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21 甥っ子かわゆす
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「長年のお勤めご苦労様です、俺」
「あのまま帝国妃になるかと思っておりましたけど、お帰りなさいませ。本当にご苦労様でした」
「おーただいま」
国に帰ったけれど、俺はちっちゃな離宮に引きこもった。宰相さんには軽口を叩いてみたものの、人と会いたくなかった……やっぱショックだったみたいだ。向こうにいって10年以上、こっちの家族より帝国のホルランド様のほうが身近な家族に感じられるくらいの年月。考えれば考えるほど悲しくなりそうなので記憶と思いに蓋をする。もうどうしようもないことだし、それが一番良かったことのはずだから、この蓋はきっと……20年後か30年後くらいにそっと開ければいい思い出になっているだろう。それまでしっかり封印し続けようと思ったし、それが一番良いことだって思ったんだ。
「これからは人の魔力だまりを引っ張って伸ばして元気にする仕事しよ」
「最高ですね、流石です」
国の人は皆、気を使って出戻り男の俺を静かにしておいてくれた。お母様のチェチェーリア様も優しい笑顔で迎えてくれた。それが一番嬉しいよ。
「みてくれ、宰相さん俺さ、外側からこうやって」
俺の指の先からぴょろんっと糸くずが出ている。
「糸くず出してね、これを人の中にそーっと入れることができるようになったんだよ」
「気持ち悪い能力ですね、流石です」
「ぐえっ、気持ち悪いとかいうなよぉ。でもさ、これで外側から魔力袋の出口をモミモミして魔力を流せるようになったんだ」
「流石、シャトルリア第二王子様! 素晴らしいです」
「落としてから持ち上げる戦法か」
俺は巨大な痛みからほんのちょっとづつ立ち直って行った。ホルランド様のいい奴だったなあ。是非新しい婚約者に可愛い子供を産んで貰うんだよ……俺もお嫁さんとか探そうかな……でも暫くはいいや。俺は18歳になって結婚できるようになったけど、ちょっと暫くは無理だなって皆にご配慮願った。それに慰謝料がものすごーくいっぱいあって、その半分を俺の個人資産にしてくれたから遊んで一生暮らせるようになった。スローライフとかいいかもしれない。田舎でキャベツとか作って暮らそうかな? 戻って来た頃は思い出の蓋が開いちゃって帝国での生活やホルランド様のことを思い出して布団の中で丸くなって過ごしていたこともあったけど、それもだんだん減って行った。
俺はニキビ面で体調が悪い騎士や魔導士なんかを優先に見ながら、色んな人に媚びを売って行った。あれよ、北帝国でやっていた癖が抜けなかったんだよね。何とか味方になってくれーっていろんな人の怪我をみたり、お金を寄付したりさ。だってそうしないと帝国じゃ生き残れなそうだったからね。まあ、生きてたけど残れなかったんだけど。結果は残せなかったけど、過程は割と悪い物じゃなかったはず。
俺、媚び売りの天才。マッチ売るより媚を売る、イエーイ。まあそんなんで俺は嫌われない生活をしてる、と思う。
「おじたん、おじたん!」
「イールン遊びに来たのかい?」
「うんーおじたんあそぼー!」
「いいぞー」
そして俺の心を癒してくれるのはこの子の存在だった。イールンは兄上の子供でちょっと、いやかなり言葉が遅かった。俺と宰相が心配してイールンを見たら……やっぱりちょっと異常があった。俺はその時初めてこのシャルトリアの体から抜けるということをやってみたけど、やったら出来た。結局俺の本体は糸くずみたいなもんで、ちょっとだけ長くなってた。
そしてイールンにするっとはいって……体に異常はなかったものの頭のほうに行ってみるとなんだか赤くなったり青くなったり紫? み、緑!? よくわからないんだけれど、変色している部分があったり、硬くなって血流が悪い部分があったりで驚いた。原因になっていそうな部分を撫でてみたり、ヒールをかけたりして刺激してみる。何度か繰り返すうちにカチコチだった部分に血が通うようになってふわふわと柔らかくなる。変色もどんどん収まっていって綺麗な色のぷるぷるの脳みそになった……気がする!
「しゃとおじたん!」
「イールン……!」
イールンが最初に喋った言葉がコレだったけど、兄上も義姉上も涙を流して喜んでくれた。二人もずっと不安だったんだろうし、たくさんの人から言われていたかもしれない。イールンでは王太子になれない、何かしら問題のある子供は排除すべきだって。
俺はイールンの昼寝中に何度も何度も入って、隅々まで調べたりおかしい所があったら直したり頑張った。先天的にイールンには欠陥があった……でも今ではイールンは年相応の元気な男の子で一人で何でもできるぞ。もちろんおしゃべりも自由自在だ。俺、すんごいがんばった!
「シャトルリア様が本気で他の人に取りつくと、シャトルリア様の体から力が全部抜けます。そして呼吸も脈拍も本当のギリギリまで落ち込んでまるで死んでしまったかのように体も冷たくなるんです……あまり長い間、抜け出ない方が宜しいでしょうね」
「まじかー怖えな」
「はい、最初は死んでしまったかと思ってきもが冷えました」
もし、糸くず本体が飛び出ることでシャトルリアが死んだとしてもきっと俺はイールンを治してやったと思う。だって兄上の子供だよ? そんなの大事に決まってるじゃん。傷物出戻り第二王子よりさ。もし、そうなって死んでしまっても本物のシャトルリアの魂だって許してくれたと思う。
「あのまま帝国妃になるかと思っておりましたけど、お帰りなさいませ。本当にご苦労様でした」
「おーただいま」
国に帰ったけれど、俺はちっちゃな離宮に引きこもった。宰相さんには軽口を叩いてみたものの、人と会いたくなかった……やっぱショックだったみたいだ。向こうにいって10年以上、こっちの家族より帝国のホルランド様のほうが身近な家族に感じられるくらいの年月。考えれば考えるほど悲しくなりそうなので記憶と思いに蓋をする。もうどうしようもないことだし、それが一番良かったことのはずだから、この蓋はきっと……20年後か30年後くらいにそっと開ければいい思い出になっているだろう。それまでしっかり封印し続けようと思ったし、それが一番良いことだって思ったんだ。
「これからは人の魔力だまりを引っ張って伸ばして元気にする仕事しよ」
「最高ですね、流石です」
国の人は皆、気を使って出戻り男の俺を静かにしておいてくれた。お母様のチェチェーリア様も優しい笑顔で迎えてくれた。それが一番嬉しいよ。
「みてくれ、宰相さん俺さ、外側からこうやって」
俺の指の先からぴょろんっと糸くずが出ている。
「糸くず出してね、これを人の中にそーっと入れることができるようになったんだよ」
「気持ち悪い能力ですね、流石です」
「ぐえっ、気持ち悪いとかいうなよぉ。でもさ、これで外側から魔力袋の出口をモミモミして魔力を流せるようになったんだ」
「流石、シャトルリア第二王子様! 素晴らしいです」
「落としてから持ち上げる戦法か」
俺は巨大な痛みからほんのちょっとづつ立ち直って行った。ホルランド様のいい奴だったなあ。是非新しい婚約者に可愛い子供を産んで貰うんだよ……俺もお嫁さんとか探そうかな……でも暫くはいいや。俺は18歳になって結婚できるようになったけど、ちょっと暫くは無理だなって皆にご配慮願った。それに慰謝料がものすごーくいっぱいあって、その半分を俺の個人資産にしてくれたから遊んで一生暮らせるようになった。スローライフとかいいかもしれない。田舎でキャベツとか作って暮らそうかな? 戻って来た頃は思い出の蓋が開いちゃって帝国での生活やホルランド様のことを思い出して布団の中で丸くなって過ごしていたこともあったけど、それもだんだん減って行った。
俺はニキビ面で体調が悪い騎士や魔導士なんかを優先に見ながら、色んな人に媚びを売って行った。あれよ、北帝国でやっていた癖が抜けなかったんだよね。何とか味方になってくれーっていろんな人の怪我をみたり、お金を寄付したりさ。だってそうしないと帝国じゃ生き残れなそうだったからね。まあ、生きてたけど残れなかったんだけど。結果は残せなかったけど、過程は割と悪い物じゃなかったはず。
俺、媚び売りの天才。マッチ売るより媚を売る、イエーイ。まあそんなんで俺は嫌われない生活をしてる、と思う。
「おじたん、おじたん!」
「イールン遊びに来たのかい?」
「うんーおじたんあそぼー!」
「いいぞー」
そして俺の心を癒してくれるのはこの子の存在だった。イールンは兄上の子供でちょっと、いやかなり言葉が遅かった。俺と宰相が心配してイールンを見たら……やっぱりちょっと異常があった。俺はその時初めてこのシャルトリアの体から抜けるということをやってみたけど、やったら出来た。結局俺の本体は糸くずみたいなもんで、ちょっとだけ長くなってた。
そしてイールンにするっとはいって……体に異常はなかったものの頭のほうに行ってみるとなんだか赤くなったり青くなったり紫? み、緑!? よくわからないんだけれど、変色している部分があったり、硬くなって血流が悪い部分があったりで驚いた。原因になっていそうな部分を撫でてみたり、ヒールをかけたりして刺激してみる。何度か繰り返すうちにカチコチだった部分に血が通うようになってふわふわと柔らかくなる。変色もどんどん収まっていって綺麗な色のぷるぷるの脳みそになった……気がする!
「しゃとおじたん!」
「イールン……!」
イールンが最初に喋った言葉がコレだったけど、兄上も義姉上も涙を流して喜んでくれた。二人もずっと不安だったんだろうし、たくさんの人から言われていたかもしれない。イールンでは王太子になれない、何かしら問題のある子供は排除すべきだって。
俺はイールンの昼寝中に何度も何度も入って、隅々まで調べたりおかしい所があったら直したり頑張った。先天的にイールンには欠陥があった……でも今ではイールンは年相応の元気な男の子で一人で何でもできるぞ。もちろんおしゃべりも自由自在だ。俺、すんごいがんばった!
「シャトルリア様が本気で他の人に取りつくと、シャトルリア様の体から力が全部抜けます。そして呼吸も脈拍も本当のギリギリまで落ち込んでまるで死んでしまったかのように体も冷たくなるんです……あまり長い間、抜け出ない方が宜しいでしょうね」
「まじかー怖えな」
「はい、最初は死んでしまったかと思ってきもが冷えました」
もし、糸くず本体が飛び出ることでシャトルリアが死んだとしてもきっと俺はイールンを治してやったと思う。だって兄上の子供だよ? そんなの大事に決まってるじゃん。傷物出戻り第二王子よりさ。もし、そうなって死んでしまっても本物のシャトルリアの魂だって許してくれたと思う。
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