【完結】廃品を直して売る俺は娼婦の息子の奴隷商。聖女でも王子でもないからほっといてくれ!

鏑木 うりこ

文字の大きさ
上 下
37 / 113

37 それは眼鏡が撒いた餌

しおりを挟む
 「聖女姫」の存在はあり得ない速度で大陸中に広がった。しかも何の婉曲もされる事なく、正確に。

「なあ聞いたか?長年皇帝を騙していた「切断公爵」の被害者を救う姫の話」

「ああ!聞いたぜ。奇跡の力で取れた手や足を治すんだろう?」

 無論、眼鏡と脳筋の仕業である。彼らの失う前の人脈、人望、人材全てを活かして、情報は広げられた。

「政治は腐敗するもの。しかし、最初から腐った部分を削り落として運用すれば幾らか長持ちするのではないか?」

「理想の政治論ですね。やってみたいと思っておりましたが」

「実現……出来ますね」

 眼鏡の眼鏡は光っぱなしだし

「理想の君主といえば、理想なんだよなぁ」

「カリウス皇帝は確かに強い」

「しかも金にも権力にも執着はない。執着しているのはただ一人の女性だけ……跡取り息子もこんなんだし」

「こんなんで悪かったな!!」

 こんなんが、清純可憐な品の良いドレスに身を包んでガニ股で現れましたよ!

「リーヤ様は男性なのに、肌の艶も良いですし、お顔立ちも可愛らしいですから、お化粧も映えますね!」

「流石に手は荒れていらっしゃいますから、ケアしましょうね」

 事情を知った上で「皇帝の一人娘・聖女エリスリーヤ姫」に仕えてくれている侍女達だ。どこぞの良家の娘さんらしく、眼鏡がよりをかけて選んで来た。

「なるべく出身地も偏らないよう、満遍なく」

 眼鏡達は本当に徹底していて

「自分が元いた国ではい所の者を連れてくる事にしています……貴族の思惑が絡まない理想的な政治を少しでも楽しみたいんです」

 楽しみたい、そう言った。きっとどの眼鏡もどの眼鏡も、何度も自分の良かれと思って提案した物を「貴族の思惑」で潰されたんだろうな。金の為か、薄っぺらい名誉の為から。そんなもん犬も食わねーよ、と思うのは俺が名誉名声に興味がないからだろうな。
 フローラ傭兵団は大抵、カリウス皇帝麾下に入った。自由を求める者はちんこ治して出て行った。

「見聞を広めると言ってくれや。舌戦がしたくなったら帰って来る」

 なーんていう者もいたし

「もっと強い奴と闘いたい!が、ここが一番強者が集まっている気がする。大会にゃ間に合うように戻って来る」

 って奴もいた。なんだ、結局帰って来るつもりなのか。お前らの家かよ!

 それで俺の仕事だが、客寄せパンダ並みだ。城からわかりやすい馬車で数日に一回、近くの治療院に出向く。
 勿論道すがら手を振ることも忘れない。笑顔を貼り付けながら、

「もっと上品に!」

「限界だ馬鹿っ!」

 馬車の中のやり取りは、無邪気に手を振る子供達には聞かせられない。
 治療院に着くと特別治療室に入り、厳選されたデズモンドの被害者を治療してゆく。デズモンドの被害者とは言え「使えない貴族」は後回し、もしくは治療されない事もある。

「ゴルド国王子は……」

「すまん!その国出身なんだが、ガラク王子ならちんこは治す必要ない!あいつもう20人は子供がいるクズだ」

「……そうだな」「もう良いな」

 命は助けるし、手足も治すが「治らなかった」と、方便を使う事もある。

「申し訳、ございません……」

「な、な、な、な!貴様は!聖女であろう!私を!私を元の体にぃーーー!」

「きゃあっ!」

 どうだ?この「きゃあ!」物凄く練習したんだ……演技派の眼鏡の指導は厳しかった。

「聖女殿!」「姫殿下!」「お助けしろ!」

 あっという間に「皇帝近衛騎士団」の脳筋腕利きが現れて、元ゴルド国の代表になりそうだったガラク元王子は拘束される。

「エリスリーヤ様は治してくださっているのに!手足が戻っただけでも、感謝をすべきだろう!」

「元王子だからってなんて奴!」

 治療院に来ていた国民達も怒りが溢れている。これも全部眼鏡の策略通りなんだから、眼鏡って本当に怖い。

 眼鏡の仕掛けた罠通り、元ゴルド国、現ゴルド領は王族が代表にはならず、国の為に粉骨した辺境伯が招かれ、領主に据えられたらしい。

「裏金が大量に見つかり、指示を仰ぎたい」

 それくらいしっかり中央に報告する清廉な人物であったのでゴルド領は次第に浄化されて行った。
 
しおりを挟む
感想 205

あなたにおすすめの小説

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

処理中です...