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動物に異様に好かれる手
54 野に放たれる
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「ミシェルよ、ゼリアをジェストに連れて行ってくれ」
「何故です?」
王は一応の我が子、第二王子のゼリアの病状が思わしくない事を聞いて、ミシェルを呼び出しそう言った。
ジェスト獣人国に行けば、病が消え去る慈雨が降ると言い、人間も咳病から解放されると言う。
だから、そう言った。
ミシェルは何故王子の中でも嫌っているゼリアを祖国に連れて行かねばならないか意味が分からなかった。レオニーを虐め、シロウを怖がらせたゼリアの事が嫌いだし、ゼリア自身も獣人の事が嫌いだろう。
そんな者をジェストに連れて行ってどうしようと言うのだ。
だから、そう答えた。
「そのままではゼリアは死んでしまう」
「さようでございますね。だからといってジェストに行ったところで治るものでもありますまい」
二人とも気持ちは冷めている。王は自分の息子を見殺しにすると風評が悪いので何とかしたい……ほぼ厄介払いだろう。
ミシェルはゼリアの顔も見たくない。
「そこを」
王は言い募り、ミシェルは静かに怒りに震えた。
「私とレオニーがジェストに戻る時ならばお連れしましょう」
「そうか!ならば頼む」
「……御意」
ミシェルはほくそ笑んだ。この男は野に放った獅子がもう一度首を垂れて戻ってくると思っているのか?!
そして、ミシェルの中でレザント国王を完全に切って捨てた瞬間だった。
この王宮に連れてこられてから一番輝いた笑顔でミシェルはカーテシーをする。
「では準備を致しますので、これにて」
「ああ、頼んだ。……こほん」
王は小さな咳をする。この病は獣人と心を通わせた、つまり伴侶にも発病しなかった。
その絆が切れたら?
火を見るより明らかだった。
「え!ジェストに帰れるのですか!シロウに会える!」
「そうよ!支度を急ぐわよ!」
レオニーはここで生まれた子供なのに「ジェストへ帰る」と言った。ぴょこりと頭の上に耳がついた息子の頭をくりくりと撫でながら、抱き寄せる。
「早くシロウに会いたいなー!」
「でも、どうも王はゼリア殿下をジェストに連れて行けと言うのよ」
レオニーの顔がみるみる曇って行く。
「意味が分かりません!」
「私も分からないわ。もう呆れて愛想が尽きちゃった!捨てちゃって良いわよね?レオニー」
曇った顔をきょとんとさせてから、レオニーは今度は笑う。
「はい!私はあの人のことを父だと思ったことは一度もありませんから!それよりシロウに会えるのが嬉しくて!」
「手紙を書いておかなくちゃね。レジールに少しくらいシロウに会わせろって行っとかなきゃ!」
「お迎えもして貰えたら嬉しいですね!」
「頑張ろう!リッテ、急いで荷造りよ」
「勿論!フロー!あー嬉しいわ!要らないものは捨てていきましょ!」
「ここでもらったものは全部捨てていいんじゃない?いらないわ~!」
侍女の二人もワクワクしながら部屋を片付け始めた。
「何故です?」
王は一応の我が子、第二王子のゼリアの病状が思わしくない事を聞いて、ミシェルを呼び出しそう言った。
ジェスト獣人国に行けば、病が消え去る慈雨が降ると言い、人間も咳病から解放されると言う。
だから、そう言った。
ミシェルは何故王子の中でも嫌っているゼリアを祖国に連れて行かねばならないか意味が分からなかった。レオニーを虐め、シロウを怖がらせたゼリアの事が嫌いだし、ゼリア自身も獣人の事が嫌いだろう。
そんな者をジェストに連れて行ってどうしようと言うのだ。
だから、そう答えた。
「そのままではゼリアは死んでしまう」
「さようでございますね。だからといってジェストに行ったところで治るものでもありますまい」
二人とも気持ちは冷めている。王は自分の息子を見殺しにすると風評が悪いので何とかしたい……ほぼ厄介払いだろう。
ミシェルはゼリアの顔も見たくない。
「そこを」
王は言い募り、ミシェルは静かに怒りに震えた。
「私とレオニーがジェストに戻る時ならばお連れしましょう」
「そうか!ならば頼む」
「……御意」
ミシェルはほくそ笑んだ。この男は野に放った獅子がもう一度首を垂れて戻ってくると思っているのか?!
そして、ミシェルの中でレザント国王を完全に切って捨てた瞬間だった。
この王宮に連れてこられてから一番輝いた笑顔でミシェルはカーテシーをする。
「では準備を致しますので、これにて」
「ああ、頼んだ。……こほん」
王は小さな咳をする。この病は獣人と心を通わせた、つまり伴侶にも発病しなかった。
その絆が切れたら?
火を見るより明らかだった。
「え!ジェストに帰れるのですか!シロウに会える!」
「そうよ!支度を急ぐわよ!」
レオニーはここで生まれた子供なのに「ジェストへ帰る」と言った。ぴょこりと頭の上に耳がついた息子の頭をくりくりと撫でながら、抱き寄せる。
「早くシロウに会いたいなー!」
「でも、どうも王はゼリア殿下をジェストに連れて行けと言うのよ」
レオニーの顔がみるみる曇って行く。
「意味が分かりません!」
「私も分からないわ。もう呆れて愛想が尽きちゃった!捨てちゃって良いわよね?レオニー」
曇った顔をきょとんとさせてから、レオニーは今度は笑う。
「はい!私はあの人のことを父だと思ったことは一度もありませんから!それよりシロウに会えるのが嬉しくて!」
「手紙を書いておかなくちゃね。レジールに少しくらいシロウに会わせろって行っとかなきゃ!」
「お迎えもして貰えたら嬉しいですね!」
「頑張ろう!リッテ、急いで荷造りよ」
「勿論!フロー!あー嬉しいわ!要らないものは捨てていきましょ!」
「ここでもらったものは全部捨てていいんじゃない?いらないわ~!」
侍女の二人もワクワクしながら部屋を片付け始めた。
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