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46 ばいばい、頑張ってね……。

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「ふええええん! シャトルリアさまああああああすいませぇ~~ん!」
「わわ、宰相さん?! どうしたの」
「あいつらが、あいつらがーーーー」

 凱旋だろうか。悪魔を打ち倒して勇者セイルと騎士団が一人の死者もなく王宮へ帰還する。いろいろな手続きをして一息つき、宰相さんに報告しようとすると泣きつかれた。

「ふええええええ、お帰りなさいのついでに助けてください~~~~!」
「え、助ける? どうしたの??」

 そういえば宰相さん、俺が出かける前と今は随分様変わりしてる。前はかっちりした出来る文官! って感じの礼服を着込んで隙の無い国の重鎮さん、って感じだったのに。今は割とラフっていうか……はっきりいって随分とまあ……。

「スケスケな服を……」
「だから助けてくださいーー!」

 ていうかそれ、寝間着っていうか、ネグリジェっていうか……エッチな服だ。少し伸ばした髪の毛も手入れされて艶々だし、唇にはちょっと紅を引かれててお化粧してる? 助けてーって言ってる手の爪もピカピカしてて……なんか乳首に鈴ついてません? チリンチリン可愛い音が聞こえますが??

 あとパンツ穿いてませんよね? どこに置いて来たんです??

「可愛い人、手間をかけさせるなて。あ、シャトルリア様無事のお帰りお喜び申し上げます。すいみません、彼はもう少し貸してくださいね」
「えっと……ヘンドリクセン副団長(兄)?」

 俺は知ってる。皇帝陛下の直属のエリート騎士団の中でも特にエリート中のエリート、ヘンドリクセン侯爵家次男のリッツ様だ。そのリッツ様がこれまた男の色気ムンムンなエッチな格好で現れた。あ、あれ??

「早く続きを。次は私の番ですよ……シャトルリア様、こんな格好で失礼します。詳しくは後でお伝えさせてくださいね」
「あ、ヘンドリクセン副団長(弟)? 」
「助けてーーーー助けて、シャトル……むぐっむぐーーー!!」

 宰相さんはなんかヘンドリクセン兄弟に挟まれて連れ去られた。俺がポカンと口を開けていると部屋の中から叫び声が数回、その後

「あ!や、やああああ!んっあ、ひいぃっあああっらめええええ!」
「良いですよ、テリー!さあ愉しみましょう、今夜もね」

 とりあえず、俺に出来ることは耳を塞いで回れ右をする事だと知った。ばいばい、頑張ってね。そう言えば宰相さんの名前はテリーだったっけ……。



「無理やりですうううっ!」
「事後承諾です」
「はあ……事後、ね」

 俺が一生懸命悪魔を倒してる間に、宰相さんったら手籠めにされて書類にハンコは押させられるはヘンドリクセン家の嫁にされるは大変なことになっていた。

「実は一目見た時から好きになってしまっていたんです」
「私達は双子なので好きになるものもほぼ一緒で」

 兄・リッツと弟・オリーは宰相さんを挟んで両側に座っている。滅茶苦茶距離が近くて宰相さんが半分潰れている。

「一目っていつから?」
「シャトルリア様が6歳になられた時、初めて帝国にいらっしゃったでしょう?その時に付き添いで来られましたよね?その時です!」
「……お、おう……12年前か」
「はい!」

 こ、これは……深いな……。俺のすぐ横にこっちも俺を潰そうとしているのか?っていう距離にいる殿下にちらりと視線を向けてみると、にこっと笑われた。いやそうじゃなくて、それほんとなのか知りたいんだけど。

「ああ、リッツとオリーの話かい?本当だよ、皆知っている事だね。気が付かなかった?ウィルズ宰相の周りに常に付きまとっていたでしょう?」
「まったく気が付きませんでした……」
「彼らは隠密行動も得意だからね」

 そっか……宰相さんストーカーされてたか……そりゃ連れて来て悪いことをしたなと思うけれど。これ、俺のせいじゃないよね?

「……宰相さん、結婚してたよね?」
「15年前に奥様とは死別、その後はお一人ですので何の問題もなく手続きさせていただきました」
「流れるように鮮やかだ」
「うう……酷い」

 顔を手で覆って泣いてるように見せて泣いてないでしょ……宰相さん。この人も一応我が国の頭脳のトップに位置する人だ……ああ見えて色んな策を練っているに違いない。

「ふえええ……」

 本気で泣いてた、駄目かも。
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