65 / 80
IF編 闇へ
0 最初に
しおりを挟む「言っておくけど、私は将校57人から推薦されて、将校になったからね」
「「なっ!57人!!」」
まぁ、驚くことも仕方がない。普通はそのようなことは無いらしいから。
「おい、何をした!俺たちですら、2ヶ月かかってやっと騎士になったんだぞ!」
「ゼクトデュナミス。ここで騒ぐのはよくない」
そうだね。ザインの言うとおりだ。ザインは何かと突っ走るゼクトの諌め役だ。恐らく神父様がゼクトを一人にしておくと問題を起こそうとするので、ザインをつけたのだろう。
「だが、あの弱いアンジュだぞ!訓練もサボって最低限しか参加しなかったアンジュだぞ」
あ、それはバイトしていたから朝の聖水の作成作業と教会の清掃以外の訓練の免除を神父様から許可をもぎ取っていたし、どうしても出ろと言われた時の戦闘訓練は面倒だから手を抜いていたからね。
「リュミエール神父に色目使っていたアンジュだぞ」
「恐ろしいこと言わないでもらえる?」
なぜ、私が神父様に色目を使わなければならないのか。当たり障りなく接することに苦心しても、決して媚を売った覚えはない!
「だったらなんで、リュミエール神父の部屋によく出入りしていたんだ!」
「それはお説教と反省文という名の経済学の論文を書かされていたから」
「リュミエール神父とよく出掛けていたよな!」
「ボードゲームで神父様に勝てばケーキを奢ってくれるという報奨物のため」
ん?今思えば、何かと神父様に課題を出されていたな。
ゼクトは私が将校になることが気にいらないらしい。いつもながら、よくわからないことで、突っかかってくる。私が決めたことじゃないのに、ここで騒がないでほしい。
「ねぇ。これ以上騒ぐと、神父様に説教してもらうよ。ここに神父様が来ているからね」
すると、ゼクトはピタリと文句を言うのを止め、ザインのところまで戻っていき私に背を向けた。
やはり、神父様が怖いのは皆同じらしい。だけど、私を後ろ目で睨んでくることに変わりはなかった。
その時、この聖堂の鐘が鳴り響いた。音楽でもかなでるように音階が違う鐘が鳴り響く。聖典に書かれている聖女の祈りの一節の音階だ。儀式が始まるのだろう。
「ザインメディル・フラヴァール!」
ザインの名が一番初めに呼ばれた。
一人一人名を呼ばれ、聖女の石像に誓いの言葉を言うだけの儀式だ。
普通の騎士団なら王から剣を承り、剣を捧げる儀式もするそうだが、いない人物が騎士に向けて剣を掲げるわけにはいかないので、言葉だけを捧げるだけだ。
「ゼクトデュナミス・エヴォリュシオン!」
5分ぐらいの間隔を開けてゼクトの名が呼ばれた。
何度かゼクトの名を聞いたことがあるけど、いつもながら全く聞き取れない。私の病気は成長しても治ることはなかった。
「アンジュ!」
なんだか家名がないと味気ないな。そう思いながら、金の装飾がされた扉の前に行き、祭壇側から開けられた扉をくぐって、進んでいく。そこは、人、人、人に埋め尽くされた空間だった。その視線が一斉に突き刺さる。そして、ざわざわとざわめきが沸き起こる。
聖女至上主義の狂信者共め。黙っていろ。全身を嘗めるような気持ち悪い視線を向けてくるな。
私は祭壇の中央上部に設置してある。手を組んで天を見上げている女性の像の前に立つ。どこの聖女像も同じ姿をしている。決して剣を捧げる騎士を見ることはない。
その前に跪く。そして、飾りである腰の剣を抜き、目の前に掲げ、左手を剣身に添える。息を吸い、決まりきった文言を言う。
「我が剣は魔を払い。我が盾は闇を払い。我が身は天使の聖痕を化現されし、聖なる者を命をかけて守らん」
心にもないことを誓わされるつまらない儀式だ。そして、私の名を呼んだ同じ声で階級の授与の言葉が示される。
「この者に将校の階級を与える」
この言葉に合わせて拍手がされ、私は立ち上がり、踵を返して狂信者共がいる方に向けて一礼する。
これで終わり。顔を上げると私の正面上段から見下ろす白い王と視線が合った。ああ、彼の周りのモノたちは聖堂の中でも顕在なのか。
「この場を借りて皆に報告がある」
いつの間にか私の隣にはルディが立っていた。え?気配を感じなかったのだけど?
「私、シュレイン・ルディウス・レイグラーシアとアンジュは一年後に婚姻することとなった。これは国王陛下に許可をいただいた婚姻だ」
ザワザワとざわめきが大きくなる。所々から『あの虐殺の王弟が』とか『死神が』とか聞こえてくる。ルディの痛い二つ名は貴族の間でも有名なようだ。
「王家に白銀の色を入れる婚姻だ。この場では婚約をしたという報告をさせてもらう」
ん?その言い方だと悪いように捉えられないだろうか。私の疑問は拍手の海にかき消されてしまった。
私はルディに手を引かれ、祭壇前から連れ出された。待ち時間が長いわりには、誓いの儀式は直ぐに終わってしまった。まぁ、長々と説法を解かれても耳から耳へ通り抜けていくだけだから、これで良かったと思おう。
無言で長い廊下を歩いていると、私とルディの行く道を遮る者がいた。ゼクトなんたらかんたらだ。
「おい!やっぱり卑怯な方法で将校になってるじゃないか!」
何をいきなり言い出すのか。私は呆れた目をしてゼクトを見たのだった。
10
お気に入りに追加
514
あなたにおすすめの小説
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!


嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
完結「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」
まほりろ
恋愛
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる