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動物に異様に好かれる手
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ゆっくりと王弟殿下のお嫁様の話は国中に広がっていった。
「あまり体の強い方ではないんだけどね?とにかくお優しいのよ」
「あの御手に撫でられると、怪我も病気も立ちどころに癒えるんですって」
「人間なのに、とても美しい方でね。獣人ならみんな分け隔てなく愛して下さる方よ」
「神の神子だと……「しっ!それは言っちゃ駄目な奴!絶対関係ないの!」」
「そうだった!」
レオセントは思い悩んでいた。シロウの扱いについてだ。
「神の奇跡です!間違いありません!」
獣人にも信仰する神がいる。人間が奉る創造の女神リリーシュアではなく、獣の女神アリルレオンだ。
金獅子で王家の祖となる者を生み出したと言われる女神で、戦いも司る。
アリルレオンが獅子なので王家の血筋には獅子が生まれるのだ。
「陛下!是非シロウ様に聖アリルレオン神殿へ足をお運び下さるよう説得ください!」
「しかし」
国王レオセントの前に額を擦り付けて願い出たのは聖アリルレオン神殿の教皇レファントだった。
「もう以前より何度も何度も神託が降っておるのです!シロウ様を神殿にお迎えせよと!女神アリルレオンよりお言葉があると!」
「しかしな」
「このままでは世界が滅びる程の危機が迫っていると!これを食い止める事が出来るのは神子であるシロウ様だと!」
「教皇!言ってはならぬ!」
「しかし!」
「シロウの神嫌い、あれは嫌いという言葉では足りぬ。シロウは神を憎んでいる。この世の何よりも」
シロウは獣人に優しい。シロウがいるだけで獣人達は嬉しい気持ちになるし、それにシロウも良く答えてくれた。
病気の村があれば嫌がるレジールを説得してわざわざ出かけ、自ら撫でて治してやる。
魔物が出て警備兵に怪我人があれば例えかすり傷だろうとも
「良く頑張ってくれました」
と、微笑みながら労り、癒す。だがそんなシロウが村の老人に
「おお!何と言う奇跡!神じゃ……神の神子様じゃ……」
と、言われた瞬間
「俺は!そんなんじゃない!」
大声で叫んで、ぐるりと背を向け二度とその村には立ち寄らなかった。神子だと、神の奇跡だと言われたが最後、二度とシロウの愛は訪れない。
土地は枯れ、獣人が苦しんでもシロウは絶対に助けなかった。老人は必死で情けに縋ったが、シロウはついに最後まで答えなかった。
「私はシロウの怒りが恐ろしい」
シロウが住み始めてからというもの、ジェスト獣人国の発展はあり得ない物だった。気候は落ち着き、作物は常に豊作。
海や川、山には恵みが溢れ魔物は殆ど寄り付かない。毎年流行る疫病はなりをひそめ、子供達ははしゃぎまわり、街は活気で溢れかえっていた。
王妃エリーゼは子供を妊娠し、どうも三つ子であるようで大きなお腹でにこにこと笑っている。
「全員元気に生まれておいで。みんな良い子に違いないね」
乞われ、エリーゼの大きなお腹をシロウが撫でると、嬉しいのかぽこぽこと蹴り返して来るらしい。
「あらあら、レオセント様にはご挨拶しないのに、シロウにはするのね!」
そんなシロウに言える訳がない。
「そんな事を口にしようものなら、レジールが黙っておらんぞ。私とてアレを止める事は出来ない」
以前から国一番の戦士であったレジールだが、シロウを守ると決めてから強さの桁が変わった。
もはや獣人の域を出ている。迷い込んだ魔獣を一刀の元に切り捨てたり、暴走した巨牛を片手で止めるなど有り得ない力を持った。
「俺はシロウの為なら神をも殺す」
レジールならその言葉を実行できるかもしれない、レオセントはそう思っている。
「無理だ。諦めろ、教皇。お前の命を賭してもシロウを神の家に招く事は難しい」
「しかし!」
「話は終わりだ」
兵士達に引きづられるように教皇はレオセントの前から消える。
「シロウただ一人によってもたらされる繁栄……」
素直に受け取って良い物だろうか、そしてこれはいつまで続く?シロウは人の子だ。老いるし病気にもなる。シロウはシロウ自身を癒せないのだから。
「どうしたら良いものか」
答えは誰も出してはくれなかった。
「あまり体の強い方ではないんだけどね?とにかくお優しいのよ」
「あの御手に撫でられると、怪我も病気も立ちどころに癒えるんですって」
「人間なのに、とても美しい方でね。獣人ならみんな分け隔てなく愛して下さる方よ」
「神の神子だと……「しっ!それは言っちゃ駄目な奴!絶対関係ないの!」」
「そうだった!」
レオセントは思い悩んでいた。シロウの扱いについてだ。
「神の奇跡です!間違いありません!」
獣人にも信仰する神がいる。人間が奉る創造の女神リリーシュアではなく、獣の女神アリルレオンだ。
金獅子で王家の祖となる者を生み出したと言われる女神で、戦いも司る。
アリルレオンが獅子なので王家の血筋には獅子が生まれるのだ。
「陛下!是非シロウ様に聖アリルレオン神殿へ足をお運び下さるよう説得ください!」
「しかし」
国王レオセントの前に額を擦り付けて願い出たのは聖アリルレオン神殿の教皇レファントだった。
「もう以前より何度も何度も神託が降っておるのです!シロウ様を神殿にお迎えせよと!女神アリルレオンよりお言葉があると!」
「しかしな」
「このままでは世界が滅びる程の危機が迫っていると!これを食い止める事が出来るのは神子であるシロウ様だと!」
「教皇!言ってはならぬ!」
「しかし!」
「シロウの神嫌い、あれは嫌いという言葉では足りぬ。シロウは神を憎んでいる。この世の何よりも」
シロウは獣人に優しい。シロウがいるだけで獣人達は嬉しい気持ちになるし、それにシロウも良く答えてくれた。
病気の村があれば嫌がるレジールを説得してわざわざ出かけ、自ら撫でて治してやる。
魔物が出て警備兵に怪我人があれば例えかすり傷だろうとも
「良く頑張ってくれました」
と、微笑みながら労り、癒す。だがそんなシロウが村の老人に
「おお!何と言う奇跡!神じゃ……神の神子様じゃ……」
と、言われた瞬間
「俺は!そんなんじゃない!」
大声で叫んで、ぐるりと背を向け二度とその村には立ち寄らなかった。神子だと、神の奇跡だと言われたが最後、二度とシロウの愛は訪れない。
土地は枯れ、獣人が苦しんでもシロウは絶対に助けなかった。老人は必死で情けに縋ったが、シロウはついに最後まで答えなかった。
「私はシロウの怒りが恐ろしい」
シロウが住み始めてからというもの、ジェスト獣人国の発展はあり得ない物だった。気候は落ち着き、作物は常に豊作。
海や川、山には恵みが溢れ魔物は殆ど寄り付かない。毎年流行る疫病はなりをひそめ、子供達ははしゃぎまわり、街は活気で溢れかえっていた。
王妃エリーゼは子供を妊娠し、どうも三つ子であるようで大きなお腹でにこにこと笑っている。
「全員元気に生まれておいで。みんな良い子に違いないね」
乞われ、エリーゼの大きなお腹をシロウが撫でると、嬉しいのかぽこぽこと蹴り返して来るらしい。
「あらあら、レオセント様にはご挨拶しないのに、シロウにはするのね!」
そんなシロウに言える訳がない。
「そんな事を口にしようものなら、レジールが黙っておらんぞ。私とてアレを止める事は出来ない」
以前から国一番の戦士であったレジールだが、シロウを守ると決めてから強さの桁が変わった。
もはや獣人の域を出ている。迷い込んだ魔獣を一刀の元に切り捨てたり、暴走した巨牛を片手で止めるなど有り得ない力を持った。
「俺はシロウの為なら神をも殺す」
レジールならその言葉を実行できるかもしれない、レオセントはそう思っている。
「無理だ。諦めろ、教皇。お前の命を賭してもシロウを神の家に招く事は難しい」
「しかし!」
「話は終わりだ」
兵士達に引きづられるように教皇はレオセントの前から消える。
「シロウただ一人によってもたらされる繁栄……」
素直に受け取って良い物だろうか、そしてこれはいつまで続く?シロウは人の子だ。老いるし病気にもなる。シロウはシロウ自身を癒せないのだから。
「どうしたら良いものか」
答えは誰も出してはくれなかった。
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