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動物に異様に好かれる手
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「ふわ……」
本当に人間が一人も居なかった。どこを見ても獣人、獣人、獣人!耳、耳、耳!尻尾!尻尾!尻尾!シロウは目をパチパチさせて、沢山の使用人達を見る。
「こら、シロウ。他の奴ら見てんじゃねー風呂に入ってから兄上に報告に行くぞ」
「は、はい」
レジールに抱っこされたままのシロウに選択の権利は一つも無かったが、いつの間にか靴もなかったので仕方もなかった。
「お帰りなさいませ、王弟殿下」
お迎えの人達に
「おう」
と、軽く挨拶だけして、レジールは早足に屋敷の中に入ってしまった。
「い、良いんですか?」
「エロい顔してるシロウを見られるのは嫌だ」
「えろ……?!」
降りる直前まで、馬車の中でナニゴトかしていた。シロウは赤くなって顔を覆う。指示もなく戸惑った人達は後ろからついて来たラビアや、チュタに助けを求めた。
すでに遠くなりつつあるし、獣人でもないシロウには、聞こえない話であったが。
「ラビア様、あの……」
「あー許してやって?宝物を誰にも見せたくないんだよー」
「もーベタ惚れっすからねー」
「はあ……人間、ですよね?」
獣人達はほぼ全員人間を嫌っている。少し前の戦争で負けた事も大きいし、このせいで敬愛する王族のミシェル様を人間なんぞに嫁がせなければならなかった事も大きい。
「良いか?レジール様の前でシロウを差別するような事、絶対言うなとみんなに伝えろ。冗談じゃなく、ほんとに首が飛ぶぞ」
「シロウはほんとに特別っすから、大丈夫なだけどー……レジール様が離してくんないからなー。あのブラシテクの恩恵に与れる人は少ないかもぉー」
ラビアは使用人達に厳命し、チュタはやれやれと両手を上げた。
「この国がシロウに降伏するのも時間の問題っすね!」
「違いない!」
あはは!と大笑いしながら話すラビアとチュタだったが、周りの人々は怪訝な顔をするしかなかった。
シロウの恐ろしさを知るのはまだもう少し後の話だ。
×××××
「う、うわああああーーー!」
「あ、あなた?!あなた!お、おのれシロウ!恐ろしい男じゃ!」
「きゃー!シロウ!もっとぉ!」
「あは、はは……はあ」
×××××
「レジール、ミシェルのたっての願いとはいえ、ご苦労だったな」
「いえ、無事戻りましたし、良い物を持ち帰る事が出来ましたから」
「……」
大人しくレジールの横に座っている人間を国王であるレオセントは獅子の目で見つめていた。
確かにただの痩せた人間であるはずなのに、目が離せない。
「レジール」
レジールの匂いをこれでもかと肌に刷り込まれ、揃いのアクセサリーを付けさせ、レジール好みの服を着せている。
この人間は自分の物だとうざったいくらい主張するレジールの意図が全く掴めなかった。兄王の知るレジールは国で一番人間を嫌っている獣人だったはず。
「兄上。もう面倒なのでシロウの力をお見せします。王としての威厳を保ちたいなら、別室で。どうでも良いならこの場で」
「……では、別室で」
上記の大騒ぎである。
「うわあーーーー!」
「きゃーーーー!」
「きゃわーーーー!」
「……えっと?」
シロウの手にはお手入れ用のブラシが握られているだけで、床の上にライオンが3頭転がっていた。
「う、うう、恐ろしい……あまりの心地よさに人化が解けてしまったわ」
「な、なんなのですか!その人間は?!ああ!艶々のふさふさ!」
「シロウ!もっと!もっとやってぇー!」
国王のレオセント、王妃エリーゼ、息子のリオルドだった。
「ミシェル姉上があれだけ必死に保護を求めたか良くお分かりになったでしょう?あ、あと俺の嫁なので絶対に誰にも渡しません」
「よ、良く分かった。レジール……ああ、部下の前でなくて良かった。確かに威厳も何もかもをない姿になってしまったが……もう少し頼む」
「あらやだ!わたくしもお願いしますわ!」
「僕ー僕もーー!」
「うるさい!シロウは俺の物だって言ってるじゃないか!」
「あれ……?」
ブラシを握りしめたまま、シロウは途方に暮れた。
本当に人間が一人も居なかった。どこを見ても獣人、獣人、獣人!耳、耳、耳!尻尾!尻尾!尻尾!シロウは目をパチパチさせて、沢山の使用人達を見る。
「こら、シロウ。他の奴ら見てんじゃねー風呂に入ってから兄上に報告に行くぞ」
「は、はい」
レジールに抱っこされたままのシロウに選択の権利は一つも無かったが、いつの間にか靴もなかったので仕方もなかった。
「お帰りなさいませ、王弟殿下」
お迎えの人達に
「おう」
と、軽く挨拶だけして、レジールは早足に屋敷の中に入ってしまった。
「い、良いんですか?」
「エロい顔してるシロウを見られるのは嫌だ」
「えろ……?!」
降りる直前まで、馬車の中でナニゴトかしていた。シロウは赤くなって顔を覆う。指示もなく戸惑った人達は後ろからついて来たラビアや、チュタに助けを求めた。
すでに遠くなりつつあるし、獣人でもないシロウには、聞こえない話であったが。
「ラビア様、あの……」
「あー許してやって?宝物を誰にも見せたくないんだよー」
「もーベタ惚れっすからねー」
「はあ……人間、ですよね?」
獣人達はほぼ全員人間を嫌っている。少し前の戦争で負けた事も大きいし、このせいで敬愛する王族のミシェル様を人間なんぞに嫁がせなければならなかった事も大きい。
「良いか?レジール様の前でシロウを差別するような事、絶対言うなとみんなに伝えろ。冗談じゃなく、ほんとに首が飛ぶぞ」
「シロウはほんとに特別っすから、大丈夫なだけどー……レジール様が離してくんないからなー。あのブラシテクの恩恵に与れる人は少ないかもぉー」
ラビアは使用人達に厳命し、チュタはやれやれと両手を上げた。
「この国がシロウに降伏するのも時間の問題っすね!」
「違いない!」
あはは!と大笑いしながら話すラビアとチュタだったが、周りの人々は怪訝な顔をするしかなかった。
シロウの恐ろしさを知るのはまだもう少し後の話だ。
×××××
「う、うわああああーーー!」
「あ、あなた?!あなた!お、おのれシロウ!恐ろしい男じゃ!」
「きゃー!シロウ!もっとぉ!」
「あは、はは……はあ」
×××××
「レジール、ミシェルのたっての願いとはいえ、ご苦労だったな」
「いえ、無事戻りましたし、良い物を持ち帰る事が出来ましたから」
「……」
大人しくレジールの横に座っている人間を国王であるレオセントは獅子の目で見つめていた。
確かにただの痩せた人間であるはずなのに、目が離せない。
「レジール」
レジールの匂いをこれでもかと肌に刷り込まれ、揃いのアクセサリーを付けさせ、レジール好みの服を着せている。
この人間は自分の物だとうざったいくらい主張するレジールの意図が全く掴めなかった。兄王の知るレジールは国で一番人間を嫌っている獣人だったはず。
「兄上。もう面倒なのでシロウの力をお見せします。王としての威厳を保ちたいなら、別室で。どうでも良いならこの場で」
「……では、別室で」
上記の大騒ぎである。
「うわあーーーー!」
「きゃーーーー!」
「きゃわーーーー!」
「……えっと?」
シロウの手にはお手入れ用のブラシが握られているだけで、床の上にライオンが3頭転がっていた。
「う、うう、恐ろしい……あまりの心地よさに人化が解けてしまったわ」
「な、なんなのですか!その人間は?!ああ!艶々のふさふさ!」
「シロウ!もっと!もっとやってぇー!」
国王のレオセント、王妃エリーゼ、息子のリオルドだった。
「ミシェル姉上があれだけ必死に保護を求めたか良くお分かりになったでしょう?あ、あと俺の嫁なので絶対に誰にも渡しません」
「よ、良く分かった。レジール……ああ、部下の前でなくて良かった。確かに威厳も何もかもをない姿になってしまったが……もう少し頼む」
「あらやだ!わたくしもお願いしますわ!」
「僕ー僕もーー!」
「うるさい!シロウは俺の物だって言ってるじゃないか!」
「あれ……?」
ブラシを握りしめたまま、シロウは途方に暮れた。
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