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オマケ リサイクル再び
7 とても良い匂いだ(フィス視点)
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「あの方は……」
「どうした、フィス。お前が他人に興味を持つなんて珍しい」
「父上、黙って。ですから、あの方はどなたですか?先ほどヴェールを被った……」
「わたくしの娘、リーシャですわ」
いつの間にか国王カリウスの傍に引き寄せられいた、美しい女性が一歩歩み出て、頭を下げる。この人がアルフローラ妃。国王カリウスの寵愛を一身に受ける女神と言われる女性か。確かにアルフローラさまは美しい、でも私の心を震わせるのはこの人ではない。
この人からは……なんだ、母親が息子に向ける親愛みたいなものを感じるし、私もこの人の事を母として大切にしたいそう思うのだ。
「あの」
「行ってくださいますか?あの子はわたくしの娘なのです。まだ夜会も慣れておりませぬ」
「勿論ですとも」
賓客の皇帝の息子を会場からたたきだすような台詞。だがしかし、今の私にはそれが必要だ。それなのに空気が読めぬ我が父が余計な事を口にする。
「フィス、お前はここにいろ、人ならば誰か……」
「黙れクソ父上様。マタタビ食わせますよ」「!?」
私の上着のポケットにはマタタビの木がいつも入っている。毎日持ち歩く、何故か分からないけれどそうしないといけない気がしている。愛しい人でも釣りあげる用なのかと思っていたが、あまり頭の良くない父上を牽制するのにちょうどいいと最近気が付いた。
獅子の獣人である父はマタタビに滅法弱い。反して狼の獣人である私にはあまり効果がない。
「少し失礼します」
お辞儀をして踵を返す。スン、と一つ鼻を鳴らせばあの匂いを辿れそうだ。……とてもいい匂いだった、とても大好きな、もう……これはたまらない。早くこの手に捕まえなければ。
「あの……フィサリス第二皇子!」
臭い。絡みつくような悪臭と血の匂いに膿んだどす黒い感情が渦巻く女たちが近寄ってくる。ああ、吐き気がする。これは私に害しかなさない。早く排除しないと、鼻が腐りそうだ。
「これはこれは……正妃様、側妃様と王女様ではございませんか」
だが、足を止めて対応しなければならない。あの匂いの糸はまだたどれるが、目の前の悪臭はきつい。
「あの!フィサリス様はまだ婚約者を決めておられないとか?」
「ええ」
どんな高貴な身分の女性に会っても心が「これは違う」と否定し続ける。だから婚約者はいないのだが
「宜しければ我が娘たちとお話などしてみませんか」「お断りです」
「え?」
あ、しまった、本音が。
「どうした、フィス。これだけの美女が揃っておればお前とて気に居る女性もおろう?誰かいたなら帝国に連れ帰っても良いのだぞ?」
「まあ、情熱的ですことオホホ……」
うるさいクソ父上が!こんな見てくれも最悪なやつら連れて帰る訳ないだろう。どうも父上は脳筋と言うか本能に従いすぎていて駄目だ。皇帝たろうものが、「無理やりヤれば良い」なんて考えだから、問題を起こす。最低だ、私は絶対にそんなことはしない。そう約束したから。
誰と?分からない……。
話に割り込んできた父上を盾に、するりと人混みを抜ける。ああ、いい匂い、食べてしまいたいくらいいい匂いの人間を追う。
「ん……」
途中でとても似ているが、少し違う人間と合流している。こちらも好みの匂いだけれど、やはり最初の方がよりおいしそうだ。先ほどどぶ沼より臭くて醜い匂いを嗅いだから余計に好ましい。
「どこへ……ふふ、あっちか?……ん」
またどぶ沼の臭いが混じり出した。私は少し足を早める。
「どうした、フィス。お前が他人に興味を持つなんて珍しい」
「父上、黙って。ですから、あの方はどなたですか?先ほどヴェールを被った……」
「わたくしの娘、リーシャですわ」
いつの間にか国王カリウスの傍に引き寄せられいた、美しい女性が一歩歩み出て、頭を下げる。この人がアルフローラ妃。国王カリウスの寵愛を一身に受ける女神と言われる女性か。確かにアルフローラさまは美しい、でも私の心を震わせるのはこの人ではない。
この人からは……なんだ、母親が息子に向ける親愛みたいなものを感じるし、私もこの人の事を母として大切にしたいそう思うのだ。
「あの」
「行ってくださいますか?あの子はわたくしの娘なのです。まだ夜会も慣れておりませぬ」
「勿論ですとも」
賓客の皇帝の息子を会場からたたきだすような台詞。だがしかし、今の私にはそれが必要だ。それなのに空気が読めぬ我が父が余計な事を口にする。
「フィス、お前はここにいろ、人ならば誰か……」
「黙れクソ父上様。マタタビ食わせますよ」「!?」
私の上着のポケットにはマタタビの木がいつも入っている。毎日持ち歩く、何故か分からないけれどそうしないといけない気がしている。愛しい人でも釣りあげる用なのかと思っていたが、あまり頭の良くない父上を牽制するのにちょうどいいと最近気が付いた。
獅子の獣人である父はマタタビに滅法弱い。反して狼の獣人である私にはあまり効果がない。
「少し失礼します」
お辞儀をして踵を返す。スン、と一つ鼻を鳴らせばあの匂いを辿れそうだ。……とてもいい匂いだった、とても大好きな、もう……これはたまらない。早くこの手に捕まえなければ。
「あの……フィサリス第二皇子!」
臭い。絡みつくような悪臭と血の匂いに膿んだどす黒い感情が渦巻く女たちが近寄ってくる。ああ、吐き気がする。これは私に害しかなさない。早く排除しないと、鼻が腐りそうだ。
「これはこれは……正妃様、側妃様と王女様ではございませんか」
だが、足を止めて対応しなければならない。あの匂いの糸はまだたどれるが、目の前の悪臭はきつい。
「あの!フィサリス様はまだ婚約者を決めておられないとか?」
「ええ」
どんな高貴な身分の女性に会っても心が「これは違う」と否定し続ける。だから婚約者はいないのだが
「宜しければ我が娘たちとお話などしてみませんか」「お断りです」
「え?」
あ、しまった、本音が。
「どうした、フィス。これだけの美女が揃っておればお前とて気に居る女性もおろう?誰かいたなら帝国に連れ帰っても良いのだぞ?」
「まあ、情熱的ですことオホホ……」
うるさいクソ父上が!こんな見てくれも最悪なやつら連れて帰る訳ないだろう。どうも父上は脳筋と言うか本能に従いすぎていて駄目だ。皇帝たろうものが、「無理やりヤれば良い」なんて考えだから、問題を起こす。最低だ、私は絶対にそんなことはしない。そう約束したから。
誰と?分からない……。
話に割り込んできた父上を盾に、するりと人混みを抜ける。ああ、いい匂い、食べてしまいたいくらいいい匂いの人間を追う。
「ん……」
途中でとても似ているが、少し違う人間と合流している。こちらも好みの匂いだけれど、やはり最初の方がよりおいしそうだ。先ほどどぶ沼より臭くて醜い匂いを嗅いだから余計に好ましい。
「どこへ……ふふ、あっちか?……ん」
またどぶ沼の臭いが混じり出した。私は少し足を早める。
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