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34 最悪が梃子でも動かない(宰相視点

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「シャトルリアは私のものだ」
「それは」
「私のものだ!!」

 北帝国エネルの王太子ホルランド様は梃子でも動かぬといった姿勢を崩さない。
 我が国の至宝シャトルリア第二王子を絶対に離さぬと喚いている。

「しかし、シャトルリア様との婚約破棄を行ったのは貴方自身。それなにのまた欲しいとは承服しかねますな」
「分かっている。だがそれを押してでもシャトルリアは帰さない!」

 こんなに子供のように頑固なお方であったか?私は低く唸るしかない。病気のせい、薬のせいで本意ではない婚約破棄だったという事実は伝わっている。しかし、シャトルリア様の心情を考えれば絶対に頷けない。

「お断り致します」
「嫌だ!」

 押し問答のような形で常に終わる日々が続いている。北帝国の強過ぎる要望で嫌々やってきた我々だが、シャトルリア様の献身と介護で王太子ホルランド様は持ち直したといっても過言ではないだろう。
 だから我々の仕事はここで終わりで良いはずだと帰途に着こうとするとなのだ。

「頭の病気をすると性格が変わる事があるみたい」

 シャトルリア様は悲しそうにそう仰っていた。つまり、は王太子の生来の性格ではなかったとしても、通されることではないだろう。

「我々は国へ帰ります。それは最初にこちらへ赴いた時からの約束。違えて貰っては困ります」
「嫌だ!!」

 ホルランド殿下は叫ぶ。シャトルリア様の目がある時は、とても良い王太子なのに、いなくなるととんだ駄々っ子になってしまう。
 先日もシャトルリア様をぎゅうぎゅうと抱き締めていたので一声かけようと近づいたらもの凄い恐ろしい目で睨まれて青くなってしまった。

 もはやこの方のシャトルリア様への執着は狂気に近い。

「ホルランド、そちはこの北帝国エネルの王太子なのだ。あまり身勝手は許されぬ」

 皇帝陛下の言葉にさえ、ホルランド様は頷かない。

「では王太子を辞めます。どこか適度な爵位をください。シャトに求婚出来るくらいのところが良いです。シャトが帰る時についていきます。父上、今までありがとうございました。お元気で」
「殿下?!」

 物凄く晴れやかな笑顔で宣言されるからその場にいたホルランド様以外の人間の言葉がわかるものはドン引きした。何言ってんだこの人?!

「シャ、シャトルリア様に、い、言いつけますよ?」

 城の侍従だろうか?一人が口を開くと、そいつを射殺さんばかりの目で睨みつける。

「お前がシャトに会う前に首を飛ばせば何の問題もないな?ああ、何だか知らんがシャトは死人から情報を引き出せるようだから、魔法で丸焦げにするとしよう」
「ひっ?!」

 不味い、あれは完全に殺る目だ。

「……宰相殿よ、帰国は後しばらくだけ伸ばしてくれ」
「わ、わかり……ました」

 これがここ暫く続いているのだ。素晴らしき王太子はどこに家出中なのだ!早く帰って来い!
 私だって国元に大量の仕事を置いてきているんだぞ!!

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