上 下
1 / 33

1 ユーティアの限界

しおりを挟む
 やっぱりなのね……。私、ユーティア・ラングは何度目か分からないこの下らない寸劇にため息と、悲しみ、大きな理不尽を持って見つめていました。

「ごめんなさい、お姉様……だって、私の方がアレクシス様の事を想っているんですもの」

「ああ!ミーア、ありがとう。私が最初に間違えなければ良かったのだ。最初から私の婚約者はユーティアではなく君にすれば良かったのに……」

 アレクシス殿下と私の妹のミーアは貴族達を招いた夜会でぴったりと抱き合いました。
 紙よりも白い顔であろう私は、倒れないようにゆっくりと陛下に近づき

「申し訳ございませんが、体調がすぐれません……下がらせて頂いても宜しいでしょうか……」

「ああ……構わぬユーティア嬢。馬車で送らせよう……追って沙汰をする」

「かしこまりました」

 私は衛兵に支えられながら、陛下が用意して下さった馬車に乗り、ラング侯爵家に帰ります。
 我が家の馬車はミーアの為のもの……私を乗せる気はないのです。

「……」

 戻った所で誰も私を迎える者はいません。メイドも鼻で笑い、執事も見て見ぬふり。あまりに早く帰って来た私に、最近来た庭師のシューがびっくりした顔で走り寄って来ました。

「ユーティアお嬢様!顔色悪いです!夜会は?!お一人でお帰りに?!」

「シュー……また、なのよ」

「……ま、まさか、ミーアお嬢様が?」

 私はもう流れる涙も残っていません。ただ目を伏せて淡々と語るだけ。

「アレクシス殿下が欲しいのだそうです」

「嘘だろ」

 庭師のシューですら、驚く事。でもそれがこの家の日常。


「お姉様、ミーアにこれちょうだい?」

「ダメよ、これは私の亡きお母様からいただいた大切なペンダントですから」

「ひっ!酷い!お姉様!そんな古ぼけた汚いペンダントならミーアにくれても良いじゃないですか!」

 古ぼけて汚いペンダントを何故欲しがるのか、意味が分かりません。しかし新しいお母様の連れ子のミーアが泣きながら走っていきます。
 しばらくするとお父様とお義母様が私を責めに来るのです。

「お前は姉としての自覚が足りないのか!」

「ミーアに上げたっていいでしょう?!」

「やめて下さい!」

 ペンダントは無理矢理取り上げられます……。そして数日後に

「ミーア、あのペンダント、お願いだから返してちょうだい!」

「えー?汚いから捨てちゃったーだって、私要らないもん」

「酷い……っ」

 これがラング侯爵家の日常です。

「もう嫌……お母様、もう無理です」

 私は亡きお母様の最後の教えを実行する事にしました。もう、この家にいる事は私には無理です。


しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

結婚式の夜、夫が別の女性と駆け落ちをしました。ありがとうございます。

黒田悠月
恋愛
結婚式の夜、夫が別の女性と駆け落ちをしました。 とっても嬉しいです。ありがとうございます!

私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います

***あかしえ
恋愛
薄幸の美少年エルウィンに一目惚れした強気な伯爵令嬢ルイーゼは、性悪な婚約者(仮)に秒で正義の鉄槌を振り下ろし、見事、彼の婚約者に収まった。 しかし彼には運命の恋人――『番い』が存在した。しかも一年前にできたルイーゼの美しい義理の妹。 彼女は家族を世界を味方に付けて、純粋な恋心を盾にルイーゼから婚約者を奪おうとする。 ※タイトル変更しました  小説家になろうでも掲載してます

田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました

さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。 時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。 手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。 ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が…… 「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた ホットランキング入りありがとうございます 2021/06/17

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷
恋愛
 ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。 次期公爵との婚約も決まっていた。  しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。 次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。  そう、妹に婚約者を奪われたのである。  そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。 そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。  次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。  これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました

青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。 しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。 「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」 そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。 実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。 落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。 一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。 ※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております

処理中です...