【完結】花屋のスコットさん

8 スコットさん、告白される

　今日もスコットさんはのんびり店番をしています。あまり繁盛していない……いえ、かなり閑古鳥の鳴いている乏しい売り上げですが、スコットさんが一人で食べていく分にはなんとかなっているのです。
　スコットさんは結婚してお嫁さんを貰うつもりもないのです。お母さんが静かに暮らす事を選びました。
　お母さんはスコットさんが王家の血を引いている事を流石に知っていますから、余計なゴタゴタに巻き込まれたくないとそういう選択をしてしまったのです。

　お母さんと、スコットさんで静かに暮らして死んで行こうって。

　なんて勿体ない話なんでしょうか！でもお母さんはそれが一番だと思ったのでしょうがなかったんですね。
　スコットさんもそんなもんかーなんて納得しちゃってるので、のんびりのんびり、一人暮らしをしている訳です。

「スコットさーん！」

　丘の下から子供達が手を振っています。

「スコットさーん！勇者様が魔王を倒して凱旋するんだってー！見に行こうよー！」

　人混みも苦手なスコットさんは、子供達にお断りをします。

「私は行かないからお話し聞かせてくださいねー」

「分かったー！」

　子供達は大きな通りがある方に急いでかけていきました。

「はぁー勇者様ですか。そういう人のおかげで平和に暮らせているんですね」

　隊長さんのおかげっていうのもあるんですけど、それは色々な目に余る行動と帳消しで、褒めるわけにはいかないですね！
　隊長さんは翌日からケロッとしてまた毎日花を買いに来ています。無敵ですかね？？

「勇者ねぇ……」

　スコットさんには勇者との触れ合いにいくつか心当たりはありますが、まあ何年も前の話なので色々忘れています。

「まあ、良いか」

　大丈夫、まだボケてませんよ！ちょっとのんびりさんなだけなんですよ！

　だぁれもお客さんは来ませんでしたが、スコットさんが花を片付けていると、誰かが駆け上がって来ます。

　金髪のきれいな若い男の人です。この丘を登ってくるのはスコットさんに用事のある人だけなんです。

「スコットさーーーん！」

「はて？誰でしょう？」

　スコットさんが閉店準備の手を止め首を傾げていると、その男性はものすごい速さで丘を登り、あっという間にスコットさんの目の前に来ました。

「スコットさん！僕です！覚えてらっしゃいますか！」

　スコットさんはいつもの子リス顔です。だめです、見当もつかないやつです。

「１０年くらい前、スコットさんにギニニ草の花を分けてもらったアルフレッドです！」

　にこっ！スコットさんは笑いましたが、駄目なやつです。覚えてない奴です。
　今38歳のスコットさんの１０年前は28歳です。歳は取りたくないものですね、スコットさん。

「どこに行っても無かったあの花のおかげで14才だったぼくは一命を取り止めました！そうしてこんなにげんきになれたんです！ぜんぶスコットさんのおかげです！」

「あ、そうだったんですね」

　熱く語るアルフレッドとは逆に幾ら考えても、誰だか分からないスコットさんは笑って誤魔化すことに決めたようです。
　お母さんがいれば、聞けたかもしれませんが、お母さんも帰って来ませんしね。

「それでスコットさん……ぼ、僕はあなたに命を救われた時から、ずっと…ずっと…」

　アルフレッドはスコットさんの両手を握りしめます。ちょっと痛かったのか、スコットさんは眉を寄せましたが、アルフレッドか続きを喋りたそうにしているので聞くようです。

「あ、貴方の事が好きなんです！結婚して下さいっ！！！」

「え？」

　全身全霊を込めたアルフレッドの告白をぽかーんと口を開けたまま聞いたスコットさんでした。
　お口は閉じましょうね、スコットさん。