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動物に異様に好かれる手
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「お願いです!レオニーが落ち着くまで側にいてください」
可哀想だとは思うが、シロウは今すぐにもジェス達の元に帰りたかった。ミシェルと侍女二人は獣人である。
ミシェルは獅子で、侍女のリッテは狼、フローはアライグマ。だからこの三人だけなら、何とか耐える事が出来る。
しかし人質同然とはいえ、国王の子供も産んだ側妃であるミシェルと同じ部屋に男のシロウがずっといる訳にはいかない。
「シロウ、お願いです!レオニーを助けて!」
必死で床に頭を擦り付けるミシェルを冷たく突き放す事は出来なかった。
部屋には見張りとして、数人の騎士が詰める。その騎士達からなるべく遠くの隅にシロウは小さくなって震えていた。
「おか……さま……」
「レオニー!」
翌日の昼近くに、レオニーの意識は戻った。
「良かった!良かった!レオニー!ありがとう、お母さまを置いて行かないでくれて!」
「おかあ、さま。ぼく、お母さまを、一人にしないよ……」
二人はしっかり抱き合い、涙を流す。
「もう……帰って、良いですよね?」
おずおずとシロウは部屋の隅から声をかける。
「レオニー、貴方を助けてくれたシロウですよ、さあ、シロウこちらに来て。レオニーに顔を見せてあげてください」
嫌々、シロウは侍女二人に背中を押された。立っている騎士達にギロリと睨まれたが、誰も微動だにしなかったし、文句も言わなかったので耐えた。
獣人であるミシェルが産んだ子であるが、たしかに現国王の血を引いている歴とした王子であるレオニーに、素性も知らぬ者を近づけて良いのか?
……レオニーは要らない子供なので、どうなっても良いと思っているのか。
「こ、こんにちは……」
俯いたまま、ベッドサイドまで来て挨拶をする。それしか出来ないから。それでもベッドに横たわったままのレオニーは懸命に体を動かす。
「レオニー!動いてはなりません!」
「大丈夫……です」
そして大きな青い瞳をいっぱいに開く。
「シロウ?」
尋ねられ、こくりと頷いた。
「僕、真っ暗な所にいたの。寒くて暑くて……苦しかった。お母さまの声も聞こえなくなってもう我慢出来ないって思ったの。そしたら目の前に真っ黒な人がいて、こっちへおいでって言ったの」
レオニーは思い出すように、ポツリポツリと喋りだす。
「怖くて、逃げ出したかったのに僕の足は少しも動かなかった。でもね、その時上から緑の光が降ってきて言ったんだ。二本足で走れないなら四本足で走りなさいって」
レオニーは自分の手を見る。今は人間の手と変わらない手だった。
「走れないよって僕は言ったの。だってライオンになった事一度もなかったんだもん。でもね、緑の光はふわふわして「もう君はライオンじゃないか」って教えてくれたんだ。僕はいつの間にかライオンになってた」
そしてキラキラとした笑顔をシロウに向ける。
「そしたらね、真っ暗がぱあって明るくなって、草原に変わったの!「走ろう」って誘ってくれたから、僕、いっぱいいっぱい走ったんだよ。あんなにいっぱい走ったの初めて!」
感触を思い出すかのように、レオニーは何度も手を開いたり閉じたりしている。
「そしたらね、遠くからお母さまの声が聞こえて来たの。緑の光も一緒に来てくれるって言うからお母さまの声のする方にいっぱい走ったんだよ」
まだ血色の良くない顔で、レオニーはシロウを見つめている。
「緑の光の声とシロウの声は一緒だよ。ありがとうシロウ。一緒に走ってくれて。僕、とっても楽しかったよ」
可哀想だとは思うが、シロウは今すぐにもジェス達の元に帰りたかった。ミシェルと侍女二人は獣人である。
ミシェルは獅子で、侍女のリッテは狼、フローはアライグマ。だからこの三人だけなら、何とか耐える事が出来る。
しかし人質同然とはいえ、国王の子供も産んだ側妃であるミシェルと同じ部屋に男のシロウがずっといる訳にはいかない。
「シロウ、お願いです!レオニーを助けて!」
必死で床に頭を擦り付けるミシェルを冷たく突き放す事は出来なかった。
部屋には見張りとして、数人の騎士が詰める。その騎士達からなるべく遠くの隅にシロウは小さくなって震えていた。
「おか……さま……」
「レオニー!」
翌日の昼近くに、レオニーの意識は戻った。
「良かった!良かった!レオニー!ありがとう、お母さまを置いて行かないでくれて!」
「おかあ、さま。ぼく、お母さまを、一人にしないよ……」
二人はしっかり抱き合い、涙を流す。
「もう……帰って、良いですよね?」
おずおずとシロウは部屋の隅から声をかける。
「レオニー、貴方を助けてくれたシロウですよ、さあ、シロウこちらに来て。レオニーに顔を見せてあげてください」
嫌々、シロウは侍女二人に背中を押された。立っている騎士達にギロリと睨まれたが、誰も微動だにしなかったし、文句も言わなかったので耐えた。
獣人であるミシェルが産んだ子であるが、たしかに現国王の血を引いている歴とした王子であるレオニーに、素性も知らぬ者を近づけて良いのか?
……レオニーは要らない子供なので、どうなっても良いと思っているのか。
「こ、こんにちは……」
俯いたまま、ベッドサイドまで来て挨拶をする。それしか出来ないから。それでもベッドに横たわったままのレオニーは懸命に体を動かす。
「レオニー!動いてはなりません!」
「大丈夫……です」
そして大きな青い瞳をいっぱいに開く。
「シロウ?」
尋ねられ、こくりと頷いた。
「僕、真っ暗な所にいたの。寒くて暑くて……苦しかった。お母さまの声も聞こえなくなってもう我慢出来ないって思ったの。そしたら目の前に真っ黒な人がいて、こっちへおいでって言ったの」
レオニーは思い出すように、ポツリポツリと喋りだす。
「怖くて、逃げ出したかったのに僕の足は少しも動かなかった。でもね、その時上から緑の光が降ってきて言ったんだ。二本足で走れないなら四本足で走りなさいって」
レオニーは自分の手を見る。今は人間の手と変わらない手だった。
「走れないよって僕は言ったの。だってライオンになった事一度もなかったんだもん。でもね、緑の光はふわふわして「もう君はライオンじゃないか」って教えてくれたんだ。僕はいつの間にかライオンになってた」
そしてキラキラとした笑顔をシロウに向ける。
「そしたらね、真っ暗がぱあって明るくなって、草原に変わったの!「走ろう」って誘ってくれたから、僕、いっぱいいっぱい走ったんだよ。あんなにいっぱい走ったの初めて!」
感触を思い出すかのように、レオニーは何度も手を開いたり閉じたりしている。
「そしたらね、遠くからお母さまの声が聞こえて来たの。緑の光も一緒に来てくれるって言うからお母さまの声のする方にいっぱい走ったんだよ」
まだ血色の良くない顔で、レオニーはシロウを見つめている。
「緑の光の声とシロウの声は一緒だよ。ありがとうシロウ。一緒に走ってくれて。僕、とっても楽しかったよ」
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