上 下
10 / 33

10 有能・リック

しおりを挟む
 時は少し戻り、リックは隊長のお尻を蹴っ飛ばします。

「隊長!森に行って鹿を狩って来てください!」

「はあ?!突然なんだね……」

「いいから!早く!早く!!!」

 リックの剣幕とローキックの連打に負けて隊長さんは森へと追い出されました。

「ううー!間に合うだろうか!隊長!スコットさんの貞操がかかってるんですからね!」

 すぐに隊長さんは戻って来ました。背中に若いとっても美味しそうな雄鹿を背負っています!

「何かすぐに捕まえて帰らないと、スコットさんが危険に晒される気がして!」

「流石隊長キモい」

 そう言いながらもリックはチャチャっと雄鹿を適度に捌いて、大半を持ちました。

「行きますよ!隊長!」

「おっ?おう??」

 リックはお肉を背負って急ぎ足で丘を登ります。

「スコットさん、スコットさーん!お隣のリックでーす」

 どんどん!どんどん!リックはスコットさんのお家のあまり建て付けの良くない扉を叩きます。

「あっ!リック!そ、そんな!スコットさんの家に!だ、駄目だ!わ、私はそんな!ああ!ドキドキするぅ!」

「黙って!隊長!」

 ややしばらくすると扉が開き、ホッとした顔のスコットさんが出てきました。

「リックさん!」

 リックの顔を見て、助けが来たとぱぁっ!と笑顔になったのです!やっぱりな、リックは内心悪態をつきますが、きちんと理由をぶら下げて来たので取り敢えず切り出します。

「スコットさん、隊長が鹿を捕まえて来たので、お裾分けに来ましたよ!」

「わぁ!凄いですね、入って下さい」

「はい、お邪魔しますよー」

 するーっとリックはスコットさんの家に侵入します。

「隊長も!」

「は!はひぃ!」

 ガチガチに緊張しながら入る隊長ですが

「む!」

 先客に眉を寄せました。

「……こんばんは、どちら様でしょうか」

「俺たちはスコットさんのお隣さんだよ」

 スコットさんの家の周りは何もないので、隣の家は警備隊の宿場かつ事務所なんです。だからリックの言葉に嘘はありません。

「リックさん、こっちです」

「任せて下さい」

 リックとスコットさんは台所へ消えます。

 あまり広くない部屋に隊長とアルフレッドが残されました。

「……」

「……」

 二人とも無言ですが、双方ともに何かを感じ取って、圧がどんどん上がって行きます。
 ピキン、パキン!何かおかしな音も聞こえてきました。一髪触発です。


「助かりましたぁーリックさん!」

「どうしたんです?」

 リックは出来る男なので素知らぬフリでスコットさんの話を聞きます。ついでに持ってきた鹿を捌いて手際よく料理を作り始めます。
 スコットさん、一人暮らしが長くなってきたおじさんなのに、料理は今ひとつなんです。
 たまにリックがお肉を持ってきてお料理を作っていたので、こうして簡単にお台所まで入れるんですね。
 勿論隊長には内緒でしたが、今日は緊急事態なので、仕方がありません。

「泊まるところがないと言ったので家にあげたんですが……話は噛み合わないし、変な生首持っていて怖いんです」

「わぁ……」

 リックさんは部屋で隊長と睨み合っている男が勇者だと知っていますが、知らないフリして話を合わせます。
 リックは空気を読める男なのです。

「スコットさんのお知り合いなので?」

 そう尋ねると

「そう、らしい……です」

 なんとまぁ、語尾が小さくなってます。

 そんな怪しい人お家にいれるんじゃありません!とリック母さんはスコットさんを叱りたくなりましたが、ぐっと我慢します。何せリックは気遣いの出来る男なのですから。

 隊長……上手いことやって下さいよ?

 リックはスコットさんの事なら有能な隊長に望みを託した。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処女姫Ωと帝の初夜

切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。  七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。  幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・  『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。  歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。  フツーの日本語で書いています。

白銀の城の俺と僕

片海 鏡
BL
絶海の孤島。水の医神エンディリアムを祀る医療神殿ルエンカーナ。島全体が白銀の建物の集合体《神殿》によって形作られ、彼らの高度かつ不可思議な医療技術による治療を願う者達が日々海を渡ってやって来る。白銀の髪と紺色の目を持って生まれた子供は聖徒として神殿に召し上げられる。オメガの青年エンティーは不遇を受けながらも懸命に神殿で働いていた。ある出来事をきっかけに島を統治する皇族のαの青年シャングアと共に日々を過ごし始める。 *独自の設定ありのオメガバースです。恋愛ありきのエンティーとシャングアの成長物語です。下の話(セクハラ的なもの)は話しますが、性行為の様なものは一切ありません。マイペースな更新です。*

薬師は語る、その・・・

香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。 目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、 そして多くの民の怒号。 最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・ 私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中

(…二度と浮気なんてさせない)

らぷた
BL
「もういい、浮気してやる!!」 愛されてる自信がない受けと、秘密を抱えた攻めのお話。 美形クール攻め×天然受け。 隙間時間にどうぞ!

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

運命の人じゃないけど。

加地トモカズ
BL
 αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。  しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。 ※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。

可愛いアルファ(仮)は僕のオメガ

竜鳴躍
BL
北村陸は漆黒の髪と瞳の色が綺麗な美少年(ブラコン)である。 大好きな兄の進学と同時に大学へ入学するため無茶なことをしたので、中3にあがる年に大学一年になった。 自称アルファだが、まだバース性が安定しない陸のことを、同じアルファの幼馴染は求愛していて。 執着攻め(上位α)×強気受け(α(仮)→後天Ω) 〇もう一つの運命の番 芸能人×大学生(陸の兄)も書きます。 ☆美貌のオメガは正体を隠すの主人公夫婦の次男カップルメインの短編。イチャイチャ、なれそめ補充話 ☆前作 https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/438629718

恋のキューピットは歪な愛に招かれる

春於
BL
〈あらすじ〉 ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。 それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。 そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。 〈キャラクター設定〉 美坂(松雪) 秀斗 ・ベータ ・30歳 ・会社員(総合商社勤務) ・物静かで穏やか ・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる ・自分に自信がなく、消極的 ・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子 ・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている 養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった ・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能 二見 蒼 ・アルファ ・30歳 ・御曹司(二見不動産) ・明るくて面倒見が良い ・一途 ・独占欲が強い ・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく ・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる ・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った 二見(筒井) 日向 ・オメガ ・28歳 ・フリーランスのSE(今は育児休業中) ・人懐っこくて甘え上手 ・猪突猛進なところがある ・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい ・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた ・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている ・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた ※他サイトにも掲載しています  ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です

処理中です...