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52 勇者凄い!
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「えっと、いつごろからですか」
「いつかは分かりませんが、ここ最近ずっと気分が悪くてまさかとは思っていたのですが」
「へえ……」
本当に、本当によくわからないけれど、俺と宰相さんが椅子で頭を抱えていると俺の診察室のドアが乱暴に開いた。
「シャトルリア様!セイルが、セイルがーー!」
「ミュゼル君……?」
ミュゼル君にお姫様抱っこされたセイルが文字通り飛び込んできた。つまりミュゼルは足で扉を開けた。許せん、後で叱る。
「ここ最近具合が悪いって、何をしても良くならないんだ!」
「うう、は、吐きそう……」
セイルは本当に青い顔で呻いている。この感じ今現在目の前にいる人と。
「……完全に一致」
「おおう……」
俺と宰相さんは天を見てため息をついた。えっと何なのこの現象は……。
(えへっ!よろしくね)
(うわああああこんにちはあああはじめましてええええええよろしくねええええええ)
やっぱりセイルのお腹の中に見ず知らずの人がいた。
「どういう原理か分からないけれど、今宰相さんとセイルは妊娠中です。かなり初期の段階だけれど、両方とも魂が宿っている……おめでとうございます」
「この場合は……」
「宰相さんはヘンドリクセン兄弟のどちらかとの子供だろうね、セイルはミュゼル。魔力だまりの後にあった袋の中にいる……元気な男の子です」
セイルとミュゼルは右側に首を傾げ、さっぱりわからん、という顔をしている。とりあえず俺も分かる範囲でしか言えない。
「シャトルリア様。どう、なるんでしょうか」
宰相さんが言っているのはいろいろなことだと思うけれど、今俺が分かることは少ない。
「もう、中の子供には魂があるということと、順調に生育しているみたいだってしか言えない。シャトルリアの時みたいに最初から何か足りないとかではなく、順調だった……」
「順調……でしたか」
「うん……」
今度は仲良く左に首を傾げているセイルとミュゼルは置いといて、宰相さんは難しい顔をしている。何を思っているか分からない俺じゃない。子供をこれ以上育てない、という選択をするかどうかを考えたんだろう。なぜ、どうしては考えても分からないなら、事実をこれからどうするかに焦点を置くべきであり、つまりそれは産むか産まないか。
もし、中の子供がまだ魂がなければ……あるいは生まれることができない子であるとか、産まれても生きられない子ならばもうここで終わらせてもいいのでは?と。未知の恐怖を捨てるための免罪符を用意してもいいのではないかと。
宰相さんは顔色が悪いまま、俯いた。免罪符は、今の所用意されていない。そしてもう腹の子は意思がある。俺とお話できるくらいしっかり、はっきりと。これ以上育てないと決めれば、それはその子を殺す事だ……。
「俺と、ミュゼルの、子供?」
セイルが次に首を右に傾けて突然呟いた。
「……うん。なぜか知らないけれど、赤ちゃんがそのお腹の中にいる」
「本当に?」
「うん。さっき挨拶しちゃった」
すると、セイルはまるで早回しで花が開くようにみるみる笑顔になって行く。
「す……凄い!凄い凄い!!嬉しい!俺、凄い嬉しい!!そんなの絶対無理だって思ってたのに、凄い!ミュゼル、凄い、俺、凄いよ!」
ぴょこん!とセイルは跳ねた。
「ミュウ!俺、ミュウの赤ちゃん妊娠した!俺、凄い!流石勇者、俺凄い勇者だよ!」
「え?うん、セイルが凄いし勇者なのは知ってたけど……確かにすごい、凄いよ、セイル」
「だよねー!俺……凄い!やったあああ!凄い嬉しい!」
嬉しい、セイルはキラキラした笑顔でそう言った。ああ、そうだ、そうなんだ。なんだか俺の暗い気持ちはその笑顔に浄化された。あり得ないこと、不思議なこと……それは未知の恐怖でしかないと思ったけれど、それだけではなかったんだ。嬉しくて幸せであることでもあったんだよ。
「わーい!男の子だって!どうしよう!」
「男の子かー!セイルは凄いな!」
ミュゼルはセイルを抱き上げてくるくる回り出した。うむ、妊娠が分かった幸せカップルの定番行動でとても俺は嬉しいよ。さて、宰相さんはどうするんだろうな。
「どうしま……うわっ」
「ひい」
宰相さんが一人で来たはずなのに、もう両側にヘンドリクセン兄弟がいて挟まれている。
「最高ですね、可愛い奥さん」
「神秘ですね、可愛い奥さん」
「ひぇえええええ……」
圧が凄い。きちんと話し合って欲しいものだけれど、圧力の差が凄い。ついでに扉からもう一人飛び込んで来た。
「シャト、王弟陛下の子供達は次期王太子を辞退するって!」
「ホラン様……一体それはどういうことで……あ」
も、もしかして。お、俺も……俺も妊娠する可能性があるのか!?ていうかなんでその話知ってるの!?
「いつかは分かりませんが、ここ最近ずっと気分が悪くてまさかとは思っていたのですが」
「へえ……」
本当に、本当によくわからないけれど、俺と宰相さんが椅子で頭を抱えていると俺の診察室のドアが乱暴に開いた。
「シャトルリア様!セイルが、セイルがーー!」
「ミュゼル君……?」
ミュゼル君にお姫様抱っこされたセイルが文字通り飛び込んできた。つまりミュゼルは足で扉を開けた。許せん、後で叱る。
「ここ最近具合が悪いって、何をしても良くならないんだ!」
「うう、は、吐きそう……」
セイルは本当に青い顔で呻いている。この感じ今現在目の前にいる人と。
「……完全に一致」
「おおう……」
俺と宰相さんは天を見てため息をついた。えっと何なのこの現象は……。
(えへっ!よろしくね)
(うわああああこんにちはあああはじめましてええええええよろしくねええええええ)
やっぱりセイルのお腹の中に見ず知らずの人がいた。
「どういう原理か分からないけれど、今宰相さんとセイルは妊娠中です。かなり初期の段階だけれど、両方とも魂が宿っている……おめでとうございます」
「この場合は……」
「宰相さんはヘンドリクセン兄弟のどちらかとの子供だろうね、セイルはミュゼル。魔力だまりの後にあった袋の中にいる……元気な男の子です」
セイルとミュゼルは右側に首を傾げ、さっぱりわからん、という顔をしている。とりあえず俺も分かる範囲でしか言えない。
「シャトルリア様。どう、なるんでしょうか」
宰相さんが言っているのはいろいろなことだと思うけれど、今俺が分かることは少ない。
「もう、中の子供には魂があるということと、順調に生育しているみたいだってしか言えない。シャトルリアの時みたいに最初から何か足りないとかではなく、順調だった……」
「順調……でしたか」
「うん……」
今度は仲良く左に首を傾げているセイルとミュゼルは置いといて、宰相さんは難しい顔をしている。何を思っているか分からない俺じゃない。子供をこれ以上育てない、という選択をするかどうかを考えたんだろう。なぜ、どうしては考えても分からないなら、事実をこれからどうするかに焦点を置くべきであり、つまりそれは産むか産まないか。
もし、中の子供がまだ魂がなければ……あるいは生まれることができない子であるとか、産まれても生きられない子ならばもうここで終わらせてもいいのでは?と。未知の恐怖を捨てるための免罪符を用意してもいいのではないかと。
宰相さんは顔色が悪いまま、俯いた。免罪符は、今の所用意されていない。そしてもう腹の子は意思がある。俺とお話できるくらいしっかり、はっきりと。これ以上育てないと決めれば、それはその子を殺す事だ……。
「俺と、ミュゼルの、子供?」
セイルが次に首を右に傾けて突然呟いた。
「……うん。なぜか知らないけれど、赤ちゃんがそのお腹の中にいる」
「本当に?」
「うん。さっき挨拶しちゃった」
すると、セイルはまるで早回しで花が開くようにみるみる笑顔になって行く。
「す……凄い!凄い凄い!!嬉しい!俺、凄い嬉しい!!そんなの絶対無理だって思ってたのに、凄い!ミュゼル、凄い、俺、凄いよ!」
ぴょこん!とセイルは跳ねた。
「ミュウ!俺、ミュウの赤ちゃん妊娠した!俺、凄い!流石勇者、俺凄い勇者だよ!」
「え?うん、セイルが凄いし勇者なのは知ってたけど……確かにすごい、凄いよ、セイル」
「だよねー!俺……凄い!やったあああ!凄い嬉しい!」
嬉しい、セイルはキラキラした笑顔でそう言った。ああ、そうだ、そうなんだ。なんだか俺の暗い気持ちはその笑顔に浄化された。あり得ないこと、不思議なこと……それは未知の恐怖でしかないと思ったけれど、それだけではなかったんだ。嬉しくて幸せであることでもあったんだよ。
「わーい!男の子だって!どうしよう!」
「男の子かー!セイルは凄いな!」
ミュゼルはセイルを抱き上げてくるくる回り出した。うむ、妊娠が分かった幸せカップルの定番行動でとても俺は嬉しいよ。さて、宰相さんはどうするんだろうな。
「どうしま……うわっ」
「ひい」
宰相さんが一人で来たはずなのに、もう両側にヘンドリクセン兄弟がいて挟まれている。
「最高ですね、可愛い奥さん」
「神秘ですね、可愛い奥さん」
「ひぇえええええ……」
圧が凄い。きちんと話し合って欲しいものだけれど、圧力の差が凄い。ついでに扉からもう一人飛び込んで来た。
「シャト、王弟陛下の子供達は次期王太子を辞退するって!」
「ホラン様……一体それはどういうことで……あ」
も、もしかして。お、俺も……俺も妊娠する可能性があるのか!?ていうかなんでその話知ってるの!?
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