安全の為の覗き見部屋です。保安上仕方がなく、です。

「それが小一時間追いかけっこをしていたのですが……」


「はぁ?疲れたスコットさんが寝落ちしたら、それに抱きついて2人とも寝たって?!あの2人が?なんでそんな可愛い事になってンスか!?冗談っすよね?!」

 泣く子は殺す冷血皇帝だぞ?リックは鹿の剥製の目玉からキョロキョロと部屋の中を覗き見してみました。
 本当にどでかい天蓋付きのベッドの上に3人くっついて寝ています。スヤスヤ寝息も聞こえてきそうです。

「しかし、何というか。あんなに楽しそうな陛下達は初めて見ました。それはそれは嬉しそうに追いかけ回していましたよ」

 リックは涙目で逃げ回るスコットさんが心底可哀想になってきました。

「もうそんな、哀れな獲物をいたぶるような事を……さっさととどめを刺した方が優しいんじゃないっすかね……」

 きっと目を覚ませばまた、わーわーきゃーきゃー追いかけっこを始めるでしょう。そろそろ頭痛薬が欲しくなって来たリックなのでした。


「間違いないのだな?」

「はい、捕らえた竜騎士5名、竜5頭。北の帝国の騎士です。勇者が途中で追いついたらしいのですが、阻まれたと言っております」

 キシュル王の表情は苦草を噛み締めたように苦々しいです。弟のスコットさんは可愛い!今すぐ乗り込んで奪い返したいです!
 しかし相手が竜騎士となるとそうも行きません。何せ竜騎士は皇帝直属の騎士達です。彼らを動かせるのは皇帝のみ。彼らと事を構えるという事は、北の帝国皇帝に喧嘩を売ることになります。

「どうしてこんなことに……」

「警備隊のリック副隊長が、全く姿を見せないそうです。何らかの関わりがあるのではないでしょうか」

 なるほど、リックが不在だったか。キシュル王は少し考えます。有能な彼がいなければ、起こり得ることでした。
 雨に紛れてやって来た来訪者。それに気づかなかった警備の者。ずっと事件がなかったので、緩み切っていたのもあったんです。

「最近はなかったとはいえ、スコットの誘拐された数は両手両足の指の数では足りん物を……」

 とにかく、ほんの子供の頃のスコットさんは誘拐されまくりました。綺麗な色味の可愛い子供。しかもどこかぽやっとしていて、知らない人にもついていきそうな警戒心の足りなさが滲む顔です。
 実際、知らない人にもホイホイついて行き、飴を上げると言われるとついていき、お母様が呼んでいると言われるとついて行き……。
 その度に周囲は皆んな青い顔をして、探し回り、犯人と交渉し、ぶちのめす。そして笑顔で誘拐された事も気づかずににこにこ遊んでいたり、眠っていたりするスコットさんを保護する日々だったのです。

「はぁ39にもなって誘拐されたか……」

 子供の頃にもまして、問題が多すぎます。何せスコットさんはΩです。無理矢理に屈服させられてからでは、遅すぎるのですから。

「無事で居て欲しいが……それは難しいだろうな」

 自慢ではありませんが、アルフリット国は小さくて裕福でもありませんから、身代金目的の誘拐とは考えられません。
 すると目的はスコットさん自身になります。

「本当に無理矢理でも伴侶を決めておけば良かった」

 スコットさんのお兄さんのキシュル王の後悔は深いのでした。

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