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4 マチェット 魔法 でない

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 マチェット君は今日も井の中の蛙で暴れ回り、使用人に煙たがられている。でもそれしかやることがなさそうで暇そう。ぶっちゃけ、使用人からも煙たがられてるし、父親も愛人に夢中だし、母親も愛人に。今年、学園を卒業して帰ってきてもやることも無し。まあ可哀想な境遇ではあるけどね。

 ねえマチェット君、暇だし本でも読めば?

「……たまには読書でもするか」

 阿呆に磨きがかかったら困るもんね。マチェット君の中の俺の呟きはマチェット君にやんわり伝わるんだ。まさか頭の中に糸クズがお邪魔してるなんて気がつきもしないだろうねぇ。

「……」

 マチェット君は小さな書架から本を取り出して開いてみたけれど、お、ちんぷんかんぷん。何にもわかんない。やべえ、マチェット勉強してねえな!? やーいやーい阿呆阿呆ぉ。マチェット君から諦めの感情が伝わってくる。そっか自分でもやべーと思ってるけど分かんないもんはわかんないんだね。
 分かるよ、数学とかイミフだもんね。俺も嫌だった……って待て、マチェット、その隣の隣の本! 初級魔法の使い方って書いてあるじゃん!? この世界魔法あるの!? それ見よう、ぜひ見よう!!

「……」

 マチェット君からもっと深い絶望感が伝わって来たけれど知ったこっちゃねえ! 魔法よ、なんか異世界っぽくなってきたああああああ! 俺も魔法使いになれるかもじゃない?! この世界に来て一番ワクワクした瞬間だった。

 マチェット君は本に手を伸ばして、いったんひっこめた。いや、手に取れ! マチェ公! 俺の強い熱意に負けたのか手に取ってページを嫌々開く。

 祝 ! よ め ま し た !!

 めちゃくちゃ簡単な言葉で書いてある。レベルでいえば小学生レベルだ。コレェ!俺も魔法使えるようになるんじゃねえ!?ドキドキワクワクしてページを読み進め全部読み終わった頃には夜だった。おおおお、魔法すげえ、魔法楽しい!! とりあえず腹が減ったので夕ご飯をマチェット君に食べて貰って目が疲れたから寝よう。明日試そうぜ!
 俺がワクテカしすぎてたせいかマチェット君は早く寝付けなかった、ごめんね。

 次の日、俺のせいで早起きしたマチェット君は朝露が光るちょっと寒い早朝、庭に出て魔法の本を片手に手を前に出していた。

「ファイア!!」

 しーん。あれ? 魔法の構築とかそういうのはあってるのにマチェット魔法出ない。そして大きくため息をついた。

「ファイア!ファイア!ファイア!」

 マチェット、魔法、出ない。マチェットの絶望感がぶわああああっと広がって世界が闇に包まれる。やべぇ闇落ちだ、あわあわあわ、ファイアつけろ!電気でもいい!ないですね、ハイ。やだ真っ暗怖い!

「どうせ駄目だって分かってるのに……俺は、なんでこんなことを」

 マチェット魔法出ない子だったか……なんでだろう?俺は不思議に思う。そういえば魔法と言えば魔力。マチェット魔力なくない?なんか魔力的な物が体を回ってない気がする。でも……?

 マチェット、下半身に魔力あるよな……?何でだろう。やばい魔力か?俺はマチェットの脳みそから移動して行く。マチェットのコレステロールがいっぱいついた血管の中は動きにくいけど、なんとかへその辺りまで辿り着いた。あのコレステロール全部食ってやろ。動きにくいわ。

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