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26 あの方の献愛 城の侍従視点
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その方はとても美しい方だった。我が帝国の皇帝陛下が親睦の際に出かけた隣国ルーセンで見かけた側妃様。金色の髪に菫の瞳を少し俯かせた大人しい方に陛下は心を奪われてしまった。
帝国の皇帝であり、王太子殿下もお生まれになったというのに、陛下は他国の側妃に恋焦がれてしまった。何度お諫めしてもその心を止めることができなく、結局陛下はその国を支配下に置くという選択を取ってしまう。だがそれは間違いで、その美しい側妃様の心は完全に離れてしまった。
「北帝国の皇帝の元に人質として出向け……? 後生でございます!お許しください!」
そう打診しただけでその側妃様は妊娠中であるにも関わらず自らの命を断とうとなさった。そして陛下は側妃様に手を出せなくなってしまう……そして陛下の歪んだ欲望はおかしな形で実行されることになったのです。
「は、隣国ルーセン側妃チェチェーリア様のお子を王太子ホルランド様の婚約者に!?」
「お待ちください陛下、チェチェーリア様のお子はまだ性別が分かりませぬ。もし、男児であった場合はどうなさるおつもりか!」
「黙れ、私の決定に口を出すのか! ルーセン国より我が息子ホルランドの婚約者として王家の血を引く者を連れて来させよ。従わぬ場合はルーセンという国の名は消え失せることとなろう!」
国力で圧倒的な差があるルーセン国は北帝国皇帝の命令に逆らえるはずもありません。チェチェーリア様は恐怖に怯えながらも出産し、産まれた子供は残念ながら男児でありました、らそれでも皇帝陛下の命令は実行され、そうして我が国の王太子ホルランド様と隣国第二王子シャトルリア様の婚約は結ばれたのです。6歳というまだ母親が恋しい時期にも関わらず陛下のご意向でシャトルリア様は帝国へやってこられました。6歳にしては非常に聡い子供だと聞いていた通り、大人しく騒ぎ立てもせずおられる子供でしたが、我々は「ああ」とため息をつくしかなかったのです。
金色の髪を長く伸ばし、菫色の瞳はお母様より少し青みがかっているでしょうか?絶世の美女と名高いチェチェーリア様にそっくりなお顔立ち……なるほど、チェチェーリア様が手に入らなかったので代わりに手元に置きたいと願う意味がわかるような美しい少年でした。
その可愛らしいお姿に城の使用人達は一目見ただけで心を奪われたのです。そして心を奪われたのは使用人だけではありませんでした。
「……可愛い……すごく、可愛い……あの子が私の婚約者……嬉しい!」
「ホルランド殿下??」
殿下は最初この婚約を嫌がっておいででした。それはそうでしょう、自分の婚約者が男子では子を成せません。父である陛下に何度も抗議を申しあげたそうですが、すべて突っぱねられました。しかし、少しづつ大きくなるシャトルリア様の姿絵が届くたびに殿下の心情は変わって行ったようです。
「……可愛いね、この赤ちゃん」
「そうでございますね、殿下」
「……この子に何かオモチャでも贈った方が良い?」
「そうでございますね、何か見繕ってプレゼントすれば喜んで頂けるでしょう」
「ねえ、そろそろシャトの新しい姿絵が来たでしょう? 早く見たいな」
「届いておりますよ、どうぞ」
「可愛い! 毎年可愛いけど、どんどん可愛くなってるね、早く本物のシャトに会いたいなぁ」
多分ですが、皇帝陛下の意向でシャトルリア様は髪の毛を伸ばしていらっしゃる。そして年を追うごとに周りのご令嬢より可愛らしくなってゆくシャトルリア様を殿下は気になって仕方がなくなったようなのでございます。そしてシャトルリア様がご到着した時、一番に駆けだして行ったのでございました。王太子として厳しく躾けられた殿下とは思えぬ行動に使用人一同驚いたものです。
「シャト!」
「ホラン様」
殿下とシャトルリア様はすぐに打ち解け、どこへでも手を繋いで歩かれる始末。シャトルリア様が皇帝陛下にご挨拶に出向かれた際もしっかりと手を離さずにいて父親である皇帝陛下を睨みつけたのは有名な話でござます。
「……血筋は争えぬということか」
陛下は大きなため息をつかれ、チェチェーリア様のことはそこですっぱり諦めたようでした。そこからホルランド様の溺愛は始まります。何をするにもシャトルリア様と一緒。
「シャトにかっこいい所を見せたい!」
元々マナーにも明るい方でしたがさらに磨きがかかりました。
「剣術もダンスもシャトに素敵って言ってもらうんだ!」
練習にも熱が入ります。
「シャトがくれたんだ、私の一番の宝物だよ」
刺繍ができないシャトルリア様はハンカチに絵を描いて殿下にプレゼントしたらしく、二人の子供が手を繋いでいる様子が描かれたハンカチを大切にしておられました。シャトルリア様も殿下に良く懐かれてまるで鳥のヒナのように後ろをついて回られています。
「ホラン様、ホラン様!料理長がクッキーをくださいました!」
「じゃあ皆に内緒で向こうの木陰で食べよう」
「はい!」
とてもお似合いのお二人はとてもお似合いのまま成長し、素晴らしい伴侶になると誰もが思っておりました。銀色の髪と金色の髪が二つ並んで楽しそうに揺れている様子は城の人間全てが暖かく見守っておりました。跡継ぎの件も陛下の弟君の子供のうちから優秀な者をつければ問題ないということになっておるそうです。
始めは大反対していた王妃様もシャトルリア様の勤勉で素直な性格と、あの可愛らしい微笑みの前にいつしか白旗をあげ、二人の婚約をお認めになっておられました。
それがおかしくなったのが殿下が学園を卒業し18歳になった頃でした。
帝国の皇帝であり、王太子殿下もお生まれになったというのに、陛下は他国の側妃に恋焦がれてしまった。何度お諫めしてもその心を止めることができなく、結局陛下はその国を支配下に置くという選択を取ってしまう。だがそれは間違いで、その美しい側妃様の心は完全に離れてしまった。
「北帝国の皇帝の元に人質として出向け……? 後生でございます!お許しください!」
そう打診しただけでその側妃様は妊娠中であるにも関わらず自らの命を断とうとなさった。そして陛下は側妃様に手を出せなくなってしまう……そして陛下の歪んだ欲望はおかしな形で実行されることになったのです。
「は、隣国ルーセン側妃チェチェーリア様のお子を王太子ホルランド様の婚約者に!?」
「お待ちください陛下、チェチェーリア様のお子はまだ性別が分かりませぬ。もし、男児であった場合はどうなさるおつもりか!」
「黙れ、私の決定に口を出すのか! ルーセン国より我が息子ホルランドの婚約者として王家の血を引く者を連れて来させよ。従わぬ場合はルーセンという国の名は消え失せることとなろう!」
国力で圧倒的な差があるルーセン国は北帝国皇帝の命令に逆らえるはずもありません。チェチェーリア様は恐怖に怯えながらも出産し、産まれた子供は残念ながら男児でありました、らそれでも皇帝陛下の命令は実行され、そうして我が国の王太子ホルランド様と隣国第二王子シャトルリア様の婚約は結ばれたのです。6歳というまだ母親が恋しい時期にも関わらず陛下のご意向でシャトルリア様は帝国へやってこられました。6歳にしては非常に聡い子供だと聞いていた通り、大人しく騒ぎ立てもせずおられる子供でしたが、我々は「ああ」とため息をつくしかなかったのです。
金色の髪を長く伸ばし、菫色の瞳はお母様より少し青みがかっているでしょうか?絶世の美女と名高いチェチェーリア様にそっくりなお顔立ち……なるほど、チェチェーリア様が手に入らなかったので代わりに手元に置きたいと願う意味がわかるような美しい少年でした。
その可愛らしいお姿に城の使用人達は一目見ただけで心を奪われたのです。そして心を奪われたのは使用人だけではありませんでした。
「……可愛い……すごく、可愛い……あの子が私の婚約者……嬉しい!」
「ホルランド殿下??」
殿下は最初この婚約を嫌がっておいででした。それはそうでしょう、自分の婚約者が男子では子を成せません。父である陛下に何度も抗議を申しあげたそうですが、すべて突っぱねられました。しかし、少しづつ大きくなるシャトルリア様の姿絵が届くたびに殿下の心情は変わって行ったようです。
「……可愛いね、この赤ちゃん」
「そうでございますね、殿下」
「……この子に何かオモチャでも贈った方が良い?」
「そうでございますね、何か見繕ってプレゼントすれば喜んで頂けるでしょう」
「ねえ、そろそろシャトの新しい姿絵が来たでしょう? 早く見たいな」
「届いておりますよ、どうぞ」
「可愛い! 毎年可愛いけど、どんどん可愛くなってるね、早く本物のシャトに会いたいなぁ」
多分ですが、皇帝陛下の意向でシャトルリア様は髪の毛を伸ばしていらっしゃる。そして年を追うごとに周りのご令嬢より可愛らしくなってゆくシャトルリア様を殿下は気になって仕方がなくなったようなのでございます。そしてシャトルリア様がご到着した時、一番に駆けだして行ったのでございました。王太子として厳しく躾けられた殿下とは思えぬ行動に使用人一同驚いたものです。
「シャト!」
「ホラン様」
殿下とシャトルリア様はすぐに打ち解け、どこへでも手を繋いで歩かれる始末。シャトルリア様が皇帝陛下にご挨拶に出向かれた際もしっかりと手を離さずにいて父親である皇帝陛下を睨みつけたのは有名な話でござます。
「……血筋は争えぬということか」
陛下は大きなため息をつかれ、チェチェーリア様のことはそこですっぱり諦めたようでした。そこからホルランド様の溺愛は始まります。何をするにもシャトルリア様と一緒。
「シャトにかっこいい所を見せたい!」
元々マナーにも明るい方でしたがさらに磨きがかかりました。
「剣術もダンスもシャトに素敵って言ってもらうんだ!」
練習にも熱が入ります。
「シャトがくれたんだ、私の一番の宝物だよ」
刺繍ができないシャトルリア様はハンカチに絵を描いて殿下にプレゼントしたらしく、二人の子供が手を繋いでいる様子が描かれたハンカチを大切にしておられました。シャトルリア様も殿下に良く懐かれてまるで鳥のヒナのように後ろをついて回られています。
「ホラン様、ホラン様!料理長がクッキーをくださいました!」
「じゃあ皆に内緒で向こうの木陰で食べよう」
「はい!」
とてもお似合いのお二人はとてもお似合いのまま成長し、素晴らしい伴侶になると誰もが思っておりました。銀色の髪と金色の髪が二つ並んで楽しそうに揺れている様子は城の人間全てが暖かく見守っておりました。跡継ぎの件も陛下の弟君の子供のうちから優秀な者をつければ問題ないということになっておるそうです。
始めは大反対していた王妃様もシャトルリア様の勤勉で素直な性格と、あの可愛らしい微笑みの前にいつしか白旗をあげ、二人の婚約をお認めになっておられました。
それがおかしくなったのが殿下が学園を卒業し18歳になった頃でした。
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