【完結】この手なんの手、気になる手!

鏑木 うりこ

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動物に異様に好かれる手

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 偽装した馬車に乗り込み、レジールはため息をついた。

「では宿に向かいます」

「ああ」

 御者台に座っている男はネズミ獣人で手先がとても器用だ。がたん、と馬車は動き出し、レジールと熊のラビア、そしてシロウを乗せて走り始めた。

「なんとも目の離せない人間ですね、レジール様」

 ラビアがシロウを覗き込む。

「ああ、そうだな」

 どかりと座り込み、膝の上にはまだ意識を失ったままのシロウをしっかり乗せている。

「こんな痩せた人間のどこが良いのか、俺にはさっぱり分からんな」

「その割に大事に抱えていらっしゃいますよ?」

「……レオニーとミシェルが大切にしろと言うからだ!」

「ふーん?」

 ラビアに指摘され、レジールは少し声を荒げた。しかし、何故かこの人間を手放せないのだ。


「う……ん」

 シロウが目を覚ますと、知らない場所のようだった。ベッドに寝ている事は分かる。乱暴に扱われたのか、体のあちこちが少しだけ痛んだ。

「よう、起きたか」

「ひいっ!」

 声をかけられ、恐怖に引き攣った声が出たが、頭の上でひょこひょこ動く耳と、ぶらぶらと振られる尻尾、そしてレオニーやミシェルに似た顔のおかげでパニックを起こさずに済んだ。

「初めましてだな?俺の名はレジール。ミシェルの弟だ。ミシェルに頼まれてお前を俺達の国に連れて行く、いいな?」

「はい、よろしくお願いします」

 シロウはベッドの上で身を起こし、ペコリと頭を下げる。

「ああ、寝てて良い。酷い目にあったな。出発は明日の朝予定だ。ゆっくり寝ていろ」

「ありがとう……ございます……」

 そう言ったがシロウの顔がどんどん青ざめて行き、カタカタ震え出すのをレジールは気づいてしまった。

『思い出して、恐ろしくなったのか』

 そして気がつくと手を伸ばしていた。

「大丈夫だ、俺はレオニーやミシェルより強い」

「う、うう……っ」

 声を殺して泣くシロウの背中を、ガラにもなく優しく撫でてやっていた。


「レジール様が知らない人間にあんなに優しくするなんて、明日は嵐かも知らないな」

「違いない……って言いたいんだけど、あのシロウとか言う人間。すんごく気になるんだよなー。ちなみに俺もシロウの事、かなり好きかも」

 ラビアに言われ、ネズミのチュタはびっくりして飛び上がりそうだった。

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